4

 放課後になって、帰ろうとしたとき、外がなにやらさわがしいことに気づいた。

 どるるん、どるるん、ばるるる~ん。

 教室の窓から正門の方を覗くと、バイクに乗った変なやつらがたむろしてた。

 それもひとりやふたりじゃない。

 白い特攻服を着たやつらが改造バイクにまたがって、おもいっきりふかしている。

 とうぜん、彼らの特攻服にはやたらむずかしそうな漢字の文字が刺繍されてる。

 早い話が暴走族だった。

「な、なんだ?」

「族よ、族」

「なんでここに?」

 窓ガラスに張りついたクラスメイトたちが口々にさけぶ。

「ひゃっほおおお」

 ついに暴走族のひとりが奇声を上げて、校庭の中に乗りこんできた。

 グラウンドをめちゃくちゃに走り回り、無惨にタイヤの跡が付く。

 そいつの顔に見覚えがあった。

 きのう、あたしがぶちのめしたやつ。

 それも一番最初に、問答無用で顔に一発入れた金髪のやつだった。

「あちゃああ。あいつ、暴走族だったわけ?」

 美里が小声でつぶやいた。

「どうすんのよ、美里。あいつらの目的はたぶん美里よ」

 あたしも他の生徒に聞かれないように、小声でいう。

「覆面野郎出てこい。勝負しろ!」

 金髪はハンドマイクを片手に叫んだ。

「なんだ、目的はあんたじゃない」

 美里はしれっという。

 え~っ、そうなの? でもどうして、あれがこの学校の生徒って決めつけるんだろ?

「覆面野郎出てこい。女の前でいいかっこしたいんだろ?」

 金髪は野太い声でどなりながら、エンジンを吹かした。

「でも、おかしいな。ばれないように変装させたのに。ま、きっとあいつら深く考えてないんだよ。この学校の制服着たあたしたちを追ってたら出くわしたから、きっとここの生徒だろうってくらいね」

 美里がぶつぶついう。

 まあ、そうなのかもしれないけど、そんなこともうどうでもいいよ。

「心配しなくても、これだけ派手にやれば、誰か先生が警察に電話するって」

 美里はちっとも慌ててない。

 それを証明するかのように、職員室から身を乗り出した男の先生の怒鳴り声が聞こえた。

「すぐに帰りたまえ。さもないと警察を呼ぶぞ」

「きゃあああ、助けてぇ」

 そんなとき、叫び声が耳にひびいた。

 見ると、校門の外にいる族連中の手の中に見知らぬ女生徒が捕らわれていた。ちょっと活発そうなポニーテールの女の子。

 あいつらがこれほど大胆な行動に出たのは人質がいるかららしい。

「おう。警察なんか呼んでみろ。あの女がどんな目に合うわからねえぞ」

 校庭をバイクで走り回る金髪は、勝ちほこったように叫んだ。

 そんなとき、何者かが校舎から出て、金髪男に近づいていった。

 それは男子生徒。……って、あれ? 聡君じゃないの?

 あたしは思わず教室を見まわした。

 ほとんどの生徒が窓ぎわに集まってる中、聡君の姿はいくら探してもない。

「あちゃああ。あいつ、弱いくせに……」

 美里も気づいたらしい。

 じょ、冗談じゃないって。聡君殺されちゃうよ。

「おるぁ。なんだてめえはよぉ」

 金髪はバイクに乗ったまま、聡君をにらみつける。

「俺がその覆面野郎だ。その子を離せ」

 聡君はちっともひるまず、りんとした口調で叫んだ。

 ええっ? なんてことをいうのよ? このままじゃ、聡君があたしの身代わりになってぼこぼこにされちゃう。

「は、てめえか。てめえがそうか」

 そのひと言に、校門を固めていた他の連中が校庭にバイクでなだれこんだ。

 ぜんぶで十数人はいる。全員バイクに乗ったまま、手には木刀だの、チェーンだのをそれぞれ持ってる。

「きゃああああ」

 つかまった女の子も、バイクに乗せられたまま連れこまれた。

「どうすんのよ、あいつ。勝てるわけないってのに」

 美里がはじめておびえた声を上げた。

「美里、あれ貸して」

「あれ?」

 一瞬、ぽかんとしていたけど、すぐに手をぽんと打った。

 みんなが外に気を取られてる隙に、鞄から例のマスクを取り出し、あたしによこす。

 あたしは掃除用具入れからモップを手に取ると、気づかれないように廊下に出た。

 待っててね、聡君。

 あたしは眼鏡を外し、マスクをすると、昇降口から外に飛び出した。

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