第2話 無職暗躍!無職のクセに、演じるのは道化師?!
扉はゆっくり、金属のこすれる音を立てながら開いていく。そこから姿を表したのは、一目で職業が"王様"だと分かった。
何も言われてないのに、皆は自然と口を閉じ、王様の動きに注目する。王様はゆっくり口を開いた。
「多分説明あったよね。というわけで、魔王退治よろしく!」
王様は軽かった。
「世界を頼む!的な事は言われたけど、魔王退治は聞いてなかったぞ!詐欺だ詐欺!」
王様の話し方を聞いて緊張が解けたのか、元からバカで怖いもの知らずなのか、クラス1の陽キャが王様に叫ぶ。
最初は圧倒されていたクラスメイト達も陽キャに続こうとした。だがーーーー
「あっそう。だったら死ぬ?」
冗談で言っているわけではないことが、表情と声色、威圧感から瞬時に伝わった。転生後感じた事のないレベルの恐怖と圧に、皆は静まり返った。
そんな静けさの中、一人音もなく動く影が見えた。
僕の職業を暴くキッカケを作った張本人、クラス一冷酷美女だ。
冷酷美女は瞬く間に王様の後ろに回り込み、首に腕をまわした。たしか、冷酷美女の職業は"暗殺者(アサシン)"。職業どおりの動きと速さで、気付いた時にはヘッドロックの体制をとっており、冷酷美女は容赦なく腕に力を入れた。
しかし、冷酷美女の腕が王様の首を締める事は出来なかった。見えない膜のようなものが、冷酷美女の腕と王様の間にあるかのように、冷酷美女がいくら力を入れても、王様には届かないようだった。
首を締めるのが無理だと分かると、直ぐ様王様から距離を取る冷酷美女。行動もそうだが判断も早い。クラスメイトもあっけにとられているようだった。
「ふっふっふ、フォーッフォッフォ!!」
俯き、肩を震わせたかと思ったら、声高に笑う王様。何がなんだか分からず、自分含め、みんな見守る事しか出来なかった。
「いや〜何人もの転生者を見てきたが、ワシに攻撃を仕掛けてきたのは初めてじゃわい。娘、お前がもしワシを攻撃し、ケガしていたらどうなっていたと思う?それこそ皆殺しになってたかもしれんぞ?」
立派な白ひげを右手で触りながら、王様は笑顔でそう言った。表情と言ってることのギャップに再び恐怖する。そして、大事な事を思い出させてくれた。みんなも思い出したのだろう。クラスメイトから、さっきまでのふざけた雰囲気は消え、緊張感が漂う。
ここは異世界。日本とは違うし、そもそもルールなんて分からない世界。王様の発言から、生き死にが身近にある世界だということが分かったのだ。
日本のように安全が保障されているわけではない。その事に、クラスメイトは改めて気付かされたのだ。
「………もしそうなったら」
王様を警戒しながら冷酷美女が応える。
「殺せるって事だから、あんたを人質にみんなで逃げるだけだよ」
この発言に、僕は衝撃を受けた。
彼女はクラスメイトの為に、自ら危険に飛び込み、みんなを無事に逃がそうとしたのだ。
これからは無表情美女と呼ぼう。そして、怒らせないようにしよう。そう誓った。
「ふむ、面白い。良かろう!この件は不問とする。だが、次はないぞ?」
「………そりゃどうも」
王様の言葉をあっさり信じ、警戒を解く無表情美女。今回の言葉は信じても良いと判断したようだ。
と、言うことは、だ。それだけ勘がいい無表情美女がここまでの行動に移したということは、最初の発言が本気だった事を証明している。みんな気付いているのか分からないが、僕は背筋が冷たくなっていた。
「ただ一つ教えて。なんで王様に触れなかったの?」
無表情美女が問う。
「特別に教えてやろう。これは、私の職業、"王様"の"パッシブスキル"だよ」
「……パッシブスキル?」
その後王様は、先程までの殺意が嘘かのように、僕達に、というか無表情美女に説明してくれた。
スキルには大きく分けて2つある。
1.パッシブスキル
→自動的に効果が出るスキル
2.アクティブスキル
→使用して初めて効果が出るスキル
「ワシのパッシブスキル、[裸の王様]は、王国民は、ワシの許可なくワシに触れる事は出来んのだよ」
