第5話 降り立った異星人

 時は少し遡る。

千夜と美紀が流星群を見た夜。姉妹が眠りについた頃。

 彼女たちの住む町の、小高い丘の上。そこは小さな自然公園で、街灯がないので夜には暗闇に包まれる。木々に覆われた深い闇の中、ぼんやりと白く光るものがあった。


「……こちらギー。こちらギー……無事地球テラに到着。通信テストを行う。感度はどう? サポートセンター、応答せよ」


 男の声だった。白い光は彼がてのひらに乗せた、小さな球体から発せられている。紙を丸めるような雑音混じりの別の声が、球体から聞こえてきた。


「こちらサポートセンター。感度良好。どうぞ」

「……こっちは雑音が混ざってる」

「通信に雑音が混ざるのは、仕方ないさ。エスリから地球まで、結構な距離だもの。どう、ギー? 地球に降り立った感想は?」

「重力は、俺達の星エスリより少し軽いのか。空気は良い。好きな香りだ」

「変わってるな。地球の香りは好みじゃないって人が多いのに。で、ターゲットは決めた?」

「ああ。降りようとしたところで、ちょうどいい願望をキャッチした」

「へえ。もう見つけたのか。それは幸先が良い」

「しかも楽勝そうだ」

「……あんまり楽観視し過ぎるなよ。人の感情は複雑だ」

「平気さ。すぐに終わる。一番乗りで試験をパスしてやる」


 会話が一段落すると、ギーは立ち上がり、光る球体を軽く指先で弾いた。一瞬の後、彼の外見と服装が変化する。


「この辺りの一般的な人間の見た目は、こんな感じか」


 ふーんとつぶやきながら、自身を見下ろしてみる。


「地味じゃない?」

「あんまり目立つな」

「ちょっとは印象に残る方が、望ましいんだけど」

「印象?」

「第一印象って大切だろ」

「お前、一体どんな願望を受信したんだよ?」


 聞こえた質問に、ギーは答えた。


「『チョコと同じくらい、誰かを好きになってみたい』だそうだ」


 つい先程宇宙船が受信した、この星の住人の願望だった。


「……恋愛か? こりゃまた難しそうな願いを……」


 呆れ声に、ギーは笑う。


「簡単だ。俺に惚れさせればいい。こういうのは得意だ」

「……へぇへぇ。この女ったらしが」


 聞こえてきた悪態は無視して、ギーはさしあたり必要な物品の補給を依頼し始めた。


「チョコ……というのは、この星の菓子の名称なんだな。構成物を分析してくれ」

「了解」


 通信が一旦途切れる。

ギーは町へ向かって歩き出した。

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