第9話 金策狩り 初日③

 さてここからがクルト達の本気の見せ所VS五体のDランクモンスターホワイトタイガーさんだ。

 ホワイトタイガーは基本一匹で行動するためDランク相当と認定されているが……

 五体が同時に連携でもした日には?どうなっちゃうんだってばよ?


 僕ワクワクが止まらないです。


「五体はおおいなあぁ……けど僕らもSランクを目指す身、これくらいで泣き言はいえないね。」


「五体はおおいよね、でも私たちもつよくなったから……」


 ゆるふわ可愛い妹的ターシャちゃん頑張れ


「そうだねターシャも僕もつよくなった。じゃあ五体のうち一番左のを二人で全力、そのあとは三体引き付けるから一体づつターシャが処理する感じでいこう。」


「兄さん少しのケガは我慢してね……回復より処理優先することになると思うの……」


 といって二人は駆け出す、スキルを行使しながら。


 『スモークスクリーン』

 クルトが煙幕を張る。


 『シャドウステップ』

 ターシャが気配を消して走る。


 煙幕邪魔なんだが?

 その上でスキルまで使って気配消されたんじゃターシャの動きが見えんじゃないか。

 こっそり観戦してる俺への配慮の欠ける行動だ-20点だな!


 しかたないので『遊び人』スキルで対応する。

 

 『覗き見』

 

 遊び人固有スキル『覗き見』:使用中、視力が強化され遠くや見えづらいものを見れるようになる。

 おまけとして、見られたくないものを覗き見までできるので、万一ばれたらまずい自殺スキル。

 かなり高度な気配遮断や煙幕を張られても、俺の視線から逃れることはできない!

 また逆に高度な気配感知能力、スキルや魔法を使うかしない限り、俺の視線に気が付くことはできない。


 一度見失ったターシャを『覗き見』で強化した視力で探す。

 そこだ!


 「えっ?視線を感じる……これはエラムさん?」


 ターシャに覗き見気づかれた!

 俺殺されちゃうん?

 

 でも今はもう俺の視線に気を使ってる時ではない。

 すでにホワイトタイガーとの距離は10メートルもない、中距離攻撃を仕掛けるならば適度な距離だ。


 だが二人は中距離攻撃は選択せず、煙幕を活用し左右の死角から一体のホワイトタイガーを挟撃する態勢に入る。

 煙幕に身を隠しながらクルトが攻撃態勢に入った瞬間ホワイトタイガーも野生の感でクルトの存在に気が付き、反撃の為口を開いて噛み殺そうとする。

 クルトvsホワイトタイガー決着やいかに?

 

 『五月雨斬り』

 

 二人の決着がつく前に、気配を消し煙幕に潜みながら走っていたターシャの攻撃がホワイトタイガーさんの右目に炸裂した。

 ホワイトタイガーの意識は完全にクルトにいっており、死角からの渾身の一撃だ。

 一撃いれると、同じ場所に剣気が五回飛ぶスキルのようで、ホワイトタイガーの右目は使い物に成らなくなる。

 というか、ほぼ瀕死に近い状態にもっていっている、強いぞターシャ!かわいいぞターシャ!


 『クリティカルスマッシュ』


 ターシャの不意打ちで怯んだホワイトタイガーの首筋にクルトの攻撃が突き刺さり、防御力のある体毛を切り裂き首筋までナイフが到達し、ホワイトタイガーはその場に倒れこむ!

 強いぞクルト!かわいいぞクルト!


 さすが双子の兄妹、良き連携しておりますな。

 よくやった。

 だが明らかに『重戦士』と『回復術師』の戦い方ではない、『偵察系』職業の動きでありスキルだ。

 自己紹介から嘘をつくなんでひどいんだぜ?

 最近PTも追放されたばかりだし、人間不信一直線だぞ……

 って俺も『賢者』の適性があることは伝えていなかったから同罪でした。


「まいったな」

「まいったわ……」


 ん?計画は順調に遂行しているはずだが?


「隠しナイフじゃ強度が足りなかったかな……」

「ナイフ一本だとこのスタイルは厳しいよね……」


 二人とも強度の弱い隠しナイフにスキルを思いっきり使ったので、ナイフが破損してしまったようだ。


「『重戦士』と『回復術師』のスタイルに戻そうか。」

「そうだね、エラムさんもまだ観戦モードだし、こっちのスタイルも見せちゃった方がいいと思うの。」


 そろそろ手助けする頃合いかと、思っていたが二人がやる気ならしょうがない!

 見せてもらおうじゃないかそっちのスタイルとやらをな!

