第12話 無職希望!新たなチームの爆誕!
「ス、スキル名を言わずに、ですか?」
僕にそう言われ、少し考える白雲さん。
違和感を感じたキッカケは真鍋さんだ。真鍋さんがアクティブスキル”シールドバッシュ”を使う時、最初はスキル名を言っていたが、後半は言わなくても使えるようになっていたことを思い出したのだ。
「真鍋さん、最初はスキル名を言ってましたけど、後半はスキル名を言わなくてもスキルが発動してましたよね。その時どうしてますか?」
「ん?どうと言われてもな…パンチする時に『パンチ!』って言わないのと同じ感覚かもしれないな。最初は発動するのに違和感があったからスキル名を言うことで意識してスキルを発動してたが、後半は慣れてきたからスキルを出したい時に出せる、そんな感じだな。」
これで1つ希望が見えた。おそらく、スキル名は言わなくてもスキルは発動する。スキル名を言うというタイムロスは無くせるだろう。
そしてもう1つ気になっていることがある。それはスキル名を発するまでにかかっている時間だ。
「白雲さん、スキル名を言うまでにも間がありますよね。あの時間って何をしているんですか?」
「そ、それは…説明が難しいんですけど…頭の中でスキルを構築している、と言いますか、理解を深めていると言いますか…」
真鍋さんの後ろでもじもじしながら答えてくれた。構築、理解。そのキーワードをもとに、どうにかして対策ができないか考える。真鍋さんのような物理系のスキルと魔法系のスキルでは根本的に違う気もするが、それで諦めたらもう希望はない。
仮説でもいいので何かを出し、そこから推理していく。僕はこれをDr.Stoneという漫画から教わった。
その時、白雲さんのパッシブスキルのことが頭をよぎった。
【パッシブスキル】
・魔法の理解者
書籍や伝聞、魔法使用を繰り返すことで、新たなスキルを習得したり、そのスキルの理解度を高めることができる。
理解度を高めるという部分。理解度を高めたらどうなるかまでは書かれていない。
これが魔法ではなく、スポーツや格闘技に置き換えたらどうだろう。書籍や伝聞、繰り返し同じ動作・技をすることで、その技の理解度があがった結果、精度や威力があがる。
これと同じことが白雲さんで起きているとしたら…
「白雲さん、もう一度アイスロックを使ってみてもらえますか?今度はできるだけ考える時間をなくし、すぐに使ってほしいんです」
そう言うと、最初はきょとんとしていた白雲さんっだが、ハッと気づきこくこくとうなずいてくれた。
僕と真鍋さんは白雲さんから距離を取り見守る。
白雲さんは一度深呼吸をすると、意識を集中させていたが、おそらく僕の言葉を思い出したのだろう。途中でハッとし、慌ててスキル名を言った。
「ア、アイスロック!」
スキルは発動した。さっきと違うのは効果範囲と威力だ。さきほどは辺り一面が氷に覆われていたが、今は教室の半分くらいの範囲にまで狭まっており、キンキンに凍っていた草葉も触ったら葉っぱの柔らかさを感じるくらいになっている。
「こ、これは…」
白雲さんは驚いて戸惑っているようだ。ただ、僕はこれでおおよその見当がついた。
「なるほど、これは…」
「そうか、スキルを発動するまでに集中した時間分、スキルの効果が強力になったのだな」
僕が言おうとしていたセリフをそのまま真鍋さんに言われてしまった。なんとも複雑な気持ちだったが、「そ、そのとおりだと思います」と続けるしかなかった。
「し、白雲さんが悩んでいたことは2つ。スキル発動までのタイムラグと、仲間を巻き込むかもしれないという制御のできなさ、でしたよね。で、ですが、どちらも対策しようと思えばできることが分かりました。あとは慣れるだけかと」
考察時は特に気にせず話せていたのだが、いざ人に対して話そうと思うとやはり緊張してしまい、どうしてもどもってしまう。情けない限りだ。
それでも白雲さんには朗報だったようで、今までだったら真鍋さんの後ろに隠れておどおどしていたが、僕の話を聞いて目を輝かせているようだった。
「と、ということは、スキル名を言わなくてもいいように練習したり、スキル詠唱時間を調整すれば…」
僕はこくりと頷き続けた。
「は、はい。ま。仲間を巻き込むこともなくなるはずですし、何よりすごく頼りになる存在だと思います。範囲攻撃、防御、単体火力。こ、こんなに頼もしい味方はいません。」
そう言うと白雲さんは顔を輝かせ、目に少し涙を浮かべながらも大喜びしてくれた。頑張った甲斐があった。こんなに喜んでもらえるなんて。それにこれは僕たちにとっても超朗報だ。僕と真鍋さんでは火力が心配だったが、そこもカバーできるし、それ以外にもかなり汎用性が高い。火、氷、風、石。レベルがあがるのが楽しみだ。
真鍋さんにも話しかけようとすると、何故かむっとした表情をしていた。
「ま、真鍋さん、どうしたんですか?」
「む?別に?『こんなに頼もしい味方はいない』ということだったが、私は頼もしくなかったということかと思ってな」
そう言われ焦る。そんなつもりで言ったわけではないが、真鍋さんだったらそう取ってしまってもおかしくはない。
「ちちち、ちがうんですよ真鍋さん!そんなつもりで言ったわけでは…」
「ふん!いいんだいいんだ。私は盾で守ることしかできない女なんだ!」
喜ぶ白雲さん、拗ねる真鍋さん、焦る僕。
とんでもない状況だが、これからのことを考えるとワクワクするしかなかった。
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