第3話 追放後イベント『賢者』vs『聖騎士』その①
序盤定番の追放イベントが、中盤クラスのイベント、天才剣士とのタイマンになったが、原因はすべて俺がリーシェへ説明するのが面倒だという怠慢……
こうなっては『遊び人』としては、楽しむしかないでしょう。
日頃からPTでこき使ってくれた、恨み晴らさせてもらいますぞ!!
「さて、町からはだいぶ離れたしここらへんなら、多少の手違いで私の本気の剣技がエラムに炸裂してしまっても大丈夫よね!」
大丈夫な訳ないだろ!
元PTメンバーに本気出す馬鹿は『遊び人』だけで十分だ。
「リーシェもう一度言う、今ならまだ間に合う見逃してくれれば、痛い目には合わなくて済むぞ。」
強気で挑発していくスタイルの俺。
「随分強気なのねぇ……宮廷魔術師様ってのはそんなにお強いのかしら?たかが序列十位のくせに……エラムのくせに……調子に乗るのは良くないわよ」
うむ、それなりに強いぞ?普段PTでは回復と補助をいつでもできるようにしながらエドを守ったり、エドを見てたり、エドを応援したり、とほとんど攻撃に参加はしてこなかった俺、手の内はほとんど晒していない。
一方リーシェは常に最前線で剣技をふるっており、彼女の剣筋や癖なんかは把握済みだ。
戦ってのはね、戦う前に勝敗はほぼ決まっているものなのだよリーシェ君。
「貴方には罰が必要なのよ。一つ、私の許可なくPTを追放されたこと、二つ、私の勧めにも関わらずPT追放の件を抗議しなかったこと、三つ、PTでいつもエドワード王子ばかり過保護に守ってずっと私を放置していたこと!全部合わせて万死に値するわ」
PTの中で一番放置しておいていいのが天才剣士たるリーシェだからなあ、今思えば回復魔法も補助魔法もリーシェにだけつかってなかったかも?あ……仲間外れはいかんよね、なんかすまん。
激怒なリーシェさん……これはいい機会、天才剣士の本気を引き出してみますか、エドの今後の守りはリーシェに託すことになる、そのリーシェが強ければ強いほど、俺も安心して追放されれるってもんだ。
なんならそのままスローライフコースもあり?
「俺は追放された身、今後PTの中心になるのはリーシェだ、お前にエドを守る力があるのか、見極めさせてもらうおうか」
「追放されてもエドエドうるさいのよ!っこのブラコンが!さあ、お別れの挨拶はこれくらいにして始めましょうか」
そう言うとリーシェの雰囲気が変わり、周りの空気が一気に重くなる、本当にお別れの挨拶の時間は終わってしまったようだ、ヤルしかない。
距離は20メートルほどあり俺の間合いだ。
先手は譲るっていう余裕だろう。
「戦うのはいいけど、さすがに殺し合いはね……リーシェに何かあったらエドに顔向けできない、条件を決めよう、どちらかが『痛い』というか、『降参』するか『気絶』したら勝負ありってことでどうだろう?」
「ええいいわよ、エラムに何かあったらエドに顔向けできないものね、きっちりお仕置きしてから『気絶』させてあげるわっ!」
万が一形勢不利だったら、『気絶』する前に絶対『痛い』って言おう!
「それじゃ遠慮なく行かせてもらうよ!」
『ファイヤーボール』
火の初級魔法を発動させる、普通の魔術師が使えばこぶし大の炎が浮かびあがるが……
宮廷魔術師の俺が使えば……なんと!親指大の小さな小さな炎が浮かび上がるじゃありませんか……小さくなっちゃった!
俺が発射の合図を取るとともに、ミニファイアーボールは光の速度で飛んでいく……光の速さ超えてたらすまん!そしてリーシェが避ける間もなく左肩に着弾する。
「痛っ!!」
よし、早速リーシェを痛い目にあわすことに成功した!あっけなかったがこの勝負俺の勝利だ。
初級魔法を制する者は魔術を制すると、俺が言っていた!説得力あるだろ?
