PT追放された転生「賢者」は「遊び人」として生きたい!!

ほこほこ

第1話 「賢者」追放される

「エラム!貴方には、今日でこのPTから脱退してもらうことになったわ!」

 

 俺が所属するのは王国第三王子エドワードが編成するPTで、そのエドワード王子自ら大切な話があるというのでルンルンで高級レストランの個室に来て食事を楽しんでいると、PTの切り込み隊長役で俺と同い年の19歳のリーシェが何か言ってきた。

 リーシェは、黒髪の美女にして若き天才剣士、16歳という歴代最年少で近衛王国騎士団に入隊し、19歳の今では近衛王国騎士団序列7位にして1番隊の副隊長を務める傑物だ。

 

 でも、食べ物美味しいし、考え事していてよく聞き取れなかったから放っておこう。

 何食わぬ顔でご飯を食っていると、ガッシっと胸倉をつかまれたじゃないですか。

 俺また何かしちゃいました?


「聞こえてるの?エラム、貴方今日でPTから追放なのよ!?何とかいいなさいよ。」

 

 なんだただの追放イベントじゃん、胸倉つかむなんて物騒なことやめていただきたい!

 心が通じたのかリーシェが離してくれる。

 

「何とか言えといわれてもねぇ……リーシェのツマラナイ冗談でしょ?」

「冗談な訳ないでしょうっ!さすがに私でもこんなキツイ冗談言わないわよっ!この書状を見なさいっ!王命によってあなたはPTから追放になったのよ!」

 

 といって紙切れを突き出すリーシェ、確かに王印が押印されており……王命で間違いない。

 だが、王命だと?思っていたより事態は深刻で笑って乗り切るには作り笑いが大変そうだ。

 俺が一体何をしたっていうんだ?

 陰でこそこそ色々やり過ぎていて……俺でもわからん!

 

 なんにせよ王命まで出されたということは、撤回のチャンスはないんだろうなぁ……いきなり追放されるのも癪だが王命は従わなければ死罪も有り得る重罪だ。

 諦めも肝心と言いたいところだが……


「明日から私たちのPTには宮廷魔術師序列7位のシャルルが加入することが決まったのよ!宮廷魔術師序列10位のエラムじゃ役不足と判断されたのかしら……あなた悔しくないの?」

 

 まったく悔しくない!

 と強がりたいところだが、本当はかなり悔しい。

 自分に与えられた仕事はきっちりやるタイプだ!

 そのことがしっかりと評価されていないのなら悔しい。

 

 そして半年前の結成当初から少しづつランクをあげ、やっとSランクPTに仲間入りした矢先の出来事……

 PTの連携も取れ雰囲気も最高、楽しいところだったのだ。

 これまで身を粉にして働いてきて、やっとPTが軌道にのり楽出来る直前だったのだ!

 悔しくない訳がないだろう!

   

 それにしても……俺の代わりに派遣されるのがシャルルって……どーしてそうなった?

 

 シャルルは銀髪の美女にして若き天才魔術師。

 16歳という歴代最年少で宮廷魔術師に選抜され19歳の今では序列7位に在する傑物だ。


 同年代に生まれた若き天才剣士リーシェと若き天才魔術師シャルル、この二人の人気は王国を二分割する。

 どちらがより、強いのか?

 そしてどちらがより、美しいのか?

 この二人を比べられずにいられるのは、悟りを開いた法王くらいのものだろう。


 娯楽に飢えた民衆のみならず、娯楽好きで暇な貴族たちもリーシェ派とシャルル派に分かれ大論戦を繰り広げている。

 やれリーシェなんぞ、シャルル様の魔法の前に近づくことさえできず丸焼きにされるだろうやら……

 やれシャルルなんぞ、リーシェ様のスピードに魔法一発もあてれずズタズタにきりきざまれるだろうやら……

 銀髪がいい!黒髪がいい!負けん気の強そうなあの瞳が欲しい!はかなげなあの瞳に乾杯だの……

 どーでもいいわ!

