第20話 無職団結!頼れる仲間との今後
喜んだのもつかの間、僕たちは急いで元の町に戻った。あの木のモンスターみたいなやつが他にもいたら、とてもじゃないが勝てない。周囲を警戒しながら一目散に逃げ戻る。幸いなことに帰り道でモンスターに出会うことはなかった。
町につくと、木のモンスターに襲われていた男性が心配そうな顔をしてこちらを見ており、僕たちの姿を見ると泣いて喜んでくれた。氷柱さんは何度も何度もお礼を言われて、少し照れくさそうだった。
そして宿屋にもどり、一眠りしてから食堂に集まる。僕が最後だったようで、三人はとても楽しそうに話をしていた。僕の記憶が確かなら、元居た世界ではこんなに話をしてなかったような…。あまり接点がなかったのかもしれないな。
「おぉ!平くんじゃないか。もうみんな集まってるぞ」
真鍋さんが僕を見つけて、手招きをしながら呼んでくれた。少し恥ずかしかったが、それよりも嬉しいという気持ちのほうが大きかった。
4人席の最後の1席に座り、みんなを見る。なぜか僕が話し始めるのを待っているようだった。
「お、お待たせしてすみません。そ、それでは先に、お待ちかねの、ステータス確認、して、みましょうか」
みんな思い思いに拍手をする。豪快な真鍋さん、控えめな白雲さん、リズムが一定な氷柱さん。
木のモンスターを倒したことで、みんなレベルアップしたのだ。白雲さんはダメージを与えていないはずだが、経験値はしっかり入っていたようで安心した。おそらく、木を凍らせたことで戦闘に貢献したと判断されたのだろう。
安全のため、ステータス確保よりも先に町に戻ることを優先した。が、我々冒険者にとってレベルアップはやはり一つの楽しみなのだ。みんなそれぞれのレベルを紹介する。
僕 12Lv(+2Lv)
真鍋さん 7Lv(+4Lv)
白雲さん 6Lv(+5Lv)
氷柱さん 14Lv(+1Lv)
ステータスは察してほしい。みんなはあのステータスがどれだけ上がった~とキャッキャしていたが、僕はそんなみんなの話をただただつまみにすることしかできないのだ。でもみんなが楽しそうなら、それでいい。
ひとしきりステータス話が終わったところで、氷柱さんが切り出した。
「それで、教えてもらおうか、平くん。なんで平くんが私や白雲さんのスキルを使えたんだ?」
ついにきたか。別に隠そうとは思っていなかったが、いざ話すとなると緊張する。この3人ならないと思うが、もしも拒絶されたら…。
それはそれで仕方ない。元の孤独な冒険者に戻るだけだ。そう分かってはいるのだが、頭とは裏腹に心臓の鼓動は早くなっていた。
まっすぐに僕を見る3人。僕は深呼吸をすると、机に目線を落としながら説明した。
「僕のパッシブスキルは、触れた相手のスキルをコピーする能力なんです」
そこからは、僕がこれまでどうしてきたかを説明した。最初はパーティにも入れてもらえなかったので、スライムを攻撃してはみんなのところにまでスライムを呼び込んで、倒してもらいながら経験値を稼いでいたこと。剣士のパッシブスキルのおかげで、筋力だけは少し高いこと。今は2つのスキルがコピーでき、コピーしたスキルには追加効果が付与されること。
一方的に話続け、一呼吸置く。話すことに一生懸命でみんなの反応を見れていなかった。時間稼ぎに飲み物を口に含む。思ったよりも喉が渇いていたみたいで、一気に飲んでしまった。
誰も何も反応してくれない。沈黙が重い。かと言って自分はもう話す種がないので待つしかない。どれくらい経ったか分からないが、最初に口を開いたのは白雲さんだった。
「平さんは、すごいですね」
それは予想外の言葉だった。
白雲さんを見ると目が合ってしまい、白雲さんは少し恥ずかしそうに顔を背ける。机を見つめ、おずおずと話し始めた。
