第9話 無職嫉妬!頼りになる仲間!

 身だしなみを整え、真鍋さんの部屋に向かう。扉は開かれており、「真鍋さーん…」と小声で名前を呼びながら中を見ると、結構な勢いでスクワットをしていた。朝から元気だな…本当にそう思った。


「お!準備はできたか!さぁ、モンスターを倒しに行こう!」


 僕に気づき、笑顔でそういう真鍋さん。スクワットをやめ、ベッドに立てかけていた盾をとり、扉のほうに歩いてきた。


「ま、まなべさん、申し訳ないんですが、モンスターを倒しに行くのは、も、もう少し後にしましょう」


 今にも外に出ていきそうな真鍋さんの背中に声をかける。真鍋さんはくるりと後ろを振り返り、「む?なぜだ?」と聞き返してきた。


「あ、あのですね、外はまだ暗いので、モンスターもわかりづらいですし、ふ、不意打ちされるかもしれませんし…」

「安心してくれ!夜目はきく!この周辺はスライムしか出ないと聞くし、大丈夫だ!」

「ま、まなべさんは大丈夫かもしれませんが、ぼ、僕は…」

「安心してくれ!私の後ろにピッタリついてきてくれれば、守る自信がある!」

「し、しかし、それは少し、は、恥ずかしいと言いますか…」

「安心してくれ!恥ずかしくもなんともないぞ!強きが弱きを助けるのは当然のことだからな!」


 その後も何を言っても「安心してくれ!」という始まりから反論してくる真鍋さんに対し、明るくなるまで待つことを提案しつづけ、なんとか折れてもらった。決め手は、「ぼ、僕、暗いところが怖くて!そ、その、漏らしてしまうかも!」と何度も言いまくったところ、「そこまで言うなら無理強いはいかんな!」と言ってもらえた。自分の提案を聞いてもらえてうれしいはずが、少し胸が苦しかった。


 その後は明るくなるまでスクワットをしたりして過ごし、朝ご飯を食べてからモンスター退治は決行された。

 話をしたとおり、モンスターが見つかったら二手に分かれ、真鍋さんがモンスターに近づき、あえて攻撃を誘導。モンスターが攻撃してきたところに"シールドバッシュ"を発動させ、僕のほうにモンスターを弾き飛ばしてもらう。僕は飛んできたモンスターを棒で打ち返し、あとは真鍋さんにボコボコにしてもらう、というシステムだ。最初は緊張もあったが、後半は「いくぞ平くん、それ!」というくらい気軽な感じで、モンスターをこちらに飛ばしてくれていた。

 時々休憩をはさみつつ、1日中モンスターを狩り続け、真鍋さんはなんとか3レベルまでアップした。やはり無職以外の職業はステータスの上がり方がいい。一応、参考までに今の俺のステータスも教えておく。


 −ステータス−

 名前 真鍋 直まなべ なお

 Lv  3

 年齢 15歳

 性別 女

 職業 守護者

 体力 95

 筋力 14

 耐久 34

 MP   15

 賢さ 12

 器用 12

 速さ 12

 勘  12

 運  20

 属性 土


 −ステータス−

 名前 平 和たいら のどか

 Lv  10

 年齢 15歳

 性別 男

 職業 無職

 体力 25

 筋力 45

 耐久 10

 MP  12

 賢さ 12

 器用 7

 速さ 8

 勘  16

 運  9

 属性 無


 筋力と勘以外すべて負けてしまっている。3Lvと10Lvというレベル差だというのに。正直言ってかなり悔しい。だけど同時に、こんなに頼れる存在はいないとも思う。もちろん、剣士や戦士のように、モンスターをガンガン倒してくれる職業はありがたい。だが、それだと剣士や戦士にしか経験値が手に入らず、僕はレベルが一切あがらなくなるだろう。最初に一撃入れさせてもらうという手もあるが、一撃もらったら危ういモンスター相手だとそれも難しい。

 その点、真鍋さんだったら基本防御が主体で、"シールドバッシュ"という技であればモンスターの体制も崩せ、比較的一撃入れやすい。僕からすれば本当に願ったりかなったりな職業だ。それでも嫉妬してしまうことには変わりないが。


 だがやはり筋力のあがりが弱い。体力や耐久の伸びは目を見張るものがあるが、これ以上強いモンスターだと、倒すのに苦労しそうだ。次の街に行くのは少し怖い。


「どうだろう?こんな感じだろうか」

「そ、そうですね。いい感じだと思います」


 レベル上げから街に戻る帰り道。僕は今後について少し考えていた。

 スライムの一撃が今の僕で6。おそらく、他職業の1Lvだったらだいたい6前後のダメージなんだろう。そう考えると、真鍋さんはこの辺だとほぼ無敵と言ってもいい。あとはモンスターを倒すための火力が必要だ。

 取れる手段とすれば、僕のスキル枠を1つ潰して、攻撃系のスキルをとることだが、そんなに都合よくめぼしいスキルもないし、今の僕の体力だと近距離発動系のスキルは怖い。レベルアップはしたいが、真鍋さんと二人だと上りも遅い。かといって、これ以上強いモンスターが出るエリアに行くのも怖い。


「……なかなか厳しいな」

「ん?どうした?」

「あ、いえいえこっちの話です」


 せっかく真鍋さんが仲間になってくれたが、さらに上のレベルになってくると、僕が足を引っ張ってしまう。現に、真鍋さんが2レベル上がる経験値を獲得し、僕は"手抜き上手"の追加効果のおかげで、その4倍の経験値を得ているにも関わらず1Lvもあがっていない。

 どうするか…。


「……ん?平くん、ちょっといいか」

「ど、どうしましたか」

「平くんの次に守りたい人がいたんだ。ちょっと声をかけてくる」


 そう言うと真鍋さんは駆け出す。その先にはもぞもぞと動く布が一枚。よく見ると、布の陰から髪の毛が見える。


白雲しらぐもさん…だよね?」


 真鍋さんがそう声をかける。布がもぞもぞと動いた後、かなりの毛量の頭が姿をあらわし、ゆっくりと真鍋さんのほうを向く。その顔を見ると、クラスメイトの白雲 歩夢しらぐも あゆむだった。


「ま、真鍋さん……真鍋さんー!」


 そう言うと、真鍋さんに抱き着く。傍から見ていてとても目の保養になる光景だ。だが、いったいどういう状況なのか、個人的にはさっぱりだった。

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