威力は考えず、速度に特化し小型化された俺の改良ファイヤーボール、発射とほぼ同時にリーシェに着弾したのだ。
「勝負あり!リーシェ選手が『痛っ!!』といったことにより勝者エラム選手!」
審判がいないので、自分で審判してみた。
「ふーん、ちょこざいなことするのね、いいわ私も付き合ってあげるわ、私が言ったのは『痛っ』であって、決して『痛い』なんて言っていないわ、試合続行させてもらうわよ!分かり易く『気絶』しなさいエラム!」
……だから負けず嫌いの天才剣士は嫌なんだ、今のはどこから誰が見ても俺の勝ちだろ?
「余裕こいてた割には苦しい言い訳だね……納得いかないけど、負けを認めるまで続けてあげようじゃないか」
だがリーシェの性格上、これで降参なんてしないことも承知……ならば仕方ありません、痛めつけてやろうじゃありませんか?
『ファイヤーボール』
『ファイヤーバリア』
リーシェは俺の掛け声と同時に抜刀し、炎耐性のバリアを展開し意識を集中する。
回避するのは諦めてバリアと魔法抵抗値を上げて対応するようだ。
俺がミニファイヤーボールを射出するとほぼ同時に「パリン」とバリアは破れ、再度リーシェの左肩に着弾する。
「痛っ……くない!」
追放されてようが腐っても宮廷魔術師の放つ魔法である、職業適性『聖騎士』たるリーシェは回復魔法や補助魔法も使えるが、本職ではないのだ。
俺のミニファイヤーボールがリーシェのバリアなんぞに弾かれる道理はない。
つーか宮廷魔術師に近衛騎士隊員が魔法で挑んでどうする……
とはいえ、リーシェも魔法抵抗値をあげて対応しており、かすり傷すらない、ちょっと舐めていたかな……
俺の『ファイアーボール』は大きさこそ小さいが、それは速度を出す為の処置であるとともに、火力を凝縮した結果だ、威力はそこらの魔術師の放つものに比べて三倍は高い。
「流石に魔法じゃ分が悪いようね」
今更気が付くことですか……
「いやいや、リーシェの魔法は一流だよ!ぜひこのまま魔法合戦しようじゃないか」
「あんたのファイヤーボールは早いけど、恐れるほどじゃないわ!ほとんどダメージはないもの!!」
というと同時に一直線に俺との距離を詰めにかかるリーシェ。
『十連ファイヤーボール!』
距離がある内はずっと俺のターン!十個のミニファイヤーボールが浮かび上がる。
射出とほぼ同時に俺の高速十連ファイヤーボールすべてがリーシェの左肩に被弾する。
ダッダッダッダッダッダッダッダッダ
「いたたたたたたたたたたたたっ!」
全速力でこちらに向かっている分カウンター気味に十発もくらったリーシェだが、『痛い』とは意地でも言わないようだ。
そしてやはり、ダメージはほぼない、鬼の形相でイノシシのように俺に襲いかかってくるリーシェ、美人が台無しだぞ!
さて、距離は5メートルそろそろリーシュの間合いだ。
『これは拙い』
なんて思うとおもった?
リーシェが俺との距離を四メートルまで詰め、剣を振りかぶったその刹那。
ガッコーーン!
という大音量と共に、リーシェの前進が止まる。
俺が事前に設置しておいた透明な土壁『インビジブルストーンウォール』に見事に突っ込んできた。
知能の低いモンスターなんかが良くひっかかってくれるんだが、イノシシにも……もといリーシェには有用だといま証明された。
中級魔法に分類される魔法だが、俺の最高出力で硬さ重視でつくっており、その硬さは上級魔法の魔法障壁に匹敵するだろう。
顔面から最高速度で壁に突っ込んだリーシェさんは……頬が面白いくらい圧迫されて顔面ラップ巻きしたような、それはそれは……形容しがたい面白い顔をしている……嫁入り前の女の子がそんな顔見せちゃダメ!絶対!婚約破棄ルートに突入しちゃうぞ?