「私、スキルが使えない魔法使いだったし、友達もいなかったので、パーティ組んでもらえなくて…。モンスターを倒すのも怖いし、もうこの町でずっと過ごすしかないって、本気でそう思ってました。平さんみたいに、何とかしようなんて、考えてもいなかったんです。そんな時、真鍋さんと平さんが、パーティーに入れてくれたから、頑張ろうって思ったんです。だから、平さんはすごいです」
最後のほうは僕の目を真っ直ぐ見ながら話してくれた。予想外過ぎて、こんな時にどういうリアクションをしたらいいのかが分からない。
何も言えずにいると、真鍋さんが口を開いた。
「私の時もそうだったんだ。平くんは諦めるということをしないんだ。必死に私を説得してくれた。そのおかげで、先の戦闘でもみんなを守ることが出来た。本当に感謝している。ありがとうな、平くん!」
ニコッと爽やかに笑う真鍋さん。続けて、氷柱さんも口を開く。
「森でも言ったけど、思ったとおりだよ。平くんはすごいな。ステータスを聞いて驚いたよ。そんなステータスで、あんな化け物に立ち向かうなんて。君は本当にすごい。最初は一緒に行くパーティーを探してたけど、今は違う。一緒に行かせてもらいたいと思えるパーティーと出会えたからな」
少しだけ優しそうな表情を見せる氷柱さん。
今まで友達らしい友達がいなかった僕は、こんな時どうしたらいいのかが分からない。みんなが僕のことをそんな風に思ってくれていただけでも感動しているのに、どう感謝したらいいんだろう。
「………言葉が出てきません。皆さんにそんなふうに思っていただけていたなんて、ほんと嬉しいです。でも僕のスキル、気持ち悪かったり、うらやましいと思ったりはしませんか?僕だったら、自分が頑張って身につけたスキルを、いとも簡単にマネされるのはいい気持ちがしないというか…」
「まったく!」
「ぜんぜんです」
「微塵も思わんな」
3人は否定の言葉を口にする。そして続けざまにこう言った。
「正直、平くんのステータスでは、私のスキルをコピーしてもロクに使えないだろう?私のほうがみんなを守るのにふさわしいことには変わらないしな!」
「た、平さんのスキル、私が詠唱せずに発動したくらいの威力だったと思うので、嫉妬したりはないかと」
「"乱刀"でも差が出るレベルだからな。手を握られるのは少し抵抗はあるが、そのレベル感ならなんとも思わないな」
フォローしてくれるのかと思いきや、みんな思い思いの角度からバシバシ切ってきた。地味に白雲さんの言葉が一番突き刺さる。結構本気で唱えたんだけどな。
傷心している僕が面白かったのか、真鍋さんがワッハッハ!と大きく笑い、僕の右肩を思い切りバン!とたたいてきた。
「正直なところ、他の誰かが同じスキルを持っていたら、反応は違ったかもしれないな。だけど、平くんなら大丈夫!みんな同じ気持ちだ!」
最上級に嬉しい言葉だが、その前段があまりにも心の奥底に突き刺さっていて、素直に喜べない。そんな僕の様子を察してか、さらに右肩をバンバンたたいてくる。
「何はともあれ、これからよろしくな!平くん!」
これから。
そんな一言がこんなにもうれしいなんて、思ってもみなかった。
二人のほうを見ると、二人も小さくうなずいてくれた。僕はうつむき、照れた顔を隠す。少し気持ちを落ち着けてから、みんなに向き直った。
「こちらこそ、これからよろしくお願いします!」
まだまだ女性と話すのは恥ずかしいけど、これから少しずつ慣れていこう。そして、このパーティーで魔王を倒そう!願わくば、他の誰かが倒してほしいところだけど。
今日はお祝いだー!という真鍋さんに続き、みんなで思い思いのご飯を頼む。4人で楽しく食べる食事は、今まで食べたご飯の中で一番おいしかった。
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