第4話 追放後イベント『賢者』vs『聖騎士』その②
「エラム、貴方には見えなかったでしょうけど、貴方のファイアーボールをたたき切るなんて私には造作もないことなのよ。」
いや、見えてますから大丈夫、君の恐ろしさは正しく認識しています。
だから俺も覚悟を決めてこっそり『遊び人』スキルを使うのさ。
「ちゃんと見えてたよ、お間抜けな結果になってしまったところもね、でもあのスピードには驚いた、こっちも本気でいかせてもらうよ」
手始めに『火遊び』のスキルを発動させる。
遊び人固有スキル『火遊び』:使用中、火の扱い全般が得意となるもの!
焚火の火おこしや、線香花火長時間耐えよう選手権なんかで無双できる素敵スキル!
おまけとして、火属性魔法の扱いも得意となる、俺の検証結果では、概ね三倍まで火力や速度、命中精度まで上がってくれる。
その分魔力使用量も三倍になるが、幼いころから魔力容量拡張に余念がなかった俺にはそこまでデメリットはない。
『ファイヤーボール』
拳大の灼熱の炎が浮かび上がる。
「大きい……貴方も本気じゃなかったの!とてつもない威力……直撃は拙いわね」
「スピードも速くなってるから気を付けてね!」
「あら優しいじゃない、でも手加減はやめなさいよ!貴方の本気みせてみなさい、私も本気でいくわ!」
『雪化粧』
リーシェが固有聖剣技スキルを発動させ、リーシェの周り10メートルくらいの範囲に雪のようなものが降り始める。
なんだなんだ?初めて見るぞ……
雪合戦したいっていうなら喜んで付き合うよ。
一見雪に見えるそれは、リーシェの探知能力を補うものだろう。
ものは試し、ファイヤーボール発射ー!
今までより早く、リーシェ目掛けてとんでいき、リーシェの降らせる雪にファイヤーボールがあたる。
「そこー!」
刹那、リーシェが剣をふるい、剣から剣気が飛ばされる。
見事にファイヤーボールに当たり、俺の自慢のファイヤーボールが爆散する。
流石天才剣士といわれるリーシェの本気である、三倍強化された俺のファイヤーボールをいなす事ができる剣士は、世界でも30人くらいか?そこそこいるな……
だが、これだけの力があればエドの守りも託せる。
それにしても、俺が本気出した途端、たやすく乗り切られたんだが?
遊び人はやはり遊んでいるべきだった?
「ここからは私のターンよ、『雪化粧』がある限り貴方のファイヤーボールが私に当たることはないわ」
「それはどうかな?宮廷魔術師十位をなめてもらっては困るなあ、魔術の深淵みせてあげよう」
『二連雪気斬』
俺のターンだと思っていたら、今度はリーシェのターンだった!
魔術の深淵を見せるのはまたの機会に!
リーシェが剣を二振りすると、そこから特大の冷気をまとった剣気が発射される。
威力も早さも申し分ない……
レッサードラゴンくらいならこれ一発で仕留めれるだろう。
残念ながら俺の体は素体ではレッサードラゴンより、防御力は低い。
いくつか対処方があるなかで、俺が選んだのは……
『逃げ足』
遊び人スキル『逃げ足』:使用中逃げること、避けることが得意になる。
悪戯してバレそうになっても、完全逃げ切り保証付き!
雷おやじのげんこつもこれさえあればもう安心な素敵スキル。
おまけとして、敵から逃げる方向に対して移動速度がほぼ倍になる。
俺はリーシェの剣気が届く前にサイドステップする。
一気に10メートルは横へ飛ぶ。
俺の元居た位置で大爆発が起きたと思ったら一瞬で一面が氷付いた……中級魔法、いや、上級魔法レベルの威力!
剣気と剣気をぶつけ合い大爆発を起こしつつ、剣気に冷気を纏わせ対象を一気に凍らせる技のようだ。
切り刻んだ体を一瞬で冷凍固定、いつでもリーシェの気分次第で解凍することもできるだろう。
なにそのチートスキル、本気で来いとは言ったが、チートスキルまで使って来いとはいってないぞ!
リーシェそれでも聖騎士か?卑怯なり!
「魔法で防御するでもなく、身体能力で避けたですって?宮廷魔術師のくせに動けるじゃない」
評価ありがとう、俺以外こんなに動ける宮廷魔術師は五人くらいだけどな!
そこそこいる。
さあ、俺のターンだ、魔術の深淵のさきっちょをお見せしようじゃないか
「リーシェ君の強さは良く分かった、エドのことは任せた。そろそろ終わりにさせてもらうよ。」
『30連ファイヤーボール!』
「ちょっとなにそれ、どーなってんのよ!」
『雪華の舞』
リーシェが顔を引きつらせながらも迎撃態勢に入る。
襲い来る30個ものファイヤーボール、黒焦げなんてもんじゃすまないんだぜ?
普通なら火葬まで済ませてしまう勢いの魔力だ、さすがの俺も即時連発はできない大技の一つ。
『火遊び』の力を借りて、ファイヤーボールの軌道や速度に変化をつけ対応しづらくし、さらには二秒以内に30発の火球が着弾するように調整されている。
二秒で30発迎撃できるかな?
