第2話 猫仙堂会議

 猫目町三丁目を見下ろす臥龍山の麓に猫神ねこがみ神社がある。

 猫はネズミを捕まえることから、古代より蚕を飼う養蚕業、機織りの民に取って益獣であり、養蚕業が盛んだった宮城県の田代島(通称・ねこ島)には「猫神社」がある。

 田代島は島民より猫の数の方が多いとも言われていて、猫の楽園だが、その他にも「阿於芽あおめ猫祖神」が祀られている東京の住吉神社、京都の丹後半島の付け根にある京丹後市峰山町の金毘羅神社には「木島神社」という猫神社があり、狛犬ならぬ狛猫までいる。

 ここも「丹後ちりめん」などの織織りが盛んで、その縁で猫を祀っているようだ。

 猫目町も古くから「猫目織り」が盛んで名産のひとつとなっていて、特に猫は大切にされている。

 猫の目をかたどった図案なのだが、猫好きの間で秘かなブームになっている。

 猫神ねこがみ神社もまだそれほどではないが、地方の観光バスなどが着いたりしている。

 その猫神ねこがみ神社の奥の院、臥龍山の山頂近くにある<猫仙堂>と呼ばれるお堂で三匹の猫が話し合っていた。

 <猫仙堂>は十二角形の不思議な形のお堂で、それぞれの壁に十二支の木彫りの図案が描かれていて、その下に猫が入れるぐらいの小さな出入り口があった。

 伝説によると、兵庫県の太子町から移転されたもので聖徳太子の使い魔だった猫を祀るためのお堂だったという。


(しかし、困った。これで何匹目だ? 最近、化け猫になる猫が多過ぎるぞ。どうなってるんだ!)


 黒猫のオス、<猫蛇ねこじゃ>のカトリが嘆いている。

 十二角形の円卓に前足をかけている。

 会話は声を発しない思念波テレパシーで交わされていた。 

 本来、この猫仙堂会議のメンバーは十二支にちなんだ名前をもつ<猫神十二仙>という猫仙によって運営されていた。今は諸般の事情により不参加メンバーが多く、会議の参加者はたった三匹になっていた。

 猫仙は年をとって化け猫になった猫がまれに神仙化したものである。

 大概の化け猫は退治されてしまうのが普通である。


(たぶん、今年、十匹目ぐらいですかね)


 猫仙の長、メスの白猫<猫龍ねこりゅう>のホフリはのんきにお茶をすすっている。

 前足で器用に白い湯のみを抱えている。


(まあ、俺がまた退治してくるよ)


 三毛猫のハネケはぼそりと結論をいう。


(猫手不足は否めない。そこの道術士の手を借りないといけないか)


 <猫蛇>のカトリはじろりと風守結菜かぜもりゆいなの方を見る。

 結菜はハネケの後ろで座布団にちょこんと座ってる。

 右手の床に紺色菖蒲柄の薙刀袋が置かれていた。


(私は望む所です。大丈夫ですよ)


 にっこりと笑う。


(協力してくれるのはありがたいが、俺はお前の使い魔にはならないぞ)


 ハネケは釘を刺す。


(それはわかってるよ。化け猫退治は私の仕事でもあるし)


 口ではそういうが、先代の道術士である結菜の祖母に当る風守灯かぜもりあかりそっくりで全く諦めている感じはしない。

 ハネケは一時、あかりの使い魔として共に戦っていたことがあった。

 風守家は代々、備前の国で道術士として活躍していて、結菜の姉の風守カオルは悪童丸という強力な式神がおり、京都や東京などで現役で活躍しているという。

 道術士は式神、使い魔を持って一人前と言われていて、使い魔のいない結菜がハネケに目をつけているのは明らかだった。


(では、いくぞ、化け猫退治に)


 ハネケは結菜に思念波テレパシーで合図をすると、<猫虎ねことら>の扉を潜って出ていく。

 結菜は猫仙堂の裏口から出て後に続いた。

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