第5話 千年帝国のミレニアム

 昼休みだ。賢者の塔は千年帝国の都の城壁の外にある。城壁の外には下町が広がっており、下町の外側には農村があり、そのハズレにポツンと立っているのがこの塔だ。と聞くと随分とまちなかに出るには時間がかかりそうに聞こえるかもしれないが十五分ほど歩けば城壁内に入れるし、十分弱で下町のカフェとかには行けるから、不便というわけではない。


 僕らは賢者の塔をでると、ちょっとした木陰の下でホット・サンドイッチを食べることにした。賢者の塔には魔法の調理道具があり、こういうありふれたものは簡単につくることができる。眼の前には麦畑が広がっている。見晴らしがよく、天気もいいから気持ちよく昼食を取ることができそうだ。


 「なぁ、リュナって黒魔導士なんだろ?独学で勉強したのか?」

 「そうだなぁ。私の場合、魔導は学問というより、感覚的なもので……きづいたら魔法をつかっていたんだ」

 コイツ天才肌なんだな……。

 「リュナはどこの出身なんだ?」

 と訊ねてみる。

 「南の島だよ? きれいな海が広がっていてね……。とても気持ちの良いところなんだ。ま、嵐のときとかは大変なんだけどね」

 「ボクは西の方にある聖山公国の出身なんだ……。詳しい場所はいいずらいけどね」

 「それはお互い様でしょ? 魔導師は名前と出自を知られると、知られた相手からの魔導への抵抗力が落ちるもの……。だから、私達は本名を教えることはないし、常にあだ名で呼び合う。そして、故郷の人間に本名を聞かれる危険性があるから、なおさら出身地の正確な場所はいえないよね……。魔導師って寂しいね」

 「なんでリュナは寂しいと思うの?」

 「だってさ、私はミスティと仲良くなりたいから……。仲間の魔導師と仲良くやることも難しいよね。魔導士って因果な職業だ……。お互いによく知り合うことが絶対にできないのだから」

 真の名前を知られてしまうということは魔導士にとって禁忌に近い。

 「ボクは寂しいとは思わないな……。別に本名を知らなくたって……十分仲良くやっていけると信じているから」

 「そう……。じゃ、私と仲良くしてね。そのぉココナちゃんとは、もうシタんでしょ? ならココナちゃんも安心しているよね? ふふ、いい夫婦になれるね君たち」

 「あ……。私……ミスティくんとベットで一緒に寝て……とても安心しました」

 「ココナ……」

 ちょっと恥ずかしい。絶対にリュナは深読みして勘違いしているだろうな。

 「ね? ここは帝国の帝都でしょ? 知っているよね? 今年は帝国暦千年丁度で、千年祭が秋の収穫祭のかわりに行われるって……。お邪魔してわるいんだけど、一緒にお祭りを楽しまない?」

 「なんどもいうようだけど、邪魔ってことはないよ」

 「リュナさん。私も三人でお祭りをまわりたいです……」

 「祭りってどんなことをやるの?」

 「そうだなぁ。聞いた話なんだけど。女帝にあたらしい世継が生まれたんだって、それも一緒に祝うから、ものすごい盛大になるのは間違いないね!」

 つまり、収穫祭と帝国設立千年目、さらに世継の誕生を同時に祝う……ということのようだ。

 「それは楽しみだなぁ。ボクの故郷の聖山公国は聖女生誕の地とされているんだけど、お硬いお国柄でさ……まあ伝統ある国だからお祭りはあるんだけど……無礼講というよりは儀式なんだよね」

 帝国には七つの公国が所属している。聖山公国はその一つだ。宗教じみた公国はとてもお硬い国民性で有名だった。隣の月虹公国はその逆で享楽的なことで有名だ。

 聖山公国の東側にはソイル公国、太陽公国、ウェル公国があるこの三公国は経済的に豊かな国々だ。農業、工業、商業などがとても盛んなのだ。

 そして西側には、火龍公国と水竜公国がある。この二つの公国にはその名の通り竜騎士がおり、とても武芸にたけた軍事大国である。

 

 「帝都のお祭りはたんなる儀式とは違って、どんちゃんさわぎだから、きっと楽しめると思うよ? 出店もたくさんでるしね! 劇団も普段とはちがう劇をやるし、有名な吟遊詩人とかもくるって」

 「リュナちゃん……くわしい」

 「ココナちゃん……ちょっと耳……」

 リュナはココナの耳に口を近づけると……なにかささやいている。と、ココナの顔がみるみる真っ赤になっていく……。

 「おい、リュナ? ココナを耳年増にしないでくれ……」

 「ううん、そんなんじゃないよ? なんのことかな?」

 とリュナはうそぶいたが、絶対なにか吹き込んだに違いない。

 「リュナさん……本当にそんなことしないとダメですか?」

 「そうだよ? 絶対ヤルんだぞ?」

 「……」

 何を言われたのだろうか、気になる。がココナは顔を真っ赤にしてうつむいている。ボクの方を全然見てくれない……。

 「なぁ、ココナ……」

 「ん、んん? な、なにかなぁ?」

 「教えて?」

 そうココナに聞いたら、リュナはボクを軽く睨みつけた。そしてふざけた口調で

 「だーめ。ダメです。ココナちゃん、秘密……だぞ?」

 「うん、わかった。楽しみ……」

 「ったく……何が楽しみなんだよ……」

 ボクはカヤの外にされたのが若干くやしくてふてくされる。おっと、そろそろ賢者の塔に戻らないと。屋上で魔導の実技の特訓だ。さて……

 「ま、戻るか……」

 「そうだね。もう戻らないと遅れちゃうね」

 とココナ。

 「ふふ、私の魔導の力を見たら二人ともきっと驚くぞ?」

 リュナは自慢するように言った。僕らは賢者の塔の屋上にある魔法実験上へと向かった。






 




 









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