第23話 異星人ファミリー
千夜はその時目にした光景を、今後忘れることはないだろう。
小さな球体から伸びるようにして、空中に大きな横長の映像が映し出されていた。まるで映写機のようだと千夜は思ったが、そこにスクリーンはなく、明瞭な映像は宙に固定されたかのように存在しているのだ。
画面に映るのは、奇天烈な服装の複数の男女。全員が千夜に注目していた。
――テレビ電話?
おそらく先程聞こえてきた会話は、彼らのものなのだろう。
咄嗟に千夜が推測できたことは、ここまでだった。
「千夜ちゃん……!」
振り返ったギーの目は、大きく見開かれている。そしてその色は、千夜が見知った彼のものとは違っていた。
――銀色だ。名前の通りの綺麗な銀色
見間違えることはなく、確かに千夜のよく知るチョコレート屋の店員だった。しかし目の色、髪の色、そして肌の色は、いつもの彼とは異なっている。
その色彩は画面の向こうの人々とも共通していて、その中の何人かは顔つきにも似たところがあった。
「千夜ちゃん。これは、その」
大いに狼狽えている様子だった。その顔色は、みるみるうちに蒼白になっていく。
「違うんだ……! 騙してたわけじゃ……いや、結果的にそうなってしまっているのかもしれない……でも俺は……」
銀色の瞳に光るものが見えて、それが涙溜まりなのだと分かって千夜は息を飲む。よく知る男の顔の上に、見たことのない表情が広がっていた。
「この子が千夜ちゃんなの?」
大映しの画面の向こうから声がした。その音声にはガサガサという雑音が混ざっていたが、声の主は年若い少女の特徴を持っていることが分かる。好奇心に弾む口調である。
「へー。歴代彼女達とは、全っ然違うタイプだね」
「余計なこと言うな、ミィ!」
小学生くらいの見た目の少女に向かって、ギーは怒鳴る。
「フォローしてあげようと思ったのにぃ。それだけギー兄が本気なのかなぁって」
「ま、初めて見るよなぁ。ギーが女のことで情けない姿晒すのは」
「そうね。でもママはこういう感じの子好きよ。ウンウン。素朴でいいじゃない。フィーもギーも、兄弟揃って女の趣味が微妙っていつも思ってたから」
「え、俺も?」
「お前ら派手好きだからなぁ。なんで父さんのセンスが遺伝しなかったかなぁ」
「あら。私が地味な女ってこと? それともあなたの好みは別ってこと?」
「ハッ……! いやいやいやいや! かーちゃん、これは言葉の綾ってもので……」
賑やかになる画面の向こうとは対極的に、千夜とギーはなかなか言葉を紡げないでいた。二人とも画面の方を向いていて、お互いの目線は結びつかない。
千夜の頭は混乱していたが、かろうじて拾って繋げられる情報を整理し始めた。
「えっと……銀くんの家族……? かな……?」
「ピンポン! ピンポン! せいかーい!」
Vサインをする少女が、千夜にニコニコ笑いかけている。彼女は鮮やかな蛍光色のワンピースを着ていて、画面の中の他の人物達も、皆同じような色合いの服装である。千夜の目はチカチカしてきた。
「……妹のミィ。兄のフィー。そして両親。左端にいるのが、イトウさんだよ」
「
ぼんやりした単調な声で、ギーが画面上の人物達を千夜に紹介した。
千夜にとっては、最後の一人だけ妙に耳馴染みのある名前だったため、無意識に復唱していた。そして名前を呼んだつもりはなかったが、イトウと紹介された中年男性が次に口を開いのだった。
「あー、そりゃそうだよね。そんな反応になるわな。地球人は我々のことを知らないんだから。すみませんね、お嬢さん。俺もこういうケース久々なので、対応マニュアル忘れてて……えーっと……」
イトウは身につけていた腕時計を片手で操作し始めた。スマートウォッチかと千夜は思ったが、きっと違うのだろうとも考えた。自分の理解や常識を超えた何かが展開されているのだと、何となく把握しつつあったのだ。
そしてそんな千夜の直感は、外れていなかった。
「たまにあるんだよ。地球人がうっかりエスリの存在を知ってしまう事故ってのが。お嬢さん……佐藤千夜さんだったね。びっくりしたかもしれないけど、怖いことはないよ。ちゃんと説明するからね……えーっと、とりあえずここからかな。君は今、異星人を前にしてる。ここにいる人間……君以外の人間はみんな、君から見ると異星人なんだよ。もちろん、そこにいるギー……銀くんもね」
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