第2話 追放後定番イベントの発生

 あっけなく所属PTを追放された俺は、裏口からレストランを出ると全速力で宿屋に戻った。

 追放系小説で学んだ今後起りがちなイベントに備えるため!


 その道中俺は生まれてから、いや実際には死んでから転生して今に至るまでの道のりを走馬灯のように振り返ってみた。

 主に読者への説明……もとい今後の生き方を考えるために!


 この世界に転生するまで俺は俗にいう社畜というやつで唯一の趣味は「大小説家になろう」というサイトで転生小説を読みまくり現実逃避することだった。

 そうこうしてるうちに真面目だったおれは社畜として若くして過労死し無事、人生最大の現実逃避に成功したって……うまいこといってみる。

 

 転生先は「大小説家になろう」の転生小説ではお決まりの貴族様のお宅、当然美男子だ!設定に抜かりはない!

 物心つく頃に、徐々に転生前の記憶や知識が俺に戻ってきて前世の俺と融合したって感じだ。

 転生者としての自覚を持った俺は、前世で社畜としてむなしく死んだ無念を晴らすべくこの人生は遊んで遊んで遊びまくることを誓うのであった。

 

 だが物心つく頃には、貴族の三男坊として一般教養から、剣術、体術、魔術等のそれはそれは厳しい授業も始まることとなる。

 遊ぶ暇なんてないほどの授業、特訓の嵐であったが……隙間時間を見つけては遊びに遊んだ!子供の体力おそるべし。

 厳しい特訓の毎日だったが、現実世界を異世界転生小説大好き人間として生きた俺にとっては、異世界の教養知識を学ぶことも、魔力強化された体を動かすことも、魔力を操作し炎を作り出すことも、すべてが夢のような出来事であり、『遊び』のように楽しくて堪らないものであり無我夢中で遊び続けた。

 両親や先生からは『何事にも一生懸命な真面目な子』とみられがちであったが、俺からしたらただひたすら遊んでいただけだったのだ。

 

 もちろん転生小説から学んだ、強くなる秘訣的なものは、将来何と戦わされるかわかったもんじゃないし、全部やっておいた。

 常時魔力を練り続けることは必須だし、一日一回は全魔力を込めた魔法をぶっ放し最大出力を上げ続けた、苦行に思えるそれすらも俺にとっては遊びでしかなかった。


 10歳の頃にはすでに魔術も剣術も大人顔負けのレベルに成長していたので、そのころから魔力出力量を抑え、剣術でも目立ちすぎないよう立ち振る舞うようになった、それもまた俺にとっては実力を隠す遊びだった。


 そして何をやっても楽しい遊びに感じてしまう俺は、晴れて職業適性『遊び人』を無自覚で手に入れることになり、さらに修行や学習を含め遊び続けた俺はいつの間にか『遊び人』という職業を極めるまでになってしまったのだった。


 12歳の時に全国民の職業適性を調べる儀式があるのだが……

 第一適性職業が『遊び人』と出た時の両親の驚いた顔は今でも忘れられない……

 そりゃそうだろう?勉強も剣術も魔術も人の何倍も頑張って来た自慢の息子の職業適性が『遊び人』だなんて誰が思う?

 俺はなんとなく感覚的に気が付いていたけどね……


 ただ両親にとって救いだったのは『賢者』という第二職業適性が俺にはあったため、超絶高価な魔道具で第一職業適性『遊び人』は隠して生きていくことになった。

 貴族の息子が『遊び人』じゃ領民に示しが付かない、俺のことを愛してくれる両親は第一職業適性を隠して『賢者』として生きさせることに心苦しさを感じていたようだが、第一職業を隠すという行為自体が俺にとってはいつバレるのかという遊びで大歓迎だった!

 俺は昼は『賢者』として研鑽を積み、魔術を極め、両親の目の届かないところで謎の職業『遊び人』の特性や能力、スキルなんかを徹底的に調べ極めていった。

 ここに『遊び人』を極めし『賢者』が誕生したのである。


 賢者としても勤勉に鍛錬を続けた俺は、転生小説で学んだ各種強くなる秘訣の効果も抜群で、晴れて18歳の時に魔術学園を首席で卒業し、そのまま宮廷魔術師序列10位の魔術師として働き始め、半年前にPTに加盟し今日追放されたのであった……

 今回の追放もイベントと考えれば楽しい遊びだな。 


 


 そんなことを考えながら部屋に戻ると散乱した魔導書や旅の途中で拾ったお宝なんかを魔道具である収納袋に詰め込んでいく。

 俺のは特注品ということもあり、見た目の一万倍くらいは容量が入る優れものだ。

 

 俺が必要なものすべてをしまい切ったその時、予想した人物が到着したようだ。


 息を切らしながら現れたその人は、PTの切り込み役にして天才剣士のリーシェだった。


「ぜぇーはぁーはぁーはぁー!ぜぇーはぁーはぁーはぁー!ぜぇーはぁーはぁーはぁー!ぜぇーはぁーはぁーはぁー!」


 なんかしゃべれよ!

 どんだけ本気で走ってきたんだよ!


