第17話 無職焦燥!強さこそが正義だと分かってはいるが
~平目線~
氷柱さんが去って行った後も、俺たちは白雲さんのスキル練習を続けていた。MPのこともあるため、そんな連発はできない。1回1回集中してスキルを使わないといけないが、白雲さんはどこか集中できていないようで、いったん休憩を入れようと提案した。
「し、白雲さん、大丈夫ですか?集中、できてないように見えますが…」
「………ば、バレちゃいましたか…」
真鍋さんの後ろでもじもじしている。真鍋さんも思うことがあるようで、口を開かずに飲み物を一口ふくみ、まっすぐ前を見ていた。
「………な、なんとなくわかります。氷柱さんのこと、ですよね」
多分みんなそうだ。氷柱さんが去って行くのは仕方ないと思いながらも、どこか引っかかることがあり、吹っ切れられていないらしい。
「………やはりおかしい。納得がいかない!」
そう言いながら、真鍋さんが勢いよく立ち上がった。
「昨日氷柱さんと話した時、言葉はキツイが、どこか優しさを感じたんだ。そんな人が、自分の損得だけでパーティを組んで、それを理由に抜けるとは考えにくい!きっと何かあるに違いない!」
「わ、私もそう思ってました。氷柱さん、私がおどおどしてるのも気にしないようでした。ほかの人はイライラするとか、うざいって言ってくるのに。さっきはストレートに言われてしゅんとなっちゃいましたが、氷柱さんはいい人だと思います」
二人は立ったまま向かい合い、うんうんとうなずき合っている。真鍋さんはなんとなくそうなるかと思っていたが、白雲さんもそういうとは意外だ。結構厳しいことを言われたのに、それでも氷柱さんをかばうなんて。
「平くんはどうなんだ?結構キツイことを言われていたから、かかわりたくないか?」
真鍋さんからそう聞かれ、少し考える。かかわりたくないかと言われたら、正直かかわりたくない。女性とかかわることが僕にはかなりの負担だ。真鍋さん、白雲さんとも話すのにまだまだ緊張する。それなのにあの無表情美女を迎え入れるのはメンタル的にしんどくなることは分かり切っていた。
だけど、去って行く後ろ姿、僕たちにキツイことを言うときの表情、そして二人の反応が気になる。それ以上に、僕も何かが引っかかっていた。
「しょ、正直、これ以上女性がパーティーに加わるのは、き、緊張します。けど、氷柱さんの反応、少し、おかしいなとも感じました。だから…」
勢いよくバッと立ち上がる。
「も、もう一度話しましょう!そうとなれば、早く追いかけないと、ぼ、僕たちのレベルでは、次の町に行くのはかなり厳しいですから!」
そう言うと、二人とも目を輝かせる。真鍋さんなんてすぐさま駆け出してしまった。
「ま、待って!真鍋さんと離れると怖いので、一緒に!そして、白雲さんのペースに合わせていきましょう!」
少し駆け足で、氷柱さんが去っていた方向を進む。どこからモンスターが強くなるか分からない。真鍋さん、白雲さん、僕の順番で縦にならんで進み、周囲はめちゃくちゃ警戒していた。
「いいですか、見たことないモンスターが出てきたら引き返します。命大事、です」
「うむ!」
「わ、わかりました!」
氷柱さんが立ち去ってから、おそらく10~15分。そんなに遠くに行っていないはず。走ればなんとか次の町、モンスターが強くなる前に追いつける、と信じたい。
走り始めて3分程度だろうか。真鍋さんが足を止め、盾を構える。僕たちも武器を持ち、真鍋さんが向いている方向を警戒して見つめた。走ってきたのはこの世界の住人のようで、どこか慌てている。
「ぼ、冒険者さん!た、助けてください!!」
息も切れ切れに、僕たちに助けを求めてくる。真鍋さんは相手を落ち着かせながら「ゆっくりでいい。まずは状況を教えてくれ」と声をかけていた。慣れているようにも見える。
「木、木のモンスターに襲われて、か、代わりに、冒険者が1人、つかまって」
そこまで聞き、背筋がざわつくのを感じた。真鍋さん、白雲さんも同様だったようで、途端に空気が重くなる。
「それは、僕と同じくらいの身長で、少し冷たい雰囲気の女性でしたか?」
「そうです!その人が、助けてくれて、それで…」
「今あなたが走ってきた方向ですか?」
「そうです」
住人の返事を聞くか聞かないかのタイミングで僕たちは駆け出した。
「住人の様子から、5~10分程度走れば着くくらいの距離だと思います!周囲は僕が警戒するので、とにかく急ぎましょう!」
返事はなかったが、みんな同じ気持ちだったようだ。さっきよりも早いペースで走る。白雲さんはツラそうだったが、それでもギリギリついていけるスピードだ。しばらく走っていると、独特の戦闘音が聞こえてきた。刃物で何かを切りつける音だ。
みんなで周囲を確認する。その音の正体に最初に気づいたのは僕だった。
木に背を預けて、迫り来る木を切りつけている氷柱さん。傍目から見ても戦況は良くなさそうだし、危険な雰囲気さえ感じる。
「氷柱さん!」
真鍋さんはそう叫び、駆け出そうとするが、僕は腕をつかみそれを静止する。
「平くん!なぜ止める!このままでは!」
「みんな死んでもいいんですか!」
真鍋さんよりも強い語気で叫ぶ。僕の迫力に気おされたのか、真剣さが伝わったのか、真鍋さんは動きを止める。すぐさま僕は口を開いた。
「氷柱さんの足元をみてください。木が絡まってます。おそらくそれで逃げられない。氷柱さんの強さで逃げられないなら、僕たちがつかまったらおしまいです。死にます。助ける作戦を考えます。今はこらえてください」
氷柱さんから目を離さないまま、端的に伝えたつもりだ。真鍋さんも分かってくれたのか、悔しそうな顔をしながらも飛び込むのはやめてくれたようだ。
氷柱さんで逃げられないんだ。おそらく力ではほどけない。となると、真鍋さんや白雲さんがつかまったらアウト。僕でも振りほどけるかわからない。氷柱さんは近距離系。僕、真鍋さんではモンスターに目をつけられたら終わる。可能性があるとしたら白雲さん。だが、まだ範囲のコントロールができない。氷柱さんを巻き込むかもしれない恐怖から、おそらく頼れない。
だとしたら…
「白雲さん」
僕は白雲さんに話しかける。白雲さんはビクッと体を震わせ、「は、はい!」と返事をした。
「僕と握手をしてください」
「は、はい!………え?」
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