第13話 無職当惑!何をどうすればいいか分からない!

 何とか真鍋さんの誤解を解いて、しばらくは白雲さんのスキル練習に付き合っていたが、結果としてなかなかに時間がかかりそうだった。1日ではスキル名を言わずにスキルを使うことは難しかったようだし、効果範囲も狙いより大きめになりがちで、レベル上げにはもう少し時間がかかりそうだ。


「ま、まずは焦らず、白雲さんのスキル練習をしましょう。アイスロックで範囲を自在にして、スキル名を言わずに使うようになれれば、他のスキルもきっとすぐにできるようになりますよ」

「わ、分かりました。が、がんばります」

「ではとりあえず私は、白雲さんがスキル練習をしている間は周りを警戒して、何かあれば助けられるようにしておこう」


 晩御飯を食べながら、四人がけのテーブルを三人で囲うように座り、今後のことについて認識合わせをしていた。ここの食事はどことなくとっつきやすく、現実世界で食べていた料理に似ていて、抵抗なく食事ができるし、この世界での唯一の楽しみだ。白雲さんも、ご飯を食べている時はリラックスしているようにも見える。

 そんな時だ。

 ドカッ!という音とともに、四人がけテーブルの最後の一枠に勢いよく誰かが座ってきた。僕たちは食事の手を止め、その一席に視線を集める。

 座ってきたのは、僕が無職だとバレるきっかけを作った、無表情美女だった。

 誰も話さないまま数秒が経ち、真鍋さんが口火を切った。


「おぉ!氷柱つららさんじゃないか!どうしたんだ?お腹が減ってるなら食べるといい!」


 初めて知った。クラスメイトだけど、僕は周りになじめなかったからクラスメイトの名字をほぼ知らない。だから冷たいとか思わないでくれ。

 真鍋さんにそう言われ、氷柱さんはじっと真鍋さんを見ていたが、一呼吸置くと口を開いた。


「私をこのパーティに入れてほしいんだけど」


 僕は言われた言葉の意味が分からず、ぽかーんとしていた。白雲さんを見ると、同じような反応をしていた。唯一反応したのはやはり真鍋さんだった。


「もちろんじゃないか!パーティは何人いてもいいからな!よろしく頼むぞ!氷柱さん!」


 真鍋さんはワッハッハと言いながら氷柱さんの肩をたたこうとしたのだが、氷柱さんは最小限の動きでそれをかわす。ようやく思考が追い付いてきたため、慌てて今度は僕が口を開いた。


「ちょちょちょ、ちょっと待ってください!り、理由を、理由を教えてもらえますか?」


 氷柱さんなら戦力的に増強されることは間違いないが、これ以上女性が増えるのは僕のメンタル的にキツイ!それに、おそらくだが氷柱さんにはかなりの力がある。それなのに僕たちのチームに入るメリットが分からない。むしろ今の僕たちは足を引っ張りかねないはずだ。

 理由が分からないことほど怖いものはない。理由が納得いくものじゃなければ、申し訳ないが断ることも考えないといけない、と本当に考えていた。


「理由か?私はたいらに興味があるんだ」


 そう言われ、またしても理解が追い付かず、白雲さんと真鍋さんを見る。二人ともこちらを見ていた。ということは、平とは僕で間違いないようだ。

 僕は氷柱さんのほうを見る。氷柱さんは冷たく見えてしまうような無表情でこちらをじっと見ていた。

 黙ったまま、僕は自分の右手人差し指で自分を指さし、首を少し傾けると、氷柱さんは黙ってうなずく。

 再度白雲さんと真鍋さんのほうに目を向けると、白雲さんはちょっとそわそわもぞもぞしていて、真鍋さんは何とも言えない表情でじっと僕を見ている。

 初めての体験過ぎて逆に冷静になってしまっていた。僕は一度深呼吸をして、もう一度氷柱さんに尋ねる。


「えっと…その…なんで僕なんかに興味を?」

「初めて見たときに、あなただけ特別だったから」


 下を向き、自分の中で氷柱さんに言われた言葉を反芻する。そして思った。うん。全然まったくさっぱり分からない。

 何故か分からないけど、恐る恐る真鍋さんを見る。正確には見ようとする。口元まで見たところでなんだか怖くなってやめた。


「その特別というのは、恋愛感情とかなのかな?」


 真鍋さんが氷柱さんに尋ねる。僕は目線を机に向けたままでいることしかできなかった。


「恋愛感情?馬鹿を言うな、なんで私が平なんかを」


 本当に吐き捨てるようにそう言った。そんな期待はまったくしてなかったが、それでも心が痛んだ。真鍋さんの口元に目をやると、口角があがっているのが見えた。安心していいのかどうなのか、本当に複雑な感情だ。


「デブに攻撃をした後のことだ。みんなが安心しきってるのに、平だけが険しい顔をしていた。それで興味を持ったんだ。こいつはタダものじゃないって」


 そう言いながらテーブルの上にあったパンを頬張る。「それ私のだぞ」と真鍋さんに言われ、しばらく固まった後にポケットをごそごそすると、パンの代金をそっと真鍋さんに渡した。悪い子ではないみたいだ。

 デブとは王様のことだろう。王様の発言が本気だったと知り、恐怖していたあの時のことを言っているに違いない。それにしてもとんでもない買い被りだ。僕なんてなんでもないそこらへんの小石より価値がない男だ。

 訂正しようとすると、先に真鍋さんと白雲さんが口を開く。


「そうなんだ!平くんはなかなかすごい男だと私も思うぞ!気が合うじゃないか!仲良くしような氷柱さん!」

「わ、わたしも、平さんはすごいって思います。こ、こちらこそ、よろしくお願いします」


 僕の言葉を待たず、二人が快諾してしまった。


「よろしく。ただ、平が期待どおりの男じゃなかったら、パーティーを抜けさせてもらうかもしれないけど」


 氷柱さんもパーティーに入る気満々らしい。だが、パーティーを抜けるという言葉を聞いて安心する。おそらく、早々にパーティーを抜けることになるだろう。僕はそう思いながら、自分のパンと肉を頬張るのだった。

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