第3話 明日の講義に備えて寝ないと……なのに!

 そのあとボクはココナとそれなりに楽しい時間を帝都の繁華街で過ごした。カフェに行ったり、露店をみてまわったり。露店ではココナに安物ではあるが指輪をプレゼントすることになったっけ。

 「お嬢ちゃん! 彼氏かい? プレゼントしてもらいなよ?」

とアクセサリー屋のおばさんがあまりにしつこかったので、自分の幻にプレゼントなんてバカバカしいとも思ったが、

 「んー。たくっ仕方ねぇな。おばちゃん、この指輪の種類でこの子に合いそうなのある?」

 それは玩具の指輪だった。別に指輪を買いたかったわけでなく、お手頃価格だったのだ。だが……ココナは心底嬉しそうに声を弾ませて

 「え、えええ指輪? 指輪かぁ……」

 とやや困惑しつつも、

 「へへへー。いいのミスティーくん?」

 と言った。何がいいのか? よく分からなかったが……。

 「じゃ、帰るぞココナ? 明日は賢者さまが講義してくださると言っていたし……これ以上日が暮れるとちょっとまずい」

 「……うん。ありがと。プレゼント大事にするね……」

 と言って彼女は大事そうにその指輪を丁寧に指にはめた。


 夕食は手間をかけたくないのか、魔法の鍋をつかった自動料理だった。

 あたたかい鶏肉入りのシチューの夕食を賢者様とリュナとココナとボクでとったあと、賢者さまから賢者の塔の中に寝室をあてがわれる。ここで寝てくれということらしい。ココナには別の寝室があてがわれるのかなぁって思っていたのだが、あろうことか大賢者クロニ様は

「おまえたち二人は一部屋でよかろう。他の寝室は片付いていなくてな……。とても使える状態ではないのでな。突然三人も弟子が増えて、嬉しい気持ちもあるが……一人では準備できなくて、すまんな……」

と言い。当たり前のように、ココナとボクを中層階の寝室一部屋を残して去っていった。


 次の日は朝早くから講義があるというのでボクは、早起きするために早めに寝ようとした。ボクの部屋には一つしかベットはなかったのでココナがオズオズしているのが、なんか可愛かった。

「あのミスティーくん。私はどこに寝れば良いのでしょう……」

「ちょっと狭いけど一緒に寝るか?」

「え?」

「ん?」

「あ、あああああ、あの。私はこれでも女の子なんで……。ご、ごめんなさい……」

 と言ってココナは部屋を出ていった。

「ちょっと待てって? どうするんだよ?」

「リュナさんと一緒に寝ようかと……」

「それはマズいよ。君が幻覚だというのが一歩間違えるとバレてしまう……」

「す、すいません。そこまで至らなくて……私……。え、ええと、私はどうすれば……」

「君はこれから毎日ボクと一緒にこのベットで寝たほうがいい……」

「は、はい‼」

 ちょっと声が上ずるココナ。

「うん、じゃ。寝よっか」

 と言ってボクはベットに入った。今日はつかれた。すぐ眠くなる……はずだったが。

「し、失礼いたします!」

 ココナがあとからベットにぎこちなく入ってくる。え? 体温を感じる。そして、また、ココナにギューッと抱きしめられたときの香りがほのかにする。そして、彼女の息遣いが暖かい空気として耳元に感じられる。こ、これは! いくらなんでも年頃の男の子としては耐えられない!

「ご、ごめん。やっぱボク……今日は床で寝ます……」

「え? そ、そうですか? でも夜は冷えると思います……」

「そうだね……」

 このあたりは北国が近く、初夏の今といえども布団なしで床に寝たら風邪をひいてしまうかもしれない。しかたない。腹をくくるか……。目をぎゅっとつむる。これはマボロシである。断じてボクは女の子と同じ布団で密着して寝ているわけでは、ないのである。こころを落ち着けるんだ!

「あの……。寒いですか?」

 ボクが体をこわばらせているを勘違いしたのかココナが声をかけてくる。

「だいじょうぶ、ボクは大丈夫だから」

「なら……いいのですけど」

 ダメだ。ココナの体温が幸せすぎて、安眠できそうにないっ。一所懸命神様の名前を唱えることにした。この世界を統べる三柱の神の名を。生と死を司る武神サタン、愛の女神であるアスモデウス、そして富の老神であるマモンの名を繰り返し唱える。

神様たち、どうか、ボクの心臓をしずめたまえ……。

「あのぉ……眠れないです……」

「ごめんね。うるさかったね……。ははは」

 とココナが後ろからボクを手でやんわりとふれてくる。

「やっぱり、私邪魔ですか……ね?」

「ち、ちがうんだ。これは……。あまりにも幻とは思えない現実感があるからというか……」

「え?」

「あ、うん」

「私、本物の女の子みたいですか?」

 と、なんか嬉しそうなココナ。

「う、うん。これは現実……としか思えないといいますか」

「それはきっと、私のことを本物の女の子のようにミスティくんが思ってくれているから……ですよ」

「そうだね。そうとしか思えないよ」

「ありがとう……。ミスティくん……おやすみなさい。もう……眠くて」

 安心したように彼女は言うと、あっという間にスヤスヤと寝息を立てていた。

 幻覚とはいえ暖かいベットの中。本来なら快適な空間だっただろう……。


 しかし、ボクは明日講義があるというのに一睡もできなかったのである。ドギマギしながら夜は更けていき、そしていつの間にか朝になっていた。























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