 

 二人を身近で見てきた俺は知っている、二人とも天才で戦って見なきゃどっちが勝つのかは分からんし、容姿に関してもドッコイドッコイの美人!あとは好みの問題!

 そして二人とも外面はいいがその中身は暴君そのもので……エラム君へのアタリが厳しいのが大問題!


 追放されるPTとはいえ、この二人が同じPTで仲良く敵と戦えるとは思えない、近く身内同士の戦いになるだろう……


 俺の追放だけならまだしも、シャルルの加入まで考えると、匂う匂うぞ!香ばしい料理の香りがプンプンするぞ!!

 そう、俺はまだ食事中なのだ……


 そうじゃない、陰謀の匂いがします。

 

 

 「そうか……リーシェ世話になったな!また逢う日まで元気でな、さよなら!」


 そう言って席を立とうとする俺にリーシェが言う。

 

「ちょっと待ちなさいよ!あっさりしてるわね……あなたも宮廷魔術師の端くれならもう少し抵抗してもいいんじゃないの?」


 おい王命に逆らうとか死罪ですから!頼むから従わせてくれ!所詮は宮廷魔術師の端くれなんだ……


「とはいえ、王命じゃぁーねぇー……」


 そういって俺はちらりとエドワード王子の方を見る。


「リーシェさん少しエラムさんと二人で話させてください。」

「良いけども、エラムは口が達者だから変なこと吹きこまれないでね。」


 そう言ってリーシェが部屋から出ていく、扉が閉まるとそこは完全防音の魔法がかけられた密閉空間!

 

「まいったなーエド、もう少しエドと遊んでいたかった……PTもSランクになり、だいぶ装備がととのったし、いよいよダンジョン下層階攻略も見えてきたっていうのにな……だががそうもいかなくなったようだな……今回の王命あまりにも急だがなにか心あたりは?まさかエドが首にしたとか?」

「エラム兄さんを首にするなんて、そんなこと僕がするわけないでしょ!今回の件は僕とエラム兄さんの責任半分半分って感じかな?」


 王国東部マイセン領を守護するマイセン辺境伯家の三男坊の俺は、父の威を借りまくる形で、エドワード第三王子及びマリー第三王女とは幼少期から深い付き合いをさせていただいており、立場は違えどご両名から兄さんとして慕われている間柄、当然二人でいるときは話し方も変わってくる。


「半分は俺の責任~?エドならわかってくれてると思うんだが?俺なりにPTにはちゃんと貢献してたはずだぞ?」


「それは間違いないけど、適性職業の話だよ、エラム兄さんの第一職業が『遊び人』だって所をお父様に知られたみたいなんだ、これから王位争いが本格化して穏やかじゃない時に王族の周りに『遊び人』がいるってのは僕にとって良くないって話ってことでね……僕はエラム兄さんの職業は『賢者』であるってこと以外何も知らなかったと言うことでトカゲの尻尾キリさせてもらったよ」


 この世界には、それまでの生き方や血統、本人の努力等で決まる職業適正というものがある、職業適性のある職業で魔法やスキル特技を発動させれば効果は上昇するが、適性がないとそもそもスキルの発動ができなかったり、できたとしても無駄に魔力を使う羽目になる、効率的に生きていくうえで肝心になるのが職業適性だ。


 そして俺に付与された職業は世にも珍しい『遊び人』、この職業適性を持つことになる人間自体ごく少数で研究が進んでいない。

 基本的にその名の通り使えない職業という認識だ。

 遊びが大好きだった俺は、この職業を極めた数少ない?もしかしたら世界初の一人だ。


 本当に使えない職業なのかは、おいおい分かるだろう。


 貴族としてあまりに世間体が悪いので両親からの依頼で、超絶高価な魔道具で『遊び人』で’あることを隠し、運よく奇跡的に第二に職業適性があった『賢者』の職業適性を最大限引き延ばし魔術師として生きてきた。

