第4話 サクラの微妙な異世界転生 黄金のハリセン

 銃口の先から硝煙と共にスパークが発生していた。


 やはり、その手に握られている拳銃の威力を見て、前世の技術とは異なるオーバーテクノロジーが存在していると理解した。


(やったぜ! この力で無双するんですね、わかります!!)


「大丈夫かジョン!?」


 レンジャーは片手で、へたり込むサクラを引き起こした。


「いや、初めて見るモノがいっぱいでもう」


「アンデットは初めてか、本当に偏狭な田舎から来たんだな。文明の発達と共に公害とかでよく、アンデットが街を埋め尽くすなんて珍しいことではないな」


 この世界には傘薬品アンブ〇ラでもあるんか。


 私の住んでた街には精々カプ〇ンがあるだけだ。


「アンデットもやけど、その銃も・・・・・・」


「なんだ遺物オーパーツ・レガシーも初めてか、空からの贈り物だよ」


 レンジャーはそう呼称する銃をちらつかせる。


「昔、空から降りてきた空装星人オリオンが地上に残した遺物オーパーツ・レガシーだ」


 その内容が一般常識であるかのように語ってくれるが、サクラには全く理解できなかった。


 別にレンジャーの説明がヘタクソというわけではない。


 ただ、レンジャーの背後で起きている光景に顔面蒼白にならざるを得ないからだ。


 先ほどの衝撃で一斉に目覚めたのか、河川から他のアンデットたちが姿を現す。


「ん、なんだ! まだこんなにいたのか!!」


 その数は現地人であるレンジャーですら驚く声を上げた。


「レンジャーさん、さっきの攻撃でやっちゃて下さい!」


「すまんがそれは出来ない・・・・・・」


「そんな・・・・・・どうして!」


 その言葉に苦汁を啜るような表情を浮かべ答えた。


「高いんだ」


「えっ?」


「一発の値段が高いから、そんなにバンバン撃てる代物じゃないんだ!」


 サクラは深呼吸で息を整えて、


「てめぇ! そんなこと言っている場合じゃないヤロ!!」


 レンジャーの銃を奪おうと彼の背後から抱き着いた。


「なっ、バカッヤメロォ!」


「ええか、こういう強力武器ってのは、ラスボス戦まで残しても使うことなくクリアーしてしまうことが多いから序盤から使っちゃえって!!」


「何をいっているのかわからん、いいからやめ―――」


 ポチャんと嫌な水音がなった。


「もしかして・・・・・・」


 レンジャーの手を見ると、そこに銃は握られてなかった。


「もしかして落としたん?」


「————落とした」


「なにしとんねんオドレ!」


「お前が暴れるからだろ!!」


「「「「「グシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」」」」」


 しびれを切らしたアンデットたちが威嚇するかのようにうなり声をあげ襲ってきた。


 なんの能力もないサクラに、武器を落としたレンジャーは成すすべなく、


「「うおぉぉぉぉッッ!?」」


 と良い歳した大人二人の情けない叫びが橋の下で響いた。


 こんないなところでウチの26年物のビンテージな純潔が味のわからない腐ったアンデットに奪われるなんて、まだ年収500万越えの冴えない昔のお見合い相手の方がマシよ! チキショウメーー!!


 そんな今か今かと食われるのを待っても、襲ってこない。

 なに、もしかしてウチ――アンデットにも貰ってくれない女なの・・・・・・。


「なにしてるです?」


 スケールの小さい絶体絶命に聞きなれた大阪弁がサクラの耳に入った


 というよりもこの声・・・・・・。


 サクラは殺意のまなざしを声のする方へ向けると、


「探しましたよ貴君。ボクを置いて、こんなところまで勝手に行くなんたる不用心」


 黄金に輝く可愛い少年が宙に浮かんでいた。その煌めきは聖域のようにサクラたちの周りを囲っていて、バリヤーの役割を果たしているのか、アンデットたちはサクラたちに近づこうとはしてこない。


「この金メッキ野郎! いままでどこにおったんや!!」


「どこって、貴君がずっと寝込んでいた場所にいたです。いくらゆすっても起きないんで傍でお休みです。知らぬまに貴君がどこかに行って、ボク寂しくて泣いちゃうです」


 もしかして暗闇でつまづいて転んだのコイツの所為か・・・・・・ぶっ殺してやる。


「まあまあ、そんなに興奮しないでくださいです。それにちゃんと間に合いましたよ、正義は遅れてやって来るって奴です!」


 ビリケンはニコッと笑って答えた。


 コイツ、ショタ容姿で許したくなくても許してしまいそう。気を引き締めろサクラ! おねショタの主導権をショタに握らせるな!!


