第7話 重大なこと

「あれ? 閉まってる」


 放課後。

千夜は仲良しの友人二人を伴って、『チョコレート専門店GIIギー』の前に立っていた。しかしそこには、古びたシャッターが降ろされている。看板も出ていない。


「もう閉めちゃったの? まだ四時にもなってないよ」

「開店初日なのにね」


 友人たちの訝しむ声に、場所を間違えたかと辺りを見回す。そんなはずはない。


「また明日来てみよう」


 素敵な場所を発見した喜びを、友人とも共有したかったのだが。閉まっているのなら仕方ない。千夜達は帰路に戻り始めた。


「だけど、良かったね千夜」

「失恋の傷心が、すっかり回復したんじゃない?」

「う、うん! そりゃあもう!」


 少々焦ったのは、フラれたという事実を今の今まで忘れていたからだった。それ程今朝の出来事は、千夜にとって規格外の衝撃事件だったのだ。


「美味しかったね、ここのチョコレート」

「そうでしょ! こんなに美味しいチョコ、中々出会えないよ」


 一口食べただけで、千夜はすっかりあの店のチョコに魅了されていた。一目惚れならぬ、一口惚れである。きっと今夜、夢にも出てくるに違いない。


「しつこくないのに、しっかり甘い。濃厚なのに、嫌味じゃない。不思議なの。どんどん味わいたくなる。もっともっと知りたくなる」

「本当に千夜ってば、チョコバカだよねー」

「チ・ョ・コのチヨだからね」


 語りだした千夜に「また始まった」と笑い出した友人達だったが、当の本人はとある深刻な事実に気づいて、「どうしよう!」と立ち止まった。


「どうしたの」

「重大なことに気づいちゃった」

「忘れ物?」


 青ざめる千夜を心配した友人達だったが、次の彼女の言葉に呆れ返ることになるのだった。


「私、もう他のチョコに浮気できないかも!」

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