第6話 試験

 エスリとは、惑星の名前である。地球と同じ天の川銀河の中に存在し、知的生命体(人類)が住んでいる。そもそも遠い過去にエスリから地球に移住した一部の人間が現在の地球人の祖先なのだが、そんな歴史はもう地球人の誰も覚えていない。


 しかし、エスリ人は覚えている。高度な科学技術を有するエスリの人々は、度々地球を訪れた。もちろん地球人に知られることなく。

 エスリ人の地球来訪の目的は、多くが観光である。日本人が海外旅行に出かける感覚と、そう変わらない。


 そして今。

地球を初めて訪れたギーも、生粋のエスリ男性だった。

エスリと地球の時間の経過速度にはズレがあるが、彼は地球の時間の流れに置き換えると、大体十七歳。エスリではこれくらいの年齢で成人とされる。新成人たちは正式な成人認定を得るために、ある試験を受験するのだ。


――その試験とは、『地球人の願望を、一つ叶えてくること』


 地球で流星群が観測される夜に、流れ星に紛れて地球へ来訪する。地球上の誰かの願い事を、『エスリ新成人サポートセンター』の支援を得ながら成就させるのだ。(先程のギーの会話相手は、彼の担当職員である。)


 願望を叶えた地球人からは、特殊なエネルギーが発生する。地球人には見えないが、エスリ人にとってそのエネルギーは大変貴重なものだった。大きなものを持ち帰れば、母星に多大に貢献したとして、称賛の対象にもなる。成人認定と同時に巨大なエネルギーを持ち帰ると、それだけで高い社会的地位ステータスを得られるのだ。


――願望が強いものであればあるほど、得られるエネルギーも巨大だ


 ギーがたまたま受信した千夜の願望は、それはそれは強いものだった。しかもその内容は、年頃の少女にありがちな可愛いものである。


――楽勝、楽勝


 ギーは鼻歌を歌っていた。こんな都合の良い願望をキャッチできるなんて、なんてツイているのだろう。なんせ彼は、地元エスリでは恋人を途切れさせたことのない、自他共に認めるモテ男だった。女の子の扱い方なんて、知り尽くしている。


――恋に堕とすなんて、簡単さ。しかも相手は小娘。ちょろいね


 この一言をすぐに撤回しなければいけなくなるなんて、この時ギーは微塵も考えていなかった。

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