第6話 魔法実験

「さて、新しくせっかく黒魔導士が来たのだから、今日は黒魔導の練習をしよう……」

賢者クロニはロウソクをテーブルの上に置いた。


「このロウソクに火を灯せるかな?もちろん、テーブルや燭台を壊すことなく……」

「賢者様……。それは実戦で役に立ちますか? 大きい威力の強い火の玉で敵を倒したほうが効率が良いし、それに……テーブルも燭台も壊さないで火を灯すような器用なことをやる意味が正直わかりません」

「ふふ、若いな……。リュナよ、だが率直に本音を言ってくれてありがとう。これは魔法の威力ではなく正確性を増すための練習だ。正確にできるということは重要だ。

例えば子供を人質にとられたときのことを考えればわかるだろう。子供を傷つけず、暴漢を倒す必要がでる」

「……わかりました。やってみます!」

一応は納得したのか、リュナは炎の魔法を使う。


「山火事の残り火よ、わが掌中に具現し、火の糸になれ!」

という意味の魔法語を唱える。手のひらから糸状に炎が伸びる。


お見事!ロウソクに火が灯った。すごい黒魔導の制御力だ……


「あの、師匠さま……ボクは黒魔導はまだ習っていないのですが……」

「そういえばそうだったな……でもお前の魔力は高い。真似すれば、そうだな火の玉を出すぐらいはできるだろう」


 確かにそれはできた。幻なんだけど……。

「山火事の残り火よ、我が掌中に具現し、我らを翻弄せよ!」

 魔法は発現した。したのだが……。最後の言葉が少々まずかった。ボクの魔法系統は幻だから、惑わせとか、翻弄せよ、とかそういった類の言葉を言わないと発現させるのが難しい。そして、この場に敵がいるわけではない以上、幻が惑わす対象は自分たちになるのだが……。だから慌てて付け加える。

「目に見えぬ速さで飛び、ロウソクに炎を灯せ!」

 修正は上手くいったようだった。


 もう一本のロウソクにも火が灯る。


「え?いまなにやったの?あの火が見えなかったのに……ロウソクに火がついている」


 まあ、幻創だからな。その火がついてるかのように見えるのも含めて。

「ミスティくんは天才だね……。目に見えない速度で火を飛ばせるなんて……」

「私は白魔導師だから、この実技は見学でいいですか?」

 とココナは言った

「うむ、いいぞ。でもしっかり見ておくように」

 賢者はおおらかに応えた。


 結局のところ、ボクもリュナもお互いの実力を認めざるえなかった。それは当たり前ではあった、帝国一の賢者といわれるクロニの弟子を目指すぐらい志が高いのだから。


 と、突然クロニが厳しい声でいう。

「実は、おまえたちにいうか迷ったのだが、女帝に世継が生まれたのは知っているな?その世継を狙って不穏な暗殺者どもが暗躍しはじめているという情報がある。もしかしたら、子供を傷つけずに暗殺者を撃つという練習が実戦で役に立つかもしれない……。考えたくもないがな」


賢者クロニはつづけた。


「長い話になるのだが……。この帝国の主である歴代女性は神権契約術の使い手なのだ。つまり、神の力で法律を守らせることができるという魔法的な力があり、それが帝国の秩序を守っているのだが、逆にいうと女帝の血が途絶えたときがこの帝国の終わりで混沌のはじまりになる」


「クロニ師匠……は僕たちがその争いに巻き込まれる可能性があると……おっしゃるのですか」


 ちょっとかしこまって訊いてみる。


「そうだ……。仕方ないだろう……。私こそが帝国を魔法的な力で守っている人間の筆頭なのだから……。お前たちは私にもしものことがあったら、それを引き継ぐことを期待されているのだ。私の弟子になるというのは、そういうことだ」


 重たい話だ。ボクは単純に賢者という万能の力を持つ存在に憧れただけだった。考えもしなかったんだ、力を持つということは、それに見合うだけの使命も負わなくてはならないというこの世の理に。


 それからの日々は必死だった。ボクもボクの出した幻の白魔導士ココナも黒魔導士のリュナも……。


 なぜって、賢者様は……。千年祭のときこそが危ないと言うのだ。時間がない。ボクとココナとリュナ、それに賢者様は女帝をそれとなく護衛する役を担うことになる、と言われてしまったのだ。


 そこまで期待されてしまっては、弱冠十二歳にすぎない僕たちも本気にならざる得ない。その時はまさか、千年祭までの特訓の期間が、賢者さまに稽古をつけてもらう最後の時間になるとは思わなかった。


 白魔導、黒魔導、神権契約術、そして、もちろん幻創魔法のあらゆる理論に通じるようになるため、ボクは実技の合間をぬって、書庫のあらゆる魔導書を読み漁った。


 賢者の塔にも、ずーっと来れなくなることになったから、これは大正解だった。

 千年祭、つまり元々は収穫祭だった秋の祭りまでの短い期間ではあったが、ボクとココナとリュナのキヅナは深まった。


 時折、ココナとリュナはよく二人で相談しあっていた。会話に入ろうと近づくと、彼女たちはその話を止めてしまうので、何を話していたのかはわからなかったが……。


 ──そうして季節は秋になり、明日はいよいよ千年祭だった。




















 

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幻創魔導師の俺には彼女がいて、絶対に彼女は幻ではない! 広田こお @hirota_koo

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