第3話 化け猫退治

(ハネケ、そろそろトドメを刺すわよ)


 結菜ゆいなは霊刀<銀の薙刀ナギナタ>を構えて、体長二メートルほどに巨大化した化け猫を見据えている。

 <猫目ゴーグル>という霊体を見ることのできる霊具をかけている。

 紺のセーラー服姿で胸の赤いリボンを揺らしながら化け猫の攻撃を軽くかわして反撃している。

 できれば、姉の風守かざもりカオルのような剣を武器としたいのだが、まだ非力な結菜は遠心力を利用して操りやすい薙刀を武器として選んでいた。 

 ハネケは化け猫の霊体を捉えているが、白光を帯びているのでそれほど危険な状態ではない。

 自らは陰形おんぎょうモードで姿を隠している。

 猫目ゴーグルに自分の霊視映像を送って結菜ゆいなの戦いを支援している。

 結菜が化け猫の眉間に<銀の薙刀>刺してトドメを刺す。


(封印術<屍解仙しかいせん>!)


 ハネケは封印仙術で化け猫の霊体を封印した。

 そのまま霊界のひとつ、常世に飛ばした。

 封印術は霊体を正確に捉えないといけないので化け猫の肉体の動きを封じる必要がある。

 化け猫のむくろもしぼんでただの猫の大きさに戻った。

 そのまま放置すれば土に還るだろう。


(お疲れ様)


 結菜は肩から力を抜いてハネケをねぎらう。

 ハネケは本来の三毛猫の姿を現してとぼとぼ歩きはじめた。

 結菜も後に続く。


(結菜、お前がいると助かるよ)


 ハネケは少し照れながら思念波テレパシーを伝えてくる。

 確かに、化け猫退治においては霊力はあるが小柄なハネケにとっては、結菜であっても前衛として非常に役に立っていた。


(やっと分かってきたようね。そのまま使い魔になってもいいのよ)


(というか、お前の方が俺の使い魔になってると思うが?)


(それもそうね。前衛としてこき使われてるものね。ははは)


 結菜は黒髪と同じ漆黒の瞳を細める。

 確かに、結菜の存在は最近、頻出する化け物退治において不可欠な存在になりつつある。

 猫神十二仙の多くが引退同然になった理由は、相棒パートナーの人間が死んでしまったことにもよる。

 化け猫に成りそこなり、長命な命を保つ猫仙にとっては人間の寿命は短く儚いものである。

 先代のハネケの相棒の風守灯かざもりあかりも「体力の限界」という理由で引退してしまった。

 死なないにしても、命に限りがあるひとりの人間では猫仙の長命な生のパートナーにはなりえないのだ。

 やはり、当分は結菜を相棒にしないといけないかもしれない。


(少し送ろう) 


 そこは猫目町一丁目で北の街堺である。北には猫音ねこね町がある。

 実は結菜の家はこの街に隣接している猫音町七丁目にある。

 猫音町に化け猫がでるという話はまだないが、用心のためである。

 ただの化け猫なら結菜ひとりでも十分、対応できるだろう。

 しかし、もしそれ以上の存在が出れば、まだ未熟な結菜ひとりでは敵わないだろう。


(月が綺麗ね)


 天空に満月が輝いている。

 猫音町の森の中にも光が降りそそいでいる。

 もう少しで森を抜けるだろう。

 

(結菜、ちょっと待て)


 ハネケが姿がすっと消えて、再び陰形おんぎょうモードに入る。

 近くに化け猫がいる。

 結菜の猫目ゴーグルに赤い霊体が映っている。

 ハネケの霊眼に先ほどの物とは比べ物にならない霊力の巨大な化け猫が見えていた。

 しかも、尾っぽがふたつに分かれている。


猫又ねこまただ)


 三十年ほど前にハネケは猫叉と遭遇している。

 先代の結菜の祖母である灯と一緒に戦った記憶があるが、今の結菜の実力では荷が重い。

 結菜を逃がして<猫仙モード>で戦うしかない。


(結菜、逃げろ)


(嫌よ。ハネケを置いて逃げることはできないわ)


 結菜の頑固さは先代譲りで俺の言うことを聞かないのは分かっていた。


(ふう。分かったよ)


 ハネケは結菜と共に猫又と戦うことを決意した。

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