「やあリーシェ、30分ぶりくらいだね?追放されたばかりなのにそんなに息を切らして……俺が居なくて寂しくなっちゃった?」

「そんなことあるわけないでしょ!」


 ですよねー用件がほかに有ることは想定済みだ。


「それにしても、裏口から逃げるように宿屋に戻るなんて酷いじゃない、これじゃまるで追放じゃない……お別れの挨拶くらいさせなさいよ……」


 リーシェが伏し目がちにしんみりとした顔で小声で言う。

 はい、俺PT追放されましたけどなにか?


「しんみりした別れは俺には似合わないかなってね、で?リーシェ何か用件があるんだろ?」


「そうね用件は二つあるわ。一つ目は今回の王命が出た理由を知りたいの、貴方はなぜ追放されなくてはいけないの?エドワード王子に聞いてもエラムさん個人のことも含まれるからエラムさんに聞いての一点張りなのよ、何か理由があるんでしょ?」


 うん言えない理由があります。

 『遊び人』の件はリーシェに伝える気はない。

 だって遊び人としての力はほとんどPTで使ってこなかったからね、今伝えると手抜きってことで半殺しにされかねない。

 

「悪いが今回の件は誰にも教える気はないよ」

 特にリーシェにはね。


「そう……私たちを巻き込みたくないってことかしら、この件はこれ以上聞くのはやめてあげるわ」


  いえ、どちらかというと、使えるものは使うし、巻き込めるものなら巻き込んでいくタイプですが?


「で?あと一つの用件というと?」

 俺はアイテムをしまい込んだ収納袋をギュッと抱えながら聞いてみた。


「こっちは、譲れない用件よ。あなたが持ってるポーション類は今後PTで必要になるものよ、PT資金で買ったものなのだし、置いていきなさい、大人しく置いていけば痛い思いはしなくて済むわよ」


 といって不敵に笑うリーシェさん……本職は『盗賊』かな?

 

 やはり来たか追放系では必須といえる、アイテムお金全部おいてけイベント!

 

 だが勘違いしてもらっては困る、俺が持ってるポーションは全部俺のもの!

 

 というのもPT資金はエドと俺が共同で管理しており、俺の提案で、装備の更新と整備を最優先として使ってきた。

 弟分のエドに万が一が有っちゃいけないからね、装備に手を抜くわけにはいかないのだ。

 そんなこんなで、ポーション類は簡単な物は俺が自作したし、難度の高いものは知り合いのレア素材大好き調合士に素材持ち込み手数料俺払いで、格安でつくってもらったりしてきたのだ。

 そこら辺を知っているエドは俺がポーションを使うたびに申し訳なさそうな顔をしたもんだが、弟分の命のためなら金なんて幾らでもはらってやる。

 

 だから、ポーション類を置いてかなければいけない理由など何一つない!

 

 だが、本当はエドの為ならポーションくらいいくらでも置いていってやりたい!


 しかし問題が一つ……ポーション類はすぐ使えることが大切ってことで、俺専用のポーション収納マジックポシェットを作ってもらっている。

 これはポーションを瓶から出した状態で保存し、使いたいときに水鉄砲のように射出してくれる優れもの!

 このポシェットで何度エドのかすり傷を治療したことか!

 俺の弟分にかすり傷つけるなんて俺のポーションが黙っていないんだぜ!

 これも自費自費の自費ー!家が一軒建つレベルの赤字だが後悔はない!


 前述のように俺のポーションは俺専用ポシェットに入っており俺しか使えない……本当ならエドのため喜んで置いていくのだが、渡したくても渡せないのが本当のところ。

 エドか後任の魔術師シャルルでも使えるように調整してもらってからPTに寄付するつもりだ。

  

 諸々の事情を一からリーシェに説明するのもめんどくさい……というか金のことをリーシェに話す気はない、だってカッコよくないじゃないか!

 『遊び人』たるもの常にカッコよくなくてはならんのだ!


「リーシェ、悪いけど俺がもってるポーションは今は渡せない、黙って引き下がってくれれば、痛い思いしなくて済むぞ?」


 PTで常に後方支援を意識し皆の引き立て役として地道な活動をしてきた俺が急に強気にでたことに、リーシェは一瞬困惑するが、すぐにその困惑は怒りにとって代わる。


「へー宮廷魔術師序列10位のエラムのくせに!PT追放されたくせに!私が痛い思いする?どの口が言うのかしらぁぁぁぁぁぁ!」


 というや否や抜刀して襲い掛かってくるリーシェ!

 だから脳みそ筋肉さんは嫌なんだ!まだここ宿屋の中なんですけどー!

 宿屋吹き飛ぶ!けが人でる!エドの評判おちる!!ダメ絶対!


 リーシェが襲い掛かってくることを予測していた俺はバックステップで避ける、が予想よりリーシェの剣は鋭く俺に襲い掛かっており、前髪が数本宙を舞う。

 おいリーシェもう少し手加減してくると思っていた俺が馬鹿だった!殺しにきてねーか?


「まてリーシェここじゃ周りに迷惑が掛かりすぎる!逃げも隠れもしないから、正々堂々正面からやりあおうじゃないか?まさか宮廷魔術師序列10位にして追放された俺にビビったりはしないよな?」


「その意気や由!表へ出なさい、郊外の平原でやり逢おうじゃないの!」


 お金置いてけイベントが身内同士の血みどろの決闘イベントに変った……

 想定内想定内…………なわけあるかー!

 

 でも、楽しい楽しい遊びの時間の始まりだ!

 『遊び人』なんだから、なんでもイベントは楽しまないとね!

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