異世界では無職が最強?!無職だとバカにしてくるやつらは俺より弱いのに

神垣欠

第1章 成長と仲間

第1話 無職発覚!耐えるのは、蔑視、嘲笑、あと涙

 どこからともなく声がした。


 −身体能力を分析中です−


 優しそうとも、冷たそうとも、苦しそう とも、悲しそうとも取れる、そんな女性の声だった。


 −潜在能力を確認中です−


 今でもあの時のことを覚えているし、あの時の声をふと思い出すことがある。


 −成長度合を確認中です−


 なんて………

 なんて魅力的な声だ!絶対美人だ…そうに違いない!いや、そうであってほしい!


 −職業選択中です−


 顔が見たい…何とかして見れないものか。僕の出来る範囲で何でもするくらいの覚悟はある。


 −識別完了 職業決定−


 そんな僕の、欲望に忠実な声も虚しく、録音された音声を再生するかのように、美女の声は淡々と話を勧めていった。

 美女(勝手な妄想)に放置プレイされる自分……いいな。


 −あなたの職業は、"無職"です−


 できれば冷たい視線と罵倒があっても……って、え?

 今、職業無職って言わなかった?


 −世界を頼みます。勇者よ−


 「ちょちょちょ、ちょっと待って、無職って本当に?!もっとカッコいい職業がーーーー」


 言い終わるより前に、美女の声が急激に遠ざかるような感覚に襲われた。夢からパッと目が覚めるような感覚ではなく、強力なゴム紐が腰にまきついていて、一気に引き戻されるような、そんな感覚。

 あっという間に美女のいたであろう場所から離され、(どこまで行くんだ?!)と思った瞬間、カッと目があく。


 眩しい。日の光ではない。人工的な白い光を感じる。おそらく室内だ。

 仰向けになった姿勢のまま、まずは目だけ動かし周りを確認した。

 意識がハッキリしてきたのか、周りの声も頭に入ってきて、様子が段々と分かってきた。周囲にはクラスメイトがおり、混乱と興奮が混ざったような声色で会話をしている。

 全員いるかまでは分からないが、みんなの様子から危険そうな感じはしない。

 それでもあまり目立たないように、ゆっくりと体を起こし、改めて周囲を見回した。


 全く見に覚えがない建物だ。見に覚えもなければ来た覚えもない。そもそもここはどこなんだ?


 「誰か、なんか覚えてるやついるか!」


 この部屋内に聞こえるように大声を出したのは、クラス1の陽キャだった。

 みんなザワザワとしていたが、誰かが「そういえば地震がなかったっけ?」と言っているのが聞こえ、唐突に思い出す。

 そうだ。いつもどおり授業を受けていると、かなり大きい地震があり、机の下に隠れる暇もなく天井が落ちてきてーーーー。


 「……ってことは、もしかして俺達……死んで、異世界に来た……ってことか?」


 陽キャがそう言うと、周囲は大興奮の渦となった。


 「すげぇ!え?!マジかよ?!」

 「こんなマンガみたいな事があるの?!」

 「ほっぺつねっても痛い!夢じゃない!」

 「今週末のライブ行けないじゃん!チョベリバ!」


 等と様々な意見が出てくる。僕はというと、現実には帰れるのだろうか?という漠然とした疑問を考えていた。

 だが、そんなことを考えてるのは少数派だと悟る。みんなは異世界転生したかもしれない、という事でかなり盛り上がっていたのだ。

 そしてまた誰とも分からないがこう言った。


 「そう言えば、なんか女性の声で職業がどうとか…言ってなかった?」

 「言ってた言ってた!俺はなんと戦士!」

 「俺、剣士だったぜ!剣道部だったからか嬉しいぜ!」

 「私は僧侶!家がキリスト教だからかな?」

 

 異世界転生トークから、今度は職業トークに花を咲かせ始めた。聞こえてくる職業は、ゲームをしてなくても聞いた事が一度はあるようなものから、聞いただけで強そうなものまであった。なんだよ"破壊者(デストロイヤー)"って。カッコ良すぎだろ。

