5

「死ねぇえ! 覆面野郎」

 木刀片手にバイクで突進する金髪野郎。

 そいつのひとふりが聡君の頭をかち割ろうとした瞬間、あたしの跳び蹴りが、そいつの顔面に決まった。

 ぴゅーん。

 おもしろいようにそいつは飛んでいく。

 無人になったバイクは校舎の壁に激突。

「な、なんだ?」

「誰だ?」

「何者だ?」

 まわりの視線が痛いように突き刺さる。

 暴走族だけでなく、人質の子も、もちろん聡君も呆気にとられた顔であたしを見てる。

 そればかりか、校舎の上の方から歓声の嵐。

「うおおおおおおおおお」

 それはまるで甲子園で母校の生徒がホームランでも打ったかのようなにぎわいだった。

 普段ならそんなことされたら、それこそ真っ赤になって石化してしまうのに、なぜか視線が心地よい。歓声が胸に甘く響く。

「覆面野郎。きさま、お、女だったのか?」

「覆面野郎なんてダサい名前で呼ぶな。あたしの名前は美少女仮面」

 なんでこんなことをいったのか、自分でもよくわからない。

 でも、なんつうか、そういう雰囲気だったの。

 しかもいいきったあと、恥ずかしいというより、体ぜんたいが熱く燃えるというか、戦闘モードに入ったというか。

「美少女仮面?」

「美少女仮面? 美少女仮面だぁああああ?」

 暴走族たちの間にどよめきが広がる。っていうか、校舎からも似たような声が聞こえた。それも大合唱で。

 ますます四方八方から痛いほどの視線が突き刺さる。

 だけどなぜかそれが快感。なんていうか、力みなぎってくる感じ?

 体が軽い。

 一番近くにいたバイクに乗った男ののど元に、モップの先をぶち込む。

「げはああ」

 そいつはバイクからすっころんだ。

「野郎」

 別のやつがバイクごと突っこんでくる。

 あたしは飛んだ。天高く。

 そしてフィギュアスケーターのようにまわる。ただし左脚を高々と上げて。

 中国拳法の旋風脚せんぷうきゃく。いうなれば回転跳び回し蹴り。

 振り上げた左脚を下げ、その反動で上がった右の足が相手の顔面をなぎ払う。

 小気味いい音を立てて、そいつは横にふっとんだ。

 あたしはそのままふんわり着地。

 ただでさえ短いスカートが完全にまくれ上がって、パンツ丸見え。

 普段なら恥ずかしさのあまり、その場にしゃがみ込むことまちがいないけど、なぜかみょうな快感が……。

 とくに聡君の視線が、熱い。痛いけど、……気持ちいい。

「すげえぇえええええ!」

 校舎の窓から大合唱。なぜか先生の声まで聞こえる。

 しかもいつの間集まったのか、吹奏楽部の演奏まではじまった。

 ああ、いいよ、いい。体中に快感が走る。

 ひょっとしてあたしって、ほんとうは誰よりも目立ちがり屋だったのかも。

 そんなことを考えつつも、冷静に状況判断するあたし。

 あいつら、冷静さを完全に失っておのおの勝手にこっちに向かってくる。

 もう聡君は眼中になさそう。

 人質の子は?

 人質を取っていた男は、なにをとち狂ったのか、彼女を投げすて、みないっしょにあたしの方にバイクでかっとんで来る。

 ナイス。はっきりいって馬鹿だけど、好都合。

 あたしは聡君や人質の子からわざと離れるように走った。

 なにも考えずに付いてくるやつら。

 あたし以外はどうでもいいのかも。もう猿並みの知能。

 でも、しめしめと笑ってられる状況でもないみたい。

 突っこんでくるあいつらを闘牛士のようにかわしてたんだけど、いつのまにかあたしのまわりをぐるぐると回り出した。

「囲め、囲めぇええ」

 自分はその輪の中に入らず、命令する男がいた。

 筋肉質で、眉間に傷のある男、たぶんこいつがリーダーだ。

「輪を縮めろ」

 リーダーの号令で、まわりを回っていた男たちが、すこしずつ距離を詰めはじめた。

 自由に動ける空間がせまくなっていく。

 あれっ、これってひょっとしてヤバいかも?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る