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「ひゃっほおお」

 頭の悪そうな奇声を上げながら、バイクに乗った男が木刀を振りまわす。

 あたしはモップの柄でかろうじてそれを受けるけど、はねとばされてしまう。

 なにせバイクのスピードに乗せて力任せに振りまわしてくるわけだから、侮れない。

 しかもはねとばされたら、その先で別のやつがやっぱり殴りかかってきて、受けるので精いっぱいだ。

「ひひひ。子猫ちゃん。そのマスクをはいで、ついでに素っ裸にひん剥いてやるぜ」

 じょ、冗談じゃないって。

 パンツ丸見えのアクションをこなして、むしろ快感なのも、顔をかくしてこそ。

 顔と体の両方を聡君にさらされたら恥ずかしくて死んじゃう。

 ひょっとして絶体絶命?

 がき~ん!

 何度目かの木刀の衝撃をモップで受けたとき、柄が折れる。

 おまけにそのままふっとばされて、後ろからマスクと一体になった金色のかつらのテールがつかまれた。

「きゃあああ」

 マスクを脱がされたくない一心で、あたしはバイクに合わせて必死に走る。

「ひゃあっはっはははは。ど~んな顔が拝めるのかなぁ?」

 足がもつれて転びそうになる。そうなったらマスクが剥がれるのはまちがいない。

 も、もう、だめだぁ。

 どっか~ん!

 あたしのかつらをつかんだ男がふっとんだ。

 もう、それこそ、ぴゅーんて感じで空高く。

 さいわいそいつは手をはなしたらしく、あたしのマスクはだいじょうぶ。

 いったいなにが起こったのかと、見てみると、自転車に乗った聡君がいた。どうやらその辺にあった自転車を拝借したらしい。

 そ、そうか。その自転車で横から体当たりしたんだ。

「乗れ」

 聡君はあたしに手をさしのべる。

 うひょおお。なにこの展開? まるっきり白馬の王子様だよぉ。

 あたしはもうこんなときだっていうのに、浮かれて自転車の後ろに飛びのった。

 そのまま、両腕を後ろから聡君の体に回してしがみつき、顔と胸を背中にぎゅっと押しつけた。

 う~ん。しあわせ。

「野郎!」

 無粋な族たちは怒り心頭って感じで叫びまくる。それどころか、真っ赤になってこっちにむかってくる始末。

 もう、ほんとに野暮なやつらよね。もうすこし、しあわせに浸らせてよ。

「逃げるぞ」

 聡君はそうつぶやくと、自転車をこぐ。

 パンパカパパーンパパーン。

 さっきまでお通夜のように黙りこくっていた吹奏楽が復か~っつ。

 いいよ、いいよ。気分はもう最高だよ。

 あたしはそう思いながらも、追ってくる男たちの様子を観察した。

 残ったやつらは、リーダーをふくめてたったの二人。

 ふたりが木刀、ひとりがチェーンを手にし、リーダーは腕に自信があるのか素手だ。

「聡君、Uターン」

 あたしは耳元で甘えるようにささやく。

 聡君は、なぜ? と聞き返すこともなく、あたしのいうことを聞いてくれた。

 逃げるどころか向かってくるのに驚く、木刀を持った男。

「あいつのわきをすり抜けて」

 あたしはそういいながら、荷台に立った。両手を聡君の肩に乗っけて。

 木刀をふりかざす男。

「頭低くして」

 聡君にそういうと、あたしは聡君の肩に手を付いたまま、両足を前の方に振る。

 左足で木刀を持った手を押さえ、右足を相手の顔面にぶち当てる。

 そいつは宙に舞った。あたしはふわりと地面の降りる。

 残るはリーダーただひとり。

 リーダーは不敵に笑うと、バイクから降りる。

 ずいずいとあたしの前に歩いてくると、両拳で顔面をガードした。

 その構えからしてたぶんキックボクサー。しかも強そう。おまけにでかい。

 身長ですくなくとも三十センチ差。体重にいたってはたぶんかるく倍以上。

 う~ん。やっぱりやるしかないよね。

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