 あやうくR-18行為に出しそうになった母性本能を心の中で『これは犯罪。ショタに手を出したら犯罪』と唱えて、抑えこんだ。


「じゃあ、その役目を果たしてみなさいよ。この状況を打開してみなさい!」


「命令とは人使い荒いです。まったく、その甘えた人生を後で叩き直してやるです!」


 ビリケンはどこから出したのか、悪趣味な金ピカの大きなハリセンを手に取り、身近なアンデットの側まで近づくと、


「なんで、お天道さんが昇っているのにアンデットが昼間に出てきてるのオカシイです! なんでやねんッデス!!」


 と振り下ろしたハリセンでアンデットの頭部を叩いた。


「オオ、ナカノバーガー・・・・・・」


 ハリセンの爽快なええ音と共に叩かれたアンデットはそう言い残すとみるみる消滅していく。


「これは一体どうなっているんだ!?」


 今まで黙っていたレンジャーが信じれない光景に口を開いた。


「では、どんどん行です!」


 その姿に見合わずビリケンの動きは俊敏で、関西人じゃないと目で追えないスピードであった。


「科学的に生み出されたアンデットの癖に、ボクの聖域に入って来られないの設定的にオカシイです! なんでやねんッデス!!」


「アリエンナ・・・・・・」


 ハリセンで叩かれたアンデットが遺言を残し消えていく。


「頭が弱点のアンデットって、カプ〇ンの許可取ってんですか! なんでやねんッデス!!」


「オッパイ ノ ペラペラソース・・・・・・」


 同じようにビリケンの突っ込みにアンデットたちは成すすべなく消滅していく。


 そして最後の一体を前にして、ビリケンの動きが止まった。


「どうしたビリケン! 早く最後の一体も倒さんかい!!」


 サクラはビリケンの異変に声を掛けた。


「もうないです・・・・・・」


「えぇっ、なにがない!?」


「ツッコミが――――思いつかないんです」


「ナァッ!」


 どうやらあのハリセンはツッコミが無いと効果が出ないようだ。


 アンデットは真っすぐビリケンの方に向かっていく。


 このまま金メッキが剥げるまでボロボロにされれば良いやと思う反面、ウチが生き残るにはビリケンが必要なのも事実。


 これも生存戦略。ビリケンにはウチの幸せのため尊い犠牲になってもらうのに必要だ。


 だが、犠牲になるのは



「だったら! そのハリセンをこっちに渡して!!」


「――貴君の武運長久を祈るです!」


 ビリケンは手にしていたハリセンを投げるとサクラはキャッチし、バリヤーの外へと飛びだした。


 アンデッドは反応も遅く、運動音痴のサクラでも背後を取るのは余裕であった。


 間合いに入ったサクラはハリセンを振り下ろしながら叫んだ。


「こんなピチピチな私を襲わないなんて、B級ゾンビ失格やろ! なんでやねんッッ‼」


 スパンっと爽快な音がゾンビの頭から鳴った。


 だが、ゾンビの姿は消えなかった。


「なっ・・・・・・どうして消えないの⁉ 」


 怯えながら後ずさりするサクラにアンデッドは振り返る。


 人差し指を突き出したアンデットはサクラに容赦ない空耳をかました。


「モウ、クサッテル・・・・・・」


「「「・・・・・・・・・・・・」」」


 アンデットの言葉に誰も何も言えなかった。特にサクラ以外の男性陣は笑いをこらえるのに必死だった。


「————今、なんつった・・・・・・」


 サクラの怒気がこもったセリフと共に異常なまでの全速前進に誰も反応できなかった。


「ゾンビの癖にッつ! 馬鹿にするかッッ‼」


 サクラがフルスイングしたハリセンは、エグイ打撃音と共にアンデットの後頭部を吹き飛ばした。本来のツッコミで消滅させるのではなく、鈍器としてなぶり殺しである。


「一方的に笑い者になる痛さと怖さを教えてやろうか!」


 勿論アンデットは消滅することなく、頭部がなくなっても体は動いている――が、サクラはお構いなしに死体蹴りをかましていた。


「はははははは! ざまぁないぜ!」


 アンデットが完全不能になるほど全部位が細かな肉片となるまで粉砕する頃には、昼だったのが夕方になっていた。


 夕日に照らされるサクラの姿は血まみれで、目だけが獣のように光っていて不気味な光景であった。







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