第16話 冷血危機!諦めたくはないが…
〜氷柱目線〜
突然切れた木、突然現れた私に驚いて固まっている男性に、「早く逃げろ!」と叫ぶ。私もすぐにその場から離れようとしたが、遅かった。
私の足に、さっきまで男性の足に絡まっていたような木が二本絡みついていた。
「狙いどおり冒険者が釣れたかな〜。どんなやつか楽しみだな〜」
どこからかこもった声がする。地上ではない。下から聞こえてきている。地上より下となると地面しかない。
男性が少し離れたところでオロオロしていたので、「早く行け!邪魔だ!」と一喝する。その言葉を聞いて恐れたのか、男性は一目散に町のほうへ走って行った。これでいい。まずは1つ目的を達成できた。
「いいね〜気が強いネーちゃんは好きだぜぇ。なぶりがいがあるってもんだよなぁ〜」
しゃべり方からも、品性がないことが分かる。声のしたほうを見ていると、私から10メートル程度離れたところの地面が盛り上がり、腐った丸太のようなものが姿を現した。
目は真っ黒で鋭く、口はギザギザとしていて不気味だ。ニタニタと笑うように口角があがっているのが気に食わない。
腐った丸太は私を見ると、さらに嬉しそうな顔をした。
「おー!!これは大当たりじゃねぇか!いいねいいねぇ〜最高だねぇ〜!!!」
グワッハッハッハ!と笑いながら上を見上げる。こんな隙を逃すほど私は気が長くない。
すぐさま短刀を握り、足に絡まった木を切断する。しかし、すぐに別の木が足に絡みついてきた。再び切るも、また別の木が即座に絡まる。
「無駄だよ、無・駄。お前が切って動くよりも、俺が足を捕らえるほうが早い。というか、これ以上抜け出そうとするなら、全身を縛り付けてもいいんだぜぇ?」
ニタニタと人を馬鹿にした態度が気に食わないが、この力で全身を縛りつけられたらそれこそ終わってしまう。悔しさから短刀を強く握りしめながらも、ゆっくりと地面に手をおろした。
「そうそう。それでいいんだよ。それで?お前味方は?まさか1人か?」
「………だったらなんだ」
「マジかよぉ!だいたいこの辺を通るやつは最低でも2人、もしくは3人以上のやつらが多いから警戒してたのに!これまた大当たりだ!お前、よっぽど嫌われてるんだなぁ!」
心底楽しそうに笑う木の化け物。嫌われてるからなんだ。不意に真鍋さん達の顔が思い浮かんだが、すぐに振り払う。自分から嫌われるようにしたのだ。嫌われたのなら予想通り。むしろ喜ばしいことだ。
「俺はよぉ、1対1なら強いんだけど、多対1だと威力が分散したり、意識が散漫になったりするから苦手なのよ。だからこうやって、住人をたまーに襲っては、1人だけ冒険者が現れるのを待ってたんだ。ついに来たなー、この時がぁ!」
「嬉しそうで何よりだ。それで?冒険者をどうしようっていうんだ?」
「決まってるだおぉ…こうすんのさぁ!!!」
来る!次の瞬間、私の周りから木が四本あらわれ、私に襲いかかってきた。1本1本相手をしてたんじゃ間に合わない。
「乱刀!」
短刀で4本の木に8撃あたえ、自分に当たる前に木片に変えてやった。
「おーおーさすがだねぇ。こっちに来ようとしただけはある。だが、これならどうだ!」
今後は全方位から、木が地面を突き破るボコォ!という音が聞こえてきた。まずい。"乱刀"は私が今向いている方向にしか攻撃できないため、背中側からの攻撃には無防備になってしまう。
再び"乱刀"で前方の木はやり過ごすも、後ろから攻撃をくらってしまう。
「うぐ!!」
「そうだよなー。1人じゃ背中からの攻撃には対応できないよなー。ほらほらどうするよぉ!」
またもや同じような攻撃が来る。"乱刀"で前方からの攻撃だけ防ぐが、これじゃジリ貧だ。
私はなんとか足を引きずり、男性がしがみついていた木までたどり着くと、木に背中を向けるようにして立った。これで前方からの攻撃に集中できるはずだ。
