第4話 大賢者の講義
講義室と言われていた賢者の塔の中層階の一室にココナと行く。……眠い。無理もないだろう……昨夜はココナという幻ではあるが自分の理想の女性と一晩ベットで過ごしたのだから。当然ココナは幻の存在だからボクが彼女と男女の関係になるわけがないのだが、それでも朝会ったなりブシツケに向けられてくるリュナと賢者様であるクロニ様の笑顔と興味津々な様子の視線が眩しすぎてつらい。講義室は四人集まると丁度良いぐらいの快適さの広さでクロニは教壇上に登っている。ボクとココナは隣り合って座る。リュナはココナ側にちょっと離れて座った。講義室には時々参照するためだろう魔導に関する本が並べられたちょっとした本棚もあった。ああ、そうなんだ……ボクは魔導の実験をしているだけで、別にやましいことをしているわけではない。
「ミスティくん? おーい……。起きてる?」
とリュナが話しかけてきた。からかっているのか、彼女は微笑している。
「う、うううう。眠い……」
「ミスティー。昨日の魔導の実験は……成功……ってところかな……。やはり、題材がよかったか……」
と師匠の賢者クロニが言う。と、リュナが顔を真っ赤にしている……。
「せ、せいこう……。ですか! ちょ、ちょっと賢者さま……」
ダジャレではない……。ああああああ、完全に誤解されているような気がする。
「あ、あの……。ミスティくんは……スゴい魔導師だと思いました……」
ちょ、ちょっとココナ……そのセリフは下手するとさらに墓穴を掘っているからっ。単純にボクの幻創魔導士としての腕を褒めているのはわかるんだけど……。
「うむ、だがミスティにはちゃんと賢者になってもらわないと困るぞ!」
と師匠。無理です……あのベットの中で賢者になるなんて……とても、とても……。
講義が始まる。
「魔導とは、自然に起きる現象を、魔力で術者の眼の前に導く行為である」
「魔導の系統は、黒、白、幻創、神権である……」
「基本的にはひとり一系統の魔導を身につけられる」
「黒……災厄を術者の眼の前に導く行為」
「災厄とは……例えば火事など」
「白……幸運を術者の眼の前に導く行為」
「幸運とは……致命傷がかすり傷で運良く終わるなど」
「幻創……勘違いを術者の眼の前に導く行為」
「勘違いとは、いわゆる妄想」
「神権……神のちからで、約束を実現する力」
「約束……人々の願望や契約も含む」
なるほど……なるほど……。どんどん頭に入れていく。
「世界には三柱の神がいる……」
「戦などにおける生と死をつかさどるサタン」
「愛をつかさどるアスモデウス」
「富をつかさどるマモン」
「神はときどき人間として降臨す」
「神話では神々は、武か愛か富のどれが一番世を治めるのにふさわしいか争っているという話もある」
神様が人間として降臨……ね。
とリュナが突然質問した。
「一系統しか魔導が学べないといいますけど、当然例外はありますよね? 大賢者様のように」
そうだ……それだ。ボクも思っていたんだ。人にそんなに能力差があっていいものだろうか? 神様は不公平だ。
「……そうだな。私はすべての魔法を使える……ことになっている……。としか今は言えんな……」
「そうですか……。よくわからないです……」
とリュナは合点がいかないようだった。
ボクは賢者さまの言葉を頭のなかで繰り返した。賢者様は最強を目指すなら幻創魔導だと言っていた……。つまり……そうか! ボクは一つの仮説が頭に浮かんだ。いや、きっと間違いない。でも……そんなことがあっていいのか、つまり、賢者が全ての魔法使えるということそのものが、妄想だということだ! みんな勘違いしているんだ! しかし、その勘違いを正すことはできない。なぜなら、幻創はバレたら無になってしまう魔法系統だからだ。
でもそうか、ボクはただひたすら、幻創魔法を極めればいいのだ……。ただ条件が一つある。妄想がバレないように、他の黒白神権という魔導系統についても、きちんと学び、嘘が嘘だと認識されないようにしないとならない……。なるほど、それゆえすべてを学んだ者である賢者といわれる……ということだ。
もっともらしく嘘をつき、人々を妄想に陥れるにはきちんとした学が要るということだ。ああ、これはこれから勉強が忙しくなるぞ!
とそのときココナが手を挙げる。
「なにか質問かなココナくん」
とクロニがココナに質問の内容をいうようにうながすと
「ええと、幻創魔導士の幻は……、常に妄想で終わるのでしょうか……」
と彼女は聞いた。真剣な面持ちである。彼女にとっては自分の存在意義だから、本気になるのは無理がないかもしれない。
「……そうだな。妄想が激しかったり、幻創魔導師の魔力が充実していると、妄想ではなく現実にその存在が生み出されることはあるぞ……。特に想像しやすい簡単なものほどな……だからちょっとした小物であれば幻創魔術師は創り出すことができる……。これで答えになっているかな?」
「ありがとうございます‼」
ココナはなんか元気になっていた。それはそうだろう自分が幻の存在とされるのは普通の感覚ではつらい。そうこうしているうちに講義は終わり、午後は魔法の実技を屋上ですることになった。その前に休みかな?
「詰め込みすぎたかもな……」
と賢者クロニは言い、しばらく休むように僕たちに伝えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます