コンビニ猫ハネケの日常

坂崎文明

第1話 コンビニ猫

 俺はコンビニ猫である。

 この猫目町三丁目のコンビニに来るお客さんから日々の糧を頂いて生活している。


 オス猫なのに名前はハネケ。

 俺のご主人さまの長身、金髪碧眼のスタイル抜群のオランダ人美少女がつけてくれた。

 まあ、餌をくれるので大目にみておく。


「ハネケェ、今日はあなたの大好物のイカフライよ」


 今朝もオランダ人美少女は美味しいイカフライをくれた。

 ご主人様はパンツ丸見えだが、武士の情けならぬ、猫の情けで色については言及すまい。

 今は絶滅してるはずの紺色ブルマを履いてるので、正直、俺にも分からない。

 その辺の謎についても追求しない。

 しかし、イカフライは旨いなあ。

 

「ハネケはいつもかわいいわね。特にそのブルーの目が私は好きよ。でも、もふもふの三毛みけも気持ちいいわ。いつまでも触っていたいけど学校にいかなくちゃならないので、またね」


 オランダ人美少女はハネケの頭を撫でていた手を名残惜しそうに引っ込めて、中学校への道を急いだ。

 さっきから彼女の名前を呼ばないのは、彼女の名前も「ハネケ」なのでややこしいからだ。

 大体、自分と同じ名前をつける意味が分からない。

 ただ、イカフライは旨いので、毎朝、それをくれるハネケには感謝している。 

 

 それはともかく、俺のような三毛猫はほとんどメスなのだが、三万匹に一匹の奇跡のような確率でオスが生まれるらしい。

 三毛猫の白毛は性別に関係なく発現するが、黒と茶色の毛はメスの「X」性染色体にしかのらない。

 だから、オスの「XY」染色体では白と黒、白と茶色にしかならなくて三毛猫は生まれないのだ。

 俺は染色体異常で「XXY」染色体を持っているので三毛猫になれた。

 実は生殖機能はないので身体はメスだとも言える。

 というか、ある意味、ニューハーフかもしれない。

 そう考えると、俺の名前を「ハネケ」と命名したオランダ人美少女の勘はなかなか鋭いのかもしれない。

 俺はひょっとすると人間が言う所の性同一性障害というやつなんだろうか。


 それはともかく、古くから三毛猫は幸運を招くと信じられていて、航海安全の守り神とされ、船に乗せられることが多かった。

 特に俺のようなオス猫は希少なので特に珍重されたし、このコンビニでも商売繁盛の守り神として大切にされている。

 お客を呼び込む招き猫みたいなものだ。


 とはいえ、昼ごはんを貰うために、いつもの営業をはじめないといけない。

 俺はいつものようにコンビニの自動ドアの前でゴロゴロしはじめた。

 こうしていると、コンビニに来店する人間がエサをくれたりする。

 俺みたいな猫が一匹、生き残るのもなかなか大変なのだ。


(ハネケ、今晩、ひま?)


 紺色菖蒲しょうぶ柄の薙刀なぎなた袋を抱えたショートカット中学生少女が思念波テレパシーを飛ばしてくる。

 黒のブレザーとスカート姿である。

 風守結菜かざもりゆいなだ。

 俺と話せる奇妙な人間である。


(ひまじゃない!)


(ウソ! ハネケはいつもひまじゃない?)


(今日は猫目町の会合があるんだ)


(化け猫の会合?)


(チッ! 人間には関係ない)


(あれー、この前、化け猫退治をしてやった恩を忘れたの?)


(……確かに、その借りはいずれ返す)


(猫の恩返し? その会合に出席できたらチャラでいいわよ?)


(……全く、お前は喰えない人間だな。仕方ない。21時頃、このコンビニで待ってる)


(了解)


 風守結菜かざもりゆいなはそう言い残して左手を振って去っていった。

 俺の好物の肉まんを置いて。

 なかなか気の利く、いや、その手に騙されないぞ。

 でも、新商品の激辛中華風肉まんはなかなか旨い。

 結局、ハネケは美味しそうに肉まんを平らげると、口の周りをぺろりと舐めた。

     

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