でもいいもの見せてもらったわ!
俺の思い出フォルダにまた一つ面白い思い出ができた。
「エラムー!!」
なんかすごい怒りを買ってるけど気にしたら負けだ、リーシェが土壁の前で面白い顔してる間におれは一気にバックステップで距離を取る。
リーシェもリーシェでそこはイノシシ!土壁に埋まりこんだその顔を使って『むぎゅううう』っと土壁を破壊する。
1秒は持つとおもったが?0.3秒ほどで土壁が突破される、むむ、俺の退避は始まったばかりなんですが?
間合いは依然リーシェの間合い、ちょい拙い?
だが、リーシェは土壁破壊と共に足を止めて確認作業に入る。
「エラム今何か見たかしら?私の面白い顔とかみたりしてる?」
うんばっちり見たし、一生忘れない!
「ん?なんのこと?決闘中にリーシェの顔なんて見てられないよ、ちょっと美人だからって自惚れすぎなんじゃないかな?」
「そう、あの状況で私の顔見えないはずないと思うのだけど?なんなら私の頬が土壁に埋もれてる間、目が合ったわよね?」
流石天才剣士!いい目をしてる。
「いや、気のせいでしょう、俺は俺のやることで精いっぱい、リーシェが土壁に埋もれて最高に面白い顔してるところなんてみてるわけないじゃないか!」
「……ふう、分かった、見たのね、私も覚悟を決めるわ、生きては返さないわ、生きて追放されるなんて生温いのよ!貴方の息の根は今ここで止める。私も本気を出すわ!」
というとリーシェは手首に巻かれた両手のリストバンドを外して地面にすてる。
そのリストバンドは「ドスン ドスン」という音と共に地面にめり込む……
リーシェが常に自分の力を出し切らないように魔道具で重りを手に付けていたのは、PT時代の戦闘時の動きに如実に表れており、俺からしたらバレバレで何ら驚くこどではないのだが……
想像以上に重たいの付けてたのね……ぶっちゃけびっくりした!
「今までPTでも本気は出したことはなかったけど、エラム貴方は確実に殺すわ!私の本気見せてあげる、ファイアーボール打ってきなさいよ!」
PTで本気ださないとか、PT追放されるからダメなんだぞ!
なんで君は追放されないのかな?
男性差別だ!
『ファイヤーボール』
最速の一撃をお見舞いする。
リーシェがふらりと揺れたかと思うと、ファイヤーボールが二つに両断される……
恐ろしく速い剣筋……俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。
だが、あまりに速く華麗な剣さばきに、俺のファイアーボールは切られたことに気が付かないで数秒後に切られたことに気が付く的現象が起こり、そのまま球体のままでリーシェに着弾する。
「イタタ!」
ちょっと間抜けな感じのフルパワーモードリーシェのお披露目となったが、その力は侮れない。
俺のファイアーボールをたたき切るなんて芸当が出来るのは、天才以外にありえないのだ。
さて、そろそろこちらも本気を出すしかない、俺は『賢者』として勝つことを諦める。
そもそも宮廷魔術師団と近衛王国騎士団は、その戦力において同格とされており、序列10位の俺が序列7位のリーシェに勝つのは正攻法だけでは難しいのだ。
ここからは『遊び人を極めし賢者』として戦わせてもらおうか?
問題は達人の域にあるリーシェに、俺が『遊び人』であることを気が付かせずに使える能力が限られること……
まあ配られたカードで戦うしかないのさ。
カードは山ほどあるからね。
さあ楽しくなってきましたよ、『遊び人』の血が騒いでしょうがない!
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