「名前ダサッ」
「ん?何か言ったかね?」
「別に。そのパッシブスキルってのは、どうやって確認するの?」
「なんじゃ、ステータスの確認方法も知らんのか。頭の中で(ステータス確認)と念じてみるがよい」
王様と彼女の会話を聞いていたクラスメイト達はすぐに試したようで、驚きの声がちらほらとあがった。
物を買うときに少し値下げしてくれるやつ、経験値が2倍のやつ、物音を立てずに背後がとれるやつ、他にも色々聞こえてきた。
皆がうらやましい。僕は見る気にもならないから。"無職"のスキルってなんだよ。いい加減にしろよ。
そう思いながらも、一応確認だけはしておく。(ステータス確認)と頭の中で思い浮かべるだけで、あっさりと確認することができた。が…
−ステータス−
名前 平 和(たいら のどか)
Lv 1
年齢 15歳
性別 男
職業 無職
体力 10
筋力 2
耐久 2
MP 2
賢さ 2
器用 1
速さ 1
勘 2
運 2
属性 無
【パッシブスキル】
無限の可能性
【アクティブスキル】
無
他の人は、体力は低くて20、高いやつは60とか、筋力は低くて10、高いやつで20とか、文字どおり「桁違い」なステータス。
こりゃ笑いたくもなるよな。笑われて少し腹が立ってたけど、納得。
虚しくなってステータス画面を閉じようとした時、ふと目に止まった。
【パッシブスキル】
無限の可能性
なんだこれ?無職の俺に、パッシブスキル?
疑問に思っていると別の画面に切り替わり、パッシブスキルの説明が出てきた。
【パッシブスキル】
無限の可能性
【説明】
無職。職がない。
逆に言えば"何にでもなれる"。
つまり、そういう事だ。
【効果】
・触れた相手のスキルを1つ使えるようになる
ただし、スキル利用ステータスを満たしていない場合は利用できない
・スキルは1つしか保有出来ない
・相手に触れると、必ずスキルを選ばないといけない
スキルを選ぶまで、今のスキルは利用不可となる
「な、なんだこりゃ……」
何もないよりは嬉しいが、それでもやっぱり強いとは思えない。
筋力が激低で、物理攻撃スキルを使う意味がない。賢さも低すぎるから、魔法攻撃の威力も期待できない。そもそもMPが低すぎてスキルをうてない。足も遅いし、不器用だし、運もない。
自分で言ってて悲しくなってきた…。
「レベルが上がれば、新しいパッシブスキルやアクティブスキルを覚える事もあるし、スキルそのものがレベルアップすることだってある。今微妙なスキルでも、腐らずレベルアップをしてみるといいぞ」
フォーフォッフォッフォ。と上品に笑う王様。
現実世界にいた頃の俺なら、ここで諦めていただろう。
しかし、王様の発言や、無表情美女の行動が僕に火をつけた。
ダメ元でもいい。とりあず、スキルを覚えるか、スキルレベルあがるまではレベル上げしてみよう。それでダメなら、後はみんなに任せればいい。
そんな考えで、僕が取った行動。それはーーーー
「みんなー!助けてー!モンスター踏んじゃったー!」
モンスターをみんなのとこに連れていき倒してもらおう!だ。
我ながら情けない。とんだ"
Lvを上げるため、僕は職業"遊び人"のパッシブスキル、[手抜き上手]を使えるようにした。効果は取得経験値2倍。
そしてここからが肝心。経験値を得るためには2つの条件をクリアする必要があった。
1つ目、ダメージを1でも与えていること。
2つ目、戦闘終了までモンスターと一定距離内にいること。
この条件、おそらく皆は気付いていない。何故なら自分たちで楽々倒せるから。
だから僕は、みんなに気付かれないように、「モンスターを踏んで、慌てふためく情けない無職」を演じた。
幸いな事に僕のクラスメイト達は優しく、バカにしながらも助けてくれた。
僕はただただ、情けない"無職"であり続けた。そんな時だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます