第19話 無職奔走!初めての4人協力勝負!
氷柱さんと別れ、僕は木陰に隠れたまま機会を伺う。氷柱さんには僕が考えた作戦を全部伝えた。氷柱さんは少し不安そうだったが、それでも納得してくれたようで、木陰から姿を現した。
「おぉ~、なんだよおい、お仲間のところに行っちゃったのか。それで?どうするってんだ?」
「決まってるだろう。お前みたいな醜悪で下品で害のあるモンスター、野放しにすることはできない。ここでケリをつける」
そう言うと、氷柱さんは真鍋さんと白雲さんに耳打ちをする。僕が話した作戦を伝えてもらうためだ。白雲さんは怖がりながらもうなずいてくれた。かすかに手が震えているのが遠目にも分かる。真鍋さんは「ワッハッハッハ!」と豪快に笑うと、モンスターに駆け出した。
「それくらい分かりやすいほうが、私の性に合ってるなぁ!」
ドザザザザ!ともの凄い音を立てながら斜面を駆け降りる。
その迫力に気圧されたのか、モンスターは真鍋さんの方向に木を数本生やし、射程距離内に入った真鍋さんに襲いかかった。
真鍋さんはシールドバッシュを使ったようで、盾に触れた木が後方に弾き飛ばされる。だが、木の枝を壊すほどの威力はないようで、木は再び真鍋さんに襲い掛かってきた。
「はっはぁ!来るならこい!」
ガンガンガン!と盾と木がぶつかり合う音が聞こえてくる。音だけ聞いてると心配になる。真鍋さんは本当に大丈夫なんだろうか。
氷柱さんと白雲さんは、真鍋さんとモンスターを直線状に結ぶようにして、真鍋さんの後方に隠れるようにして立ってもらうようにした。十中八九攻撃されることはないが、もし白雲さんがターゲットにされ、人質にでもされたら勝ち目がない。それに、この木のモンスター以外が来る可能性だってある。みんなで無事に帰るための最善策だと僕は考えている。
「なんだ、迫力だけか!よく見ると盾しか持ってないじゃないか!それで?これからどうするんだぁ!!」
木は鞭のようにしなり、容赦なく真鍋さんに襲い掛かる。真鍋さんはパッシブスキルの効果で被ダメージが5割減、氷柱さんと耐久力が同じくらいだと考えても2倍以上耐えられる。しかも、ほとんどの攻撃は真鍋さんにダメージを与えることを目的としておらず、真鍋さんを近づかせないためのものだったので、ほとんど盾で防御できているため、体力的には余裕があるはず。だが、分かってはいるもものの、どうしても焦ってしまう。今間違えれば勝機はない。これに賭けるしかないんだ。
氷柱さんが動く。今にも走り出しそうな構えを見せる。木のモンスターは真鍋さんを攻撃しつつも、しっかり氷柱さんの警戒も怠っていないようだった。
氷柱さんが足に力を込める。木のモンスターはというと、真鍋さんへ攻撃する木の本数を減らし、氷柱さんの攻撃に構えているようだった。瞬間、氷柱さんが横に飛ぶ。モンスターもこれには予想外だったようで、氷柱さんを目で追いながら、その後ろにいた白雲さんに気が付く。そう、氷柱さんと白雲さんをモンスターから見て直線状に立たせたのは、白雲さんの詠唱を隠すためでもあったのだ。
「アイスロック!!」
先ほどと同様に強烈な冷気が森を襲う。だが、アイスロックはモンスターから見て大きく右にそれ、地面から生えている木すら凍らせられないくらい外れてしまった。
その様子を見たモンスターは、さっきまでの警戒心はどこへやら、上機嫌に口を開く。
「なんだぁお前、全然外れてるじゃねぇか。さてはまだレベルが低いな?それに、発動まで時間がかかりすぎてる。これじゃぁスキルとなえてる間にタコ殴りにできるレベルだ!おぉっとそこの目つきが鋭い姉ちゃん、隙をつこうとしても無駄だぜ。俺はしっかり警戒してるからよぉ」
モンスターはゲラゲラ笑いながら、地面から木を生やして威嚇しつつ、真鍋さん、白雲さん、氷柱さんを視界に入れ、一定距離を保っている。
「おい、腐った丸太」
氷柱さんは構えを解くと、モンスターにそう話しかけた。
「あ?それは俺のことか?」
「お前以外に丸太があるのか、マヌケが」
「は!強がっちゃってまー可愛いこと。で?どうした?まさか命乞いしようってのか?」
「お前は勘違いしてる。警戒すべきは私ではない」
「まーそうだろう。お前は近づかないと攻撃できない。今警戒すべきはそこの魔法使いのガキだ。ま、そいつも俺に攻撃を当てられないだろうがな」
「違う」
「あ?まさかこの盾の姉ちゃんか?こいつは守るだけだろ。脅威にすらならねぇ。どうした?ビビッて頭がおかしくなったか?」
「違う。まぁ、その腐った頭では思い出せないんだろうな」
「てめぇ…いいかげんに…」
そこでモンスターは話すのをやめた。何かに気づいたのか、それとも何かが頭の片隅にひっかかったのか、どちらでもいいが、もう遅い。
突然、モンスターは後ろを振り向いた。そして目が合った。
短刀を構え、振り下ろそうとしている僕と。
「な、なんでお前がぁ!!!」
「"乱刀"!!!」
氷柱さんの短刀で乱れ切る。追加効果のおかげもあり、入れられた攻撃は4撃。
僕は氷柱さんと握手をし、"隠密"と”乱刀”をコピーしたのだ。"隠密"の追加効果は、一度警戒心を解いたり意識から外すと、自身の存在を忘れさせるというものだった。それでも、物音がしたり気配がすると気づかれてしまう。そのため、真鍋さんにわざと大きな物音をたてて気をそらしてもらい、氷柱さんと白雲さんの行動にくぎ付けにした隙をついて近づくことに成功したのだ。
だが、僕の攻撃だけではモンスターを倒すことができなかったようで、地面から木が勢いよく生えてきて僕に絡みつく。
「バカが!お前みたいなザコの攻撃ちょっとくらったくらいで、死ぬ俺じゃないんだよぉ!」
口ではそう言うものの、かなりのダメージがあったようだ。必死さが僕にも伝わってくる。木が上半身にまで絡みつこうとしてきたので、僕はありったけの力で、短刀をモンスター目がけて投げつけた。
モンスターは一瞬驚いた反応を見せたが、左に体を倒して短刀をかわす。
「は!最後の攻撃か?残念だったなぁ!お前から先に殺してやる!」
木に力が加わるのを感じる。少しだけ顔をゆがめるが、もう結果は分かっていた。
「違うだろ…僕なんか警戒してていいのか?」
「は?……しまっ!!!」
僕が投げた短刀は地面に落ちる前に持ち主の手に渡る。モンスターが振り向くよりも早く、その女性はモンスターの背後を取り、そして静かに言った。
「"乱刀"」
僕の時なんかとは比べ物にならないくらいの速さと迫力で、モンスターが切り刻まれる。モンスターは声も発せなかったようで、僕に絡みついていた木も、真鍋さんを攻撃するために地面から生えていた木も、ボロボロと崩れ落ちた。
支えがなくなり、僕は後ろに倒れ込む。氷柱さんがすぐさま駆け寄ってきて、僕を覗き込む。
「やりましたね、氷柱さん」
そう僕が言うと、表情が変わらないことで定評のある氷柱さんが、優しいほほえみを浮かべた。
「やはり私が思ったとおりだ。すごいんだな、平くんは」
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