第8話 金策狩り 初日②

 自分のケツは自分で拭く!

 当たり前だ、人に拭かれたら恥ずかしいだろうが!


 俺は最速で北に走りだし、もう一度遊び人スキル『口笛』を吹く。

 自殺願望があるのかって?なわけはない。

 

 理由は二つ、一つ目の理由は、ある程度敵を密集させ、一挙殲滅を目指す為。

 二つ目の理由は、これから俺が使う魔法に対して、敵が少なすぎるからだ。


 あくまで、ちょっとまずいのはクルト君たちであって、俺はいまだに強者の側!狩る側の人間なのだ。

 初心者専用狩場で間違って死んじまった間抜けな宮廷魔術師なんて聞いたことありますか?

 ない、そんなことは絶対にあってはならんのだよ!

 そして最初の一号に『遊び人』とかいう職業の人はなりがちなのだが……ないない、ないない?


 森の北側のモンスターたちがどんどん集まってくる、『地獄耳』の効果で確認するとその数1000体ほど、そしてそのすべてが俺の想定範囲内に収まった。


 時は来た、蹂躙の時間だ、遊びの時間だ!


 手始めに俺は遊び人スキル『火遊び』を発動させ、火属性魔法の効果を上昇させる。


 そして、俺は静かに、珍しく真面目に呪文の詠唱を始める。


「我が手に宿る、地獄の炎よ! 今、敵が侵略し、蹂躙せんとすこの地にて、汝の力を示せ! 全てを焼き尽くし、侵略者を再生の為の贄とせよ!時はきたり、 炎よ、その熱き輝きを放ち敵を滅ぼし、勝利をもたらせ!今ここに解き放たれん! 地獄の炎よ燃え上がれ! インフェルノ!」


 炎系特級魔法『インフェルノ』:範囲内を灼熱火炎地獄にし、範囲内においては敵味方関係なく紅蓮の炎が襲い掛かる、その様相はまさに地獄。


 俺の詠唱が終わると同時に、森の北側は炎で包まれ、数十本の火柱によって蹂躙される。

 

 「ふぁっふぁっふぁー!恐れ入ったかーこれが宮廷魔術師さまの放つ特級魔法だ!味わうがうよい灼熱地獄をなぁぁぁぁ!しゃしゃっしゃっしゃー……」


 闇落ちした宮廷魔術師ごっこしてる暇は俺にはなかった…

 もう少しだけ、もう少しだけ……


 「くっくっく、今日のところはこれくらいにしておいてやろう!」


 といって俺は北の森に背を向ける。

 

 初級魔法ですらオーバーキルな初級モンスターたちに特級魔法をつかってしまうのは、魔力の使用効率が悪いが、早期一挙殲滅するには最善策だ、今は効率だなんのより、早く殲滅してクルト君たちを見守る方が先決だ。

  

 『火遊び』効果も相まって、これまた想定以上の火勢となったインフェルノたん……


 もう嫌な予感しかしません!!

 振り返るとそこは、焼け野原だった……緑豊かな森が半分きえたんだが?

 森半分消し去るとか俺のインフェルノたん……なまじか特級してないね。

 特級魔法は、めんどくさい詠唱と膨大な魔力が必要で、再使用可能時間が長いため滅多に使わないので……

 調整間違えましたねこれ……

 『火遊び』してたら『山火事』になっちゃいました!

  

 1000体もいた初級モンスターちゃんたちが一体もいないんだが?

 

 気にしない気にしない、僕は正義を貫いただけ、残った南側の森もインフェルノたんすれば、焼けた野原の出来上がり。

 「異世界から転生した俺は、焼き畑農業に挑戦してみた!とれたて野菜でウハウハスローライフ?」でも始めるか……


 まあ、切り替えて切り替えて!

 PTから追放された俺は今がどん底!

 ここからは上がるしかないんだから!


 とりあえず、北側は終わった……いろんな意味で!

 さあ南側の担当のクルトはどうなってる?


 遊び人固有スキル『忍び足』をつかって猛ダッシュで観戦に行く。

 14歳Cランク冒険者の戦いぶりが気になるし、『昔のスタイル』『今のスタイル』とか遊び人の心をくすぐるワードを繰り出す二人を見捨ててはおけない。



 『忍び足』:使用中、足音はもちろん魔力、気配すべてを消し去るもの。

 誰かを後ろからツンツンしてビックリさせたい時や、高価な花瓶をわってしまってそっと逃げるときに使える素敵スキル!

 おまけとして、敵にも味方にも気が付かれないで動くことができる、内緒でのぞき見までできるばれたらまずい自殺スキル。

 かなり高度な感知スキルや魔法を使うか目視しない限り、俺に気が付くことはできない。


 バタバタと駆け出し、辛うじて生き残った木の陰に隠れて息を殺して観戦モードに移行する。

 まもなく敵が到着するぞというベストタイミング、それくらい俺は早く仕事をすませたのだ。


「森の北側が消し飛んじゃった……何が起きたんだろぅ、エラムさんは大丈夫なのかな?」


 あっそれやったの自分です、元気ピンピンです、こんな時でも俺の心配してくれるクルト君好感度高いぞ!

 

「えっと、お兄ちゃんあれは多分エラムさんが何かしたんだと思うよ、やりすぎにも程があると思うのだけど……」


 ターシャは冷静に分析する、『回復魔術師』たるターシャは俺の魔力を感じとったかな?出来る子だ!


「そうだね、後ろの焼け野原のことは気にしてられないね、今は前の敵に集中だ、右からの敵は僕がやるから、左からの敵はターシャ任せたよ」


「任されたよ!最近防御ばかりしてたから、久しぶりに楽しんじゃお!」


 といって、二人は二人の前に35体の雑魚モンスターたちが姿を現す。

 さあ、どんな戦いをするのかな、『重戦士』と『回復魔術師』のコンビだ、セオリーなら前衛と後衛に分かれるはずだがそうではないらしい。

 

 敵が来るとクルトは、ロングソードを、ターシャは杖を地面に突き刺す、次の瞬間には二人の両手にはナイフが握られていた。

 実に手慣れた感じだな……俺じゃなきゃ見逃していたんだぜ。


 「じゃあはじめよう、二体来たEランクのホーンラビットからだね。」

 「はーい」


 そして、クルトが駆け出すとあっという間にホーンラビットが首をナイフで切られる。

 避けることも、攻撃するこもできないくらいのスピードで、音もなくクルトが接近した為にホーンラビットは何もせずに仕留められる。

 左手でその横にいたスライムを切りつけると、同時にバックステップで前にいたスライムの攻撃を避けたとおもったら、右手でスライムに切りつけ、確実にそして最速で殺している。

 低級モンスター相手とはいえCランクとは思えない良い動きなんだが……?


 一方のターシャはホーンラビット目掛けて手を一線すると、ホーンラビットがパタリと倒れる、ターシャが投げたナイフがホーンラビットの眉間に突き刺さったのだ、と同時に前方へ駆け出すターシャ、五体モンスターが固まったところに突っ込んでいく、そのうち二体が攻撃態勢に入ろうとした瞬間、さらに加速しナイフを一線し、二体同時に屠ると、今度は高くクルクルト跳躍して、モンスターの壁を乗り越え、最初に投げたホーンラビットからナイフを回収するや、モンスターの背後にまた急接近し、今度は二本同時にナイフを振ると三体のモンスターが倒れる……


 ターシャちゃん?『回復術師』はナイフを投げないし、モンスターの壁を飛び越えるときに無駄にクルクルしない!

 メッチャかっこよかったけど!目が回ったらどうするんだ?


「ターシャ衰えてないね、むしろ前より格段に動きがよくなった?」

「それはお兄ちゃんもだよっ、きっと冒険者としての活動の積み重ねで身体能力全般があがっているのね。」


 そうこうしてるうちに俺が呼んだ35体の低級モンスターたちはお亡くなりに成られました。

 色々思うことはあるんだけどさあ!

 言いたいこと聞きたいことあるんだけどさあ。

 丁度やってきた五体のホワイトタイガーさんをどう処理なさるのか?見てから決めようじゃないか。


 頑張れホワイトタイガー、多分この二人まだまだ本気だしてないぞ……

 毛皮になる予感しかしないけど、金策的にはいい感じかな。

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