「まぁそうなるよなぁ。じゃぁ、どっちが精根尽きるか勝負と行くか。だけど残念なことに、俺の根に終わりはないけどなぁ!」
腐った丸太は少しだけ私のほうに近づき、再び気合を入れたかと思うと、木が6本あらわれた。すぐに攻撃してくるのかと思ったが、木はうねうねと動き、攻撃してくるかと思えば離れ、を繰り返す。
「何をやってるんだ。早く来い!」
「まぁまぁ、そう焦るなよぉ。俺は一気に終わらせようなんて思ってないんだ。じわじわじわじわ、お前が弱っていくところが見たいんだからさぁ」
ビシィ!という音とともに、右足に痛みがはしる。油断していた。7本目の木が右側面から現れ、鞭のようなしなりで私の足を攻撃してきたのだ。
すかさず次の木が私に襲い掛かる。1度に全本数ではなく、1本ずつタイミングを変えながら来るため、"乱刀"で防ぐこともできないし、常に気を張り続けなければならない。
相手の攻撃力自体はそんなに強くなさそうだ。だが確実に、少しずつだが体力が削られているのが分かる。
1撃、2撃、時間が経つごとに攻撃を受ける頻度が増してくる。いつも気を張っていないといけないプレッシャーと死の恐怖からか、息はあがり、汗を滝のようにかいていた。
「まだ死なないよなぁ。教えてやろうか?冒険者はケガをしない。だけどな、体力が残り少なくなると、極度の疲労感が体を襲い、膝をついたり、座りたくなったりするらしい。どうだ?そんな感覚が今お前を襲ってないか?」
これが本当の疲労からくるものなのか、体力が少なくなっているからくるものなのか分からないが、疲労感が体を襲う感覚は感じていた。死が身近に迫っているのを感じる。あの腐った丸太に"乱刀"を1撃でもくらわせられたら、勝てるかもしれないというのに、あいつは一定の距離を保ったまま絶対に近づこうとはしてこない。これじゃぁ近接系のスキルしかない私には勝ち目がない。
「いや!まだだ、あきらめるな!あきらめなかったら必ずチャンスが来る!」
自分に言い聞かせるように叫ぶ。それを聞いたモンスターは、嬉しそうに声を荒げる。
「グワッハッハッハッハァー!チャンス?あるわけないだろそんなもん!俺は絶対にお前に近づかない。お前は俺本体に攻撃を食らわせることなく死んでいく。分かり切ってるだろう?このまま死ぬんだよぉお前は!グワッハッハッハー!」
いつもの私なら否定するだろう。だが、心の底では感じていた。この状況を打破する手段を持ち合わせいないことに。それ故の結末に。
こんな時に頭によぎるのは、昨日の楽しかった夕食の時間。少しだけど話ができて本当に嬉しかった。あんな心穏やかな時間を、もう一度過ごしたかった。
「何考えてるんだぁ?そろそろラストスパートと行こうかねぇ!」
地面からさらに木が生えてくる。分かる範囲で9本。一度に襲ってこられたら"乱刀"でも防ぐのが難しい。それでも…それでも、戦うしかない!1人で!
私は短刀を構え、木が襲ってくるのを待った。その時、かすかに何かが聞こえた気がした。
「――――――ル!」
なんだ?音?声?
そう考えていると、突然視界の外から火の玉があらわれ、私の目の前に生えている木に当たる。
「な、なにぃ?!」
モンスターも驚いているようだ。木が燃えたことによる炎と煙で、モンスターの視界が遮られた。瞬間、足元の木を切断し、抜き足を使ってその場を離れることに成功する。
「あ!し、しまったぁ!」
モンスターの悔しそうな声が聞こえてくる。十分距離を取り、火の玉があらわれた方向を見ると、そこに立っていたのは、真鍋さん、白雲さん。それに。
「平…なんでお前がここに?」
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