第11話 無職苦悩!味方にすることはできるか!

「えっと…ちょ、直接話しかけると、白雲さんを、こ、恐がらせてしまうので、ま、真鍋さんに話しかけますね」


 そう断ると、真鍋さんは「よし!分かった!」といい返事をくれた。真鍋さんの後ろにいる白雲さんもコクコクとうなずいているようだったので、とりあえず続ける。


「こ、この世界では、レベルアップが重要です。ま、真鍋さんにもお伝えしましたが、モンスターだけではなく、自分の身を守るためにも、強くなっていて損はないです。ですので、し、白雲さんも、頑張ってレベル上げしていただきたいのですが、ど、どうでしょうか?勿論、僕たちもお手伝いします」


 勝手に僕たちと言ってしまったが、真鍋さんのことだから白雲さんを見捨てるなんてするはずないし、聞くまでもないだろう。

 僕の言葉をそのまま白雲さんに伝えようとして、「聞こえてたから大丈夫だよ」と言われる真鍋さんに、すこしほっこりする。モンスターや戦いのない、平和なところでこの光景を見たかったな。


「わ、私も、そう考えています。レベル上げは大事だって。で、でも、いざモンスターを倒そうと思うと…」


 そこで言いよどむ。白雲さんも現状に問題があることは認識してるんだ。それなら話は早い。後は真鍋さんにガードしてもらいながら、スキをみて白雲さんに攻撃を入れてもらい倒すだけだ。

 白雲さんの言葉をそのまま僕に伝えようとする真鍋さんを制止して、とりあえず明日になってから白雲さんの魔法を見せてもらおう、ということで今日は解散とした。

 宿代もないということで、今日のところは真鍋さんの部屋で一緒に寝ることになったようだ。百合展開キタコレ!


 次の日、僕たちは真鍋さんのレベル上げをしていた森にやってきた。ここなら他に人もいないので迷惑をかけることもないし、そのままモンスター退治もできるからだ。


「さ!まずは白雲さんの魔法を見せてくれ!魔法を見るのは初めてだから楽しみだな!」

「そ、そんなに期待されると恥ずかしいよ〜」


 イチャイチャする二人。けしからん。もっとやれ。それにしても影が薄すぎて、僕がいることを二人とも忘れてる可能性あるな。


 ひととおりキャッキャすると、真面目モードになったのか、白雲さんから距離を取る真鍋さん。

 山火事になったりすると大変なので、とりあえずアイスロックを見せてもらうことにした。


「では、いきますね」


 その言葉をキッカケに、白雲さんの雰囲気が変わった。少し前まで、可愛らしい感じで少しおどおどしていて小動物みたいだな〜と思っていたのに、今は近寄りがたい雰囲気を感じる。

 それくらい集中力しているようだった。こちらの声はもう届きそうにない。

 時間にして数秒、集中している様子だった白雲さんだったが、ゆっくりと杖を前に向け、一言だけ発する。


「アイスロック」


 その光景を見た瞬間、なぜ白雲さんがパーティに参加していないか、白雲さんが巻き添えを恐れていたのかがわかった。

 Lv1で覚える魔法なんてたかが知れている、どこかでそう思っていたのは事実だが、予想と現実がここまで違うと、人は何も言葉が発せられなくなるんだなと言うことがわかった。

 てっきりモンスター1体の足元を凍らせる程度だと思っていたのだが、効果範囲的にはモンスター20体くらいまで氷でロックできそうな、それくらいの範囲が氷で覆われてしまった。初雪が降ってうっすらつもったような、美しい光景が自分の目の前に広がっている。

 真鍋さんは「おぉ!すごいじゃないか白雲さん!」とおおはしゃぎしているが、僕は素直に喜べなかった。

 すごいのは間違いない。ただ、これだけの広範囲魔法であれば、味方がいると下手に使えない。それに加え、発動までにかかる時間の長さ。数秒無防備になるというリスクはなかなか大きい。そして本人がモンスターを攻撃することをためらっているということ。

 効果範囲、発動時間、ためらい、これらの要素をクリアするとなると、簡単ではないことが容易に想像できた。

 幸いなのは、本人がレベル上げの重要性を認識していて、そこに対して前向きだということだが…。


「ど、どうでしたか?やっぱり使い物にならないでしょうか…」


 そう言って、自信のなさそうな目でこちらを見てくる白雲さん。


「何を言う!こんなにすごいとは思わなかったぞ!白雲さんは天才だな!」


 白雲さんの正面に立ち、両肩をバンバンたたきながら笑う真鍋さん。白雲さんも「ちょっと痛いよ〜」と言いながらも笑っていた。本当に仲がいいんだな。

 そんな二人のためにも、なんとか解決策を考えないと、これからの冒険はかなり厳しくなる。いくら真鍋さんだって、二人を守りながら闘うのは相当な労力を強いられるはずだ。


 ない頭で必死に思考していると、白癬さんが心配そうな顔でこちらを見ていることに気づいた。真鍋さんも同様だ。それでも何も言わずに、僕の言葉を待ってくれていることが、僕に火をつけた。

 今までこんなに頭を使ったことがあっただろうか。もしあったとしたら、コンビニで見かけた18歳以上じゃないと変えない雑誌を、どうやってバレずに買えるか考えー


 と自分の頭をフル回転させた武勇伝を語り終えるよりも先に、あることに気づいた。


「白雲さん、魔法ってスキル名を言わないと出せないのかな?」

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