第4話 猫又戦

 結菜は霊刀<銀の薙刀>を振るって奮闘している。

 だが、猫又の霊力が巨大過ぎて動きを封じることはできていない。

 猫又の霊的な体長は十メートルを超えている。

 霊体であっても物理次元に影響を与えるぐらいに周波数を下げていて、ほとんど物理的な身体といって良かった。ゆえに打撃を受ければケガもするし骨折などもしてしまうこともあった。

 もはや化け猫というより恐竜に近いバケモノだ。


(結菜、そろそろ前衛を代わろう)


(私では倒せないと?)


 もう息が切れかけているが、頑固に奮闘している。


(そういう訳ではない。俺の戦い方に慣れてほしいだけだ)


(やっと使い魔になる決心をしてくれたんだ?)


 結菜の顔がぱっと笑顔で輝いた。


(いや、そういう訳じゃない)


(なんだ。残念。では、どうぞ)


 結菜は猫又に一撃を加えて怯んだ隙に後ろに跳びすさった。

 何だか拍子抜けしそうなほどあっさり引き下がる。


猫虎人虎変ねことらじんこへん!)


 陰形おんぎょうモードを解くと、そこに身長二メートルほどの人虎じんこが現れた。

 二本足で立ってる獣人といえばいいのか、左右の前足には鋭い爪が見えるし、身体は虎柄の体毛で覆われていた。

 

(なかなか強そうね)


(ふん、強いぞ。ただ、長くは保たない)


(え? それヤバイじゃん)


(気にするな。これぐらいならすぐに倒せる)


 一抹の不安はあるが、とりあえず短期決戦しかない。

 中空から黄金の槍を取り出す。

 <退魔たいまやり>と呼ばれる強力な霊具である。

 猫又の巨大な尾が飛んできて、黄金の槍で受けたが、後ろに数メートル吹っ飛ばされる。

 

(大丈夫?)


 結菜に普通に心配された。


(おう、問題ない)


 少しふらつきながら、力強く答える。

 返事だけはいつも良い。

 人虎モードは久々なので、少しバランスがおかしい。

 俺も耄碌もうろくしたかな。


(しっかりしてね)


 結菜に言われてしまう。


 ハネケは気を取り直して、<退魔の槍>を握りなおす。

 猫又の弱点はやはり眉間、もしくは喉などの正中線上にある。

 大体、動物ならば、人間であろうと弱点は同じである。


 猫又の尾が再び飛んでくる。

 今度はそれをひらりとかわしつつ、猫又に一撃を放つ。

 だが、巨体にしては動きがよく、軽くかわされてしまう。 


 動いてるうちに感覚が蘇ってきて、攻撃が猫又にヒットしてくる。

 <退魔の槍>は猫又の霊力を削ぐことが出来る霊具なので、猫又の身体も最初の七割まで縮んでいった。

 そして、ついに眉間に<退魔の槍>を刺した。

 

(封印術<屍解仙しかいせん>!)


 何とか猫又の霊体を封印できた。

 猫又の身体は小さな黒猫に戻っていた。


(お見事! でも、ハネケが前衛だと私の出番がないのでちょっと方法を考えるわ)


 結菜が残念そうにいう。

 確かに、結菜の能力には強力な後方支援道術がない。

 前衛としてなら<銀の薙刀>が強力だが、後方支援としては不向きなのだ。


(そうだな。これではコンビの意味がないか)


(そうよ。せっかく、自分の使い魔ができたんだから、支援道術も覚えなくちゃね)


(俺は使い魔になった覚えはないぞ!)


 ハネケはついついムキになる。

 結菜はにやりと笑った。

  

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る