第2話 三角関係……幻の白魔導士の少女
「ねえ、ココナちゃんって本当に魔法使い目指しているの?」
ココナは純白の簡素なワンピースに紺のリボン、黒いストレートの長髪といった格好で、普通の女の子っぽい。それはそうだ。ボクが世の男の子はこういうの好きなんじゃないか?という想像で作られた幻なのだから。
「え?え?ど、どういうことかなぁ?これでも白魔導士なんだよ?」
とドモるココナ。焦るココナを作ったボク。
「ふーん。あ、そっか。今日は二人にとって特別な日なんでしょっ」
「え、ええええ、ど、どういうこと?」
「だーかーら。お二人の記念日とか?」
「き、記念日?」
すっとんきょうな声をボクはあげる。記念日も何も今日ココナは生まれたてホヤホヤの幻の女の子なのである……。
「うん、おデートでしょ?」
ズバリ、切り込むリュナ。率直な子だなぁ。
「いや、まぁ、いや、そうね街に出かけようと思っていたんだ。これも魔導の修行の一環なんだけど……」
幻の女の子ココナを連れて歩いて、幻だと看破されなければボクの今日の課題は終わりなのである。それこそが幻創魔導師としてのボクの第一歩になるはず。
「あ、デートじゃないと、あくまでおっしゃるんで……。ふーん。なら私もご一緒させてもらっても問題ないよねぇ?」
「も、もちろんよ。リュナさんっ」
「もちろんだとも、リュナさん」
「ふふふ、カワイイねぇ。お二人さん」
とリュナは微笑ましそうに僕とココナを思わせぶりにかわるがわる見た。
「本当にいいの?二人だけでお出かけしたいんじゃないの?」
「いや、いいんだよ。本当に魔導の勉強だからっ」
「リュナさん、気にしないで!一緒に街いこうよ。三人のほうがきっと楽しいから……」
とココナ。さっきから敬語になっとる!
「まぁ……。そこまで言うなら、お邪魔しちゃうよ?あとで恨まないでねっ」
コクコクとうなずくボクとココナ。ぎこちない演技で情けない。
「で、お二人はどこに行くの?」
「特に決めてないんだよなぁ……。とにかく日が暮れるまでずっとココナと一緒に街を歩こうとだけ思っていたんだけど……」
とつい本当の事を言ってしまう。幻覚でできた少女と気づかれないといいなぁ。
リュナがボクをちょっと睨みつける。そして、ボクは彼女に注意された。
「女の子にここまでオシャレさせて、ノープランはないんじゃないですか?ダンナ」
「い、いいのよぉ……。リュナちゃんったら?」
「いいんだよ……。気にしなくてコイツは」
リュナは声を荒げて続けた。
「あのね。だれがどう見ても、ココナちゃんはミスティーくんのこと好きじゃないですかっ。魔導師の女の子がここまでカワイイ服をセレクトして街に一緒にいこうとしているんだよ?みてよ!このリボン。いいから、チャンとしたところに連れていきなさいよっ」
いや、コイツは少し前にボクが作ったできたての幻覚の女の子なんだけど……。
「とにかく。これは魔導の勉強の一環なんだよ……」
「ココナちゃん……かわいそう……」
「わかった。わかったから。じゃ、ココナ今日は勉強は止めてデートにしよう!」
と言ってココナの顔をうかがうと、ココナは満面の笑みで
「ありがとう!ミスティくん……」
と嬉しそうにしている。っく。幻覚とはいえメチャクチャかわいいな。あたりまえかボクが理想だという少女を幻にしたのが彼女なのだから。
「もう、邪魔しないよ。ごめんね、ココナちゃん。二人きりのデートを楽しんできてね!」
とリュナは言い残すと、ボクらをそのままに賢者の塔をスタスタと早足で駆け上がっていった。
「あの……。マスター……。怒っていますか?」
「なんで?」
「いや、そのぉ……」
「ココナは悪くないよ。ボクは君をボクの理想の少女として定義している。君のミスは術者のボクの実力不足だ。ボクこそゴメンね……」
「ありがとう! ミスティーくん! ……あっ。すみません。つい、君付けで呼んでしまいました」
と再び落ち込むココナ。ややうつむきカゲンにしている。寂しそうな目をして、ボクの目を直視できない様子だった。
「いいや。君付けで正解だよ? 君は幻覚ではなくボクの理想の少女として振るまわないとイケないのだから……」
ちょっと残酷なことを言っているような気もしたし、事務的にボクはいったつもりだった。だから、次の瞬間ビックリしたんだ。本当に。
「ありがとう‼ ミスティーくん! ホントに心の底からうれしい……」
そう言って彼女はボクに抱きついてきたのだ。え? 幻覚が抱きつく? 女の子らしい香りがボクの鼻孔をくすぐる。ボクは混乱した。彼女は、ココナは幻のはず……。
なのに、なぜ彼女はこんなに現実感があるのか?
「ボクも……うれしいよ」
混乱しながらそういうのがやっとだった。あとでボクは知ることになる。幻創魔導師の幻覚は、術者の思い入れが強くなったり、術者の魔力が十分に強い時、現実のように触れることができる瞬間がある、ということを……。
ボクは自らが作り出した少女に心を奪われたのか? それとも、ボクの魔力が強力だったせいだったのだろうか?
いや、ボクは現実の女の子に恋をしたい。まさか、そんなことが在っていいわけがない。
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