 幸いにも、僕には仲良く話す友達もおらず、自分の職業を言う機会がなかったので、みんなに職業を知られずに済んだ。

 ほんとラッキーだったよ。話す友達がいなくて。うん。ホントラッキー。別に泣いてないから。

 そんな事を考えながら自分を慰めていると、絶望的な発言が聞こえてきた。


 「私、実は"解析者(アナリスト)"って職業なんだよね。あんたさ、見栄張って"破壊者"って言ってたけど、実は"逃亡者"じゃん。素早さ高すぎてウケる。」


 ウソをついていたやつにバッと視線が集まり、当の本人はなんとも言えない表情で固まっていた。「自慢の素早さ活かして逃げてみろよ〜」なんて野次を言われてるようだったが、僕はそれどころじゃなかった。

 "解析者"。

 これは、非常にまずい。

 解析者と名乗ってる女とは全く親しくないが、解析されたら一発でアウトだ。ネタにされるに決まってる。

 ウソをついていたやつがいた、ということで、陽キャが「クラスみんなの職業見てみてよ!他にもウソついてるやついるかもしれねぇし!」と提案した。余計なことすぎる。

 解析者も乗り気で、時計回りに職業とステータスを読み上げていく。運動してたやつ、頭が良かったやつ、人気があったやつなど、一芸に秀でていたり光るものを持ってるやつはステータスも高く、職業も華やかなものが多いようだ。

 僕はと言うと、絶対に解析されたくないので、解析者と同じように時計回りに動き、見られないようにした。

 休んでも気付かれないような影の薄さが功を奏して(泣いてない)、僕の小細工はバレてないようだった。

 良かった。これで僕の職業はバレなくてすーーーー


 「あれ?一人足りないですよ」


 そいつの発言に、クラスメイトがザワつく。「え?一人足りない?」「いや、全員だっただろ」「確かになんか少なかったような…」などと様々な意見が飛び交っているが、誰かが抜けている、という意見のほうが多そうだった。

 なんで?僕が休んでても誰も気付かずに、「あれ?こいつは?」「トイレじゃね?」というやり取りのおかげで、休んでたはずの日、全て出席扱いになるほどの影の薄さを誇っているのに、どうしてこういう時だけバレるんだ。神様ひどすぎる。

 早くこの会話終われ!と心の中で祈っていたのだが、無情な一言ですべてが終わった。


 「こいつでしょ。平 和(たいら のどか)。」


 僕を指差しながら、そう言ったのは、クラスで一番冷たいと言われている女子だった。瞬間、全員がクラス一冷たい女子の指先にいる一人の男に視線を集めた。僕である。

 そして解析者の笑い混じりの一言で、空気は一転した。


 「た、たいら?ぶふっ、ま、マジ?ぐふふ、うぶっ、しょ、職業ー、"無職"だってさーーー!!」


 一瞬の静寂、次の瞬間に爆笑の嵐が吹き荒れた。


 「無職!!!あーはっはっは!!ヤバッ!!!」

 「それ、職業って呼べるのかよ!イーヒッヒッヒ!!!」

 「"無職"に比べたら、"逃亡者"でも全然嬉しいわ!サンキューな!」


 これまでの人生、これほどまでに話しの中心になったことはなかった。それを断った上で言わせてもらう。

 こんな注目、受けたくなかった。

 みんなの笑う勢いは終わらず、笑い過ぎて、涙を流しながら地面を転げ回るやつ、壁が壊れるんじゃないかと思うくらい叩きつけてるやつもいた。


 分かるよ。僕が逆の立場だったら絶対に笑ってる。そう思う。


 「ステータスも激低!!!可哀想過ぎて笑えないよ!!!」


 しっかりワロとるがな!涙出るくらいワロとるやんけ!そう言ってやりたい気持をグッと堪える。

 みんなが爆笑していると、この部屋唯一の重々しい扉から、ガチャン、と音がした。

 みんなピタリと笑うのをやめ、扉に目を向ける。

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