ふふふ、俺ならできないね。
火球がリーシェの探知結界である『雪化粧』の範囲に入った瞬間にリーシェがゆったりと舞うように剣を振るう。
そう、まるで雪の中で剣舞をしているように……雪の華を飛ばす様に剣気が飛んでいき、俺の火球が爆散する。
実際はすさまじい速度で剣気を飛ばしているリーシェだが、俺には踊っているように見えた。
戦っている最中の俺ですら美しいと心から思ってしまった。
一秒も立たないうちに爆炎が立ち込め、見えなくなってしまったのが残念でならない……
二秒にも満たない時間であったが、俺の本気とリーシェの本気がぶつかり合った瞬間であった。
数秒後爆炎が晴れたそこには……
苦痛に顔をしかめ、剣で支える様に立つリーシェの姿があった。
30発の火球のほとんどを切り落とされたが、3発の直撃と、切り落とした火球が地面とぶつかった際の衝撃でかなりのダメージを負ったようだ。
だが、まだ勝負は終わっていない、リーシェの性格上自分から「参った」なんていうわけがないのだ……
俺もこの二秒間リーシェに目を奪われていたが、そういうことは『遊び人』にはよくあること。
目を奪われたくらいで、何もしていない訳がない。
『逃げ足』の敵から逃げるとき速度があがる特性を利用して、サイドステップを二度繰り返しリーシェの裏側に回り込んでいる。
リーシェの『雪化粧』も爆散しており、リーシェの死角から一気に距離を詰め攻撃を繰り出す、確実に気絶させるための攻撃を!
『パラライズドー《つかまえた》』
麻痺魔法を最大限の力でリーシェにぶつける!
約1秒間の拮抗状態のあと、パリンという音と共にリーシェの拘束が解けてしまう。
麻痺魔法などの状態異常系魔術はかなりの実力差がないと抵抗されてしまうのだ。
拘束が解けたそこには、全力で魔法を使い無防備に見える俺がいる。
リーシェは本能的に全魔力を剣に集中させ、一矢報いようと最速の一撃を見舞わんとする。
本能で動いたそれは最適解であった、俺が考えた中ではね……
ただ、俺の読みの範疇で動く限り、未来はない、すでに読み切っているのだ。
ツンデルってやつなんだぜ!
瞬間リーシェはその場に崩れ落ち……眠りについた……
これでリーシェはめでたく『気絶』状態となったといえるだろう、俺の完全勝利だ!
こうも簡単にリーシェが『気絶』状態になったのはには秘密がある。
俺は麻痺魔法を使うように見せて、同種効果のある『遊び人』スキルをつかっていたのだ。
遊び人スキル『鬼ごっこ』:対象と強制的に鬼ごっこが始まる。
鬼ごっこ中鬼は移動速度があがり、逃げる側をつかまえると、鬼の役割が交代となり、交代中鬼は10秒間動けなくなる。
その拘束時間を麻痺魔法の代替として活用したのだ。
リーシェが最大限に魔法耐性をあげ、拘束を解く間、俺は魔法を練っていたのだ。
そして、リーシェが魔力を防御から一気に攻撃側に振り替えた瞬間に俺は練っていた魔法を叩き込んだ。
睡眠魔法『スリープ』
真っ向から使ったのでは俺とリーシェの魔力差があっても抵抗されてしまっただろう。
だが、『鬼ごっこ』の拘束を解除するため魔法耐性を一気にあげ、その後は魔力を攻撃に振り替え切ったリーシェの魔力耐性はほぼゼロの状態、抵抗する間もなく寝かしつけてやったのだ。
こうして俺は見事勝利したが、想定以上に『遊び人』スキルを使わされてしまった、さすが天才剣士といったところだ、特に最後の『鬼ごっこ』から眠らせたコンボは感がいい奴なら何かに気が付いてもおかしくない。
ちらりとリーシェを見ると、綺麗な間抜け顔で安らかに涎を垂らしながら眠っている……
リーシェも感がいい奴だとは思うが、この間抜け顔で寝てるなら大丈夫かな……
またリーシェの間抜け面を見てしまった件。
俺はそっと、リーシェの涎を拭いてやり、回復魔法をかけてやる。
殺されかけたとはいえ、元PTメンバーだ、なんならそのPTに戻ろうとしてるんだから、禍根は残さないが身の為だ。
今日見たリーシェの面白い顔だけで満足することとしようではないか。
それにしても、リーシェ強かったなぁ、追放系小説では、追放した側PTは没落するのがセオリーだが、こいつが本気だしてれば大抵なんとかなるってもんだ。
あと、リーシェさん火属性耐性高かすぎぃー火傷とか全然しないじゃんか、次は違う魔法系統でいこう!
追放最初のイベントは無事乗り切ったとはいえ、これからもたくさんのイベントを最速でクリアし、PTに戻らなくてはいけない身の俺は、『逃げ足』を活用しながら、そっと、そして高速でその場を立ち去ったのであった。
鬼のリーシェが起きる前にね。
ーーーー五分後の世界 リーシェSideーーーー
気が付くと眠らされていた……
追放される『賢者』なんて弱いと、侮っていたわけでもない。
普段していた、重石の魔道具は外したし、固有聖剣技も惜しみなく使った。
その上私は、PT資金で買ったと言われ、彼から贈られたエンチャントネックレスを付けていた。
付与された効果は、「火属性攻撃9割軽減」という規格外の効果。
このネックレスなくしては、最初の彼の攻撃ですらダメージを負っていただろう。
彼は私がこのネックレスをしていることを知った上であえて火属性魔術だけで私を圧倒したのだ。
その上無防備に眠らされるなんて……さすがの私も負けを認めざる負えない。
こんな代物どこの商店でも見たことないし、買うとすればいくらしたのだろう、本当にPT資金で足りたのだろうか……
同年代に負けたのは初めてで、悔しい気持ちもあるのだけど、その反面晴れやかな気持ちでいる自分に戸惑っている。
自分より強い人の存在がいるという安心感だろうか。
とにかく、今はもう彼はいないのだから。
彼から託されたエドワード王子を死ぬ気で守り抜くのが騎士の務めでしょう。
追放しておいて、いうのもなんだけど、なんか寂しいなぁ……
エラム、早く帰ってきなさい!
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