 君たちの戦いはまだまだこれからだ。


「がんばれ!万一の時は助けるからー」


 俺は隠れていてもしょうがないので、木陰に横になりながら二人に声をかける。

 遊び人さんは朝が早かったので眠いのだ……

 マジ寝しちゃったらごめんね。


 二人はバックステップで一瞬で元の位置に戻ると、突き刺していたロングソードと杖を取る。


 『アイアンスキン』

 クルトが自分の防御力をあげるスキルを発動させる。


 『アーマーブースト』

 ターシャが補助魔法を使いさらにクルトの防御力をあげる。


 「よしいってくる!」

 「うん!回復と補助防御はまかせて!」


 といって笑顔でホワイトタイガー四体に突っ込んでいくクルト君……

 可愛い妹を後衛に置き、自ら最前線に突っ込む14歳、かたや昼寝しちゃいそうな19歳の俺……

 あのー今更だけどなにか手伝おうか?


 ターシャは防御アップの補助魔法を使い終わるとすぐ次の魔法の準備に入る。

 ターシャは左手を前方に突きだし魔法を発動させる。

 

 『ホーリーシールド』


 ターシャの前に魔力でできた頑強な盾が浮かび上がり、クルトを追いかけていく。

 

 盾とクルトは互いに連携しつつ、ホワイトタイガーとの距離を詰める。

 二体のホワイトタイガーが警戒しつつも、クルト目掛けて襲い掛かっていく、二体による右前足と左前足を使った薙ぎ払いだ。

 片方をクルトはロングソードで防ぐが、片方の前足がクルトにさらに襲い掛かる!


 なんのために付いてきた盾だと思う?クルトを守るためだ。

 クルトに被弾する前に盾がクルトを守り、最初のホワイトタイガーの攻撃は無事に乗り切る、さらに次々に四体のホワイトタイガーから攻撃がくるが、盾と連携し時に剣で、時には持ち前の回避能力で回避していくしのぎつつ、慎重にロングソードでダメージを稼いでいく。

 クルトも三体同時の攻撃には避けきれず、ちょいちょい被弾するが、その都度ターシャから回復魔法が飛んでいく。


 『重戦士』の基本は、重い防御力の高い装備を整えて、タンクとしてどっしり構えて戦う横綱相撲が基本スタイルだが、あえて重装備させることなく、防具の分は致命傷にならないように防御力アップのスキルと魔法でカバーし、機動力で回避する回避系タンクとして役割をさせる。

 さらに、ターシャが発動した盾魔法と連携することにより、被弾を減らしていく、命を大切に、賢明な戦闘スタイルだ。

 

 うーむ、よく考えられた双子ならではの悪くない連携だね、80点!

 改善点がまだまだある、エラムお兄ちゃんさっきの連携の方が好きだぞ。

 まあ、あっちは武器壊れてしまったから仕方ないのだけどもね……


 改善すべきはダメージソースだ、ターシャは盾の制御と回復魔法の発動で一杯一杯になっており、攻撃参加できていない、その分クルトに負担が行き、被弾し回復魔法が必要となりターシャの余裕がなくなる悪循環だ。

 この場合ターシャの盾魔法を諦め、一時的に三体をクルトが受け持ち、一体をターシャが確実に倒していくのがベストだろう。

 

 さらに戦闘が五分ほど続いたところで形勢はクルト優位になってきた、クルトが着実にホワイトタイガーに傷を負わせていった結果、機動力が落ちクルトが攻撃できる場面が増えていったのだ。

 このまま一気に行けるか?とターシャの方を見ると……かなり厳しそうだ。


「ターシャ、魔力はあとどれくらい残ってるんだい?」

 ターシャの残魔力総量は俺も魔力感知で把握しているが、聞いてみる。


「残り一割くらいですっ!」

 正直に教えてくれるターシャ、強がりません勝つまでは、の精神好きです。


「その後のプランは?何か策はあるの?」

 さらに秘策があるのか探ってみる。


「マジックポーションを飲みますっ」

 マジックポーションはMPを少し回復してくれる回復薬だが、MP回復系のポーションは総じて値段が高い。

 ホワイトタイガー五体倒しても赤字になってしまうじゃない?

 命がけで赤字の狩りとかしちゃいけないって師匠的存在におそわらなかったかな?


 二人の実力は分かった14歳にしては出来過ぎってくらい出来るいい子たちだ!

 って俺は別に二人の試験官でもなんでもなかった件、俺がこの町で冒険者していいか二人に試験されてる側だった……

 そろそろ助けるか?もう少し窮地を経験させる?かわいい子ほど怪我をさせろっていうしなあ。


「そろそろ手助けしようかっ?」

 ターシャに必要か聞いてみる。


「そろそろっていうかっもう少し早く助けてくれるとたすかりますっ」

 時すでに遅し!

 ターシャがちょっと怒り気味なのは気のせいだよな?


「ターシャちゃん……怒ってます?」

 

 怒ってませんっ必死なだけっ!お兄ちゃんの命の危機ですっ話かけないでくださいっ気が散っちゃいます!」

 

 あっ……これ本気で怒ってるやつだ!

 女の子は悲しませても怒らせてもいけない、いつも優しい君でいてほしい!


「じゃあ手助けするけど、僕の秘密は秘密にしてくれるかな?」


 もうターシャから返事はない、無言でうなずきながら必死で盾でクルトへの攻撃を防いでいる。


 遊びの時間は終わりのようだ!