 第二職業適性を持つ人自体希少だし、第二職業適性は第一に比して何をするにも効率が少し悪い。

 その第二職業適性の『賢者』で宮廷魔術師まで上り詰めた隠れた天才かつ努力家なのが俺だ。


 俺の第一職業が『遊び人』であることは、極秘中の極秘で知っているものは極わずか……知っている人間はもちろん全員信頼のおける人間だ、よな?少し疑問が残る。

 となると相当高レベルの『看破』系魔法なり魔道具なりを使われた可能性が高い。

 なんだか滅茶苦茶きな臭いんですけど?


「あちゃー『遊び人』ばれたか……それは大事じゃんっ!やっぱエドが密告したんじゃね?」


 エドワードやはりお前か!

 

「だーからー僕じゃないっての!宰相から父上に伝わったんみたいなんだ。誰が宰相に伝えたのか?宰相自身が調べたのかわからないけどね。」


「ふむ、どのみち時期国王を争う第一王子、第二王子が絡んでる可能性は高いな、エド俺はしばらくPT離れるしかないから自分の身は自分で守れよっ!」

 

「自分の身ねぇ……エラム兄さんが『遊び人』だって気が付く能力、一番信頼してる人から切り崩してくる敵情察知能力、敵もやり手なんだよねー本気で来られたら『勇者』とはいえ、今の僕じゃあ無理かもね……死ぬときは死ぬさ」


 『勇者』の職業適性を持つエドワード第三王子、もちろん世界には勇者と対となる『魔王』という存在、魔族という存在がある。

 その魔王は100年前にうち滅ぼされたと伝承されており、見たものはいない。

 ただし、最近『巫女』の職業適性を持つ人間が「魔王が復活しつつある」なんて余地をしたものだからさあ大変。

 『勇者』の職業適性を持つエドワードは魔王の復活に関する調査と、魔王復活に備え強くなるための冒険にでかけましたとさ。


「まあまあ落ち着きなさい、『勇者』が弱気でどーするんだ!で、俺がPTに戻る条件は?聡明な第三王子様はそこらへんも掛け合い済みなんだろ?」


 15歳にして『勇者』の職業適性を持つ第三王子エドは子供ながらに抜け目はない。


「大きく二つだね、一つ目の条件は、宮廷魔術師として序列を7位以上にすること、二つ目は『遊び人』って職業適性が周囲にバレてもそのことが霞む位のドでかい功績をあげること。ちゃんと国王と話して書面にも残してきたよ、その二つを達成してくれれば、誰にも文句は言わせない、エラム兄さんなら楽勝でしょ?」


 エドがキラキラした目で俺を見つめてくる。

 やめてくれ、その俺を信頼しきった目……


「おっおう!楽勝かな…?」


 エド君とんでもない条件飲まされてるの気が付いてー!

 適性職業『遊び人』で規格外の魔術師ぞろいの宮廷魔術師団の中で序列六位になれと……

 適性職業『遊び人』を霞ませるほどの成果ってどれほどの成果ですか!


 普通なら無理ゲーだが、俺とて普通の宮廷魔術師じゃない、ただの『遊び人』だ!

 魔王なんて実にどうでもいいが、弟分のエドが危険な目に合うことは許されない!

 

 しかたない……『遊び人』の名に懸けてやってやろうじゃないか!


 「第三王子エドワードが命ずる、エラム・フォン・マイセン、君をこのPTから追放する!しかし速やかに帰還すること!」

 「はい、王子のご命令のままに!」

 

 そうして俺はPTを正式に追放され、PTに戻るために色々動き回る羽目になった。

 俺の弟分のエドに何かあっては堪らない、なんとしてもPTに戻る!

 俺が戻るのが先か?PTが崩壊するのが先か?王位争いの激化が先か?

 どのみち俺に遊んでいる時間はなさそうである。

 

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