 さあ次の遊びを始めよう、同じ遊びばかりじゃあきちゃうもんね!

 クルト、ターシャ、ホワイタイガーさん、退屈させて御免ね!


 そして俺は同じ過ちを繰り返す……

 

「我が手に宿る、地獄の炎よ! 今、敵が侵略し、蹂躙せんとすこの地にて、汝の力を示せ! 全てを焼き尽くし、侵略者を再生の為の贄とせよ!時はきたり、 炎よ、その熱き輝きを放ち 敵を滅ぼし、勝利をもたらせ!今ここに解き放たれん! 地獄の炎よ燃え上がれ! インフェルノ!!」


 いけ炎系特級魔法インフェルノ!二人に我が力を見せつけるのだ。

 フハハハハ!ヒャヒャヒャヒャ!

 

 しまった!この魔法使うと森が焼け野原になるんだった……

 

 …………

 しまった!

 もっと何か大事なことを忘れた気がする……

 ってクルトへの事前通告しわすれた!

 『クルト!今から魔法を詠唱するから完了する直前に全力で後方に逃げてくれ!』

 どーしてこの一言をいえなかったのか……


 突如襲い来る地獄の炎、クルトは発動と同時にその絶望的な魔力を感じ取り後退を始めるが……甘い!

 宮廷魔術師が放つ特級魔法を感知した後から逃げ出して逃げ切れると思うなよ……

 こちとら無駄に魔力を消費して広大な範囲魔法打ってないんだぜ!打ってしまったんだぜ……


「なんて魔法なんだ……これはちょっと無理かも」


 うむ、無理っすな!


「おにいちゃーんっ!絶対に死なせない!一度も成功したことないけど、上級回復魔法いまこそ!『オールヒール』」


 ターシャ諦めるんだ!

 君のお兄ちゃんの運命はすでにすべて俺にゆだねられている。

 生きるか死ぬかは、君の今後の態度次第だ!

 なんて言ってちゃ正義の遊び人の名が廃る、ここは遊び人の本気だすか……


 数ある『遊び人』スキルの中でも奥の手中の奥の手!

 こんな物語序盤から使っていいスキルじゃないんだぞー-!

 覚悟を決め発動させる。


 『バリア!』


 遊び人固有スキル『バリア』:使用中、誰が文句付けてこようが絶対に無敵になる。

 おまけとして、使いすぎると一緒に遊んでもらえなくなる。

 よって使用可能なのは一日一回までだが、どんな攻撃からも身を守ってくれる最強防御スキル。

 また魔力をごっそり持っていかれるため、一日一回でもできれば使いたくない浪費スキル。


 発動した瞬間クルトの周囲が『バリア』で覆われる。

 そして迫りくる獄炎からクルトを完全に守る。


 ふぇーふぇっふぇっふぇ!

 見たかこれぞ、『遊び人』最強スキルが一角『バリア』よ、宮廷魔術師の特級魔法一回くらい熱くも寒くもないわ!!

 でも二回目はなしだよ?一日一回って制約でつかえてるんだからっ。


 バリアで覆われると同時に、クルトの体が白く眩く輝きだした、こっこっこ、この光は!

 上級回復魔法の『オールヒール』ですね、僕もたまーにつかいます。

 ターシャは一度も成功したことがないという上級回復魔法を成功させたようだ。

 

「おっおっおっ!傷が癒えるどころか力がみなぎってくるぞおおおー-」

 

 クルトのケガはそこまで酷いものではなく、『バリア』が張られる前に右足がインフェルノに巻き込まれて大やけどしてたくらいだ……すまん。

 今のクルトに『オールヒール』はオーバーキルならぬオーバーヒールなんだぜ。

 なんか元気になっちゃてるじゃない……

  

 魔力総量1割程度のところから、上級回復魔法まで使えるとは、さすがターシャちゃんです。

 だが、魔力のみならず体力までも使い切ったターシャはその場に倒れこむ!


「ターシャ大丈夫かっ!」


 元気モリモリのクルトが全速力で走ってターシャを抱きかかえる。


「お兄ちゃん……無事だったのね」

「ターシャこそ大丈夫だった……zzzzzz」

 

 『スリープ!』


 一瞬で二人が眠りに落ちた。

 

 なんか感動の再会的な良い感じだったけど?とりあえず寝かしつけてみた。


 やり過ぎた件についての言い訳を考えるため……

 

 あと、二人とも満身創痍だとおもうんだよね、うん。

 ちょっとお昼寝でもして、今後のことをかんがえようじゃない?

 

 隠し事の多い三人だけど、腹を割って話してみるのもいいかもしれないね?


 そうしてターシャとクルトが寝てる中、俺も昼寝をすることにした。

 北も焼け野原、南も焼け野原、モンスターなんてもうここにはいないのだ!

 安心して寝れる、かわりに森が一個消滅したが……どーしたもんかねぇ?

 遊び人の悩みはつきないのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る