幻創魔導師の俺には彼女がいて、絶対に彼女は幻ではない!
広田こお
第1話 最強とは……幻創魔導師である
ボクの師匠の大賢者様はある日とんでもないことをボクに強いた。幻の彼女を作り、かつ、その彼女を幻だとバレないように日常を過ごせと……。
「ミスティよ……。幻とはバレたら無なのだ。つまり、幻がバレるようでは幻創魔導師とは言えない。幻は術者が想像しやすいものこそが一番強力になる。つまりだ。年頃のお前にとっては理想の女の子というのが良い題材だろうな。くれぐれもバレないようにしろよ?」
と大賢者クロニはとんでもない事を言った。
ボクのあだ名はミスティ。故郷の場所と本名は理由があって隠している。栗毛色の天然パーマの緑色の目をした十二歳になる男だ。魔法使いの修行を受けるために帝都のハズレにある賢者の塔に来ている。賢者の塔は地下に宝物庫があり、中層階に講義室や書庫、居住空間、屋上に魔法の実験場があるとても高い石造りの塔だ。賢者の塔の主である大賢者クロニはボクに試練を与えた。白い長髪の大賢者クロニは威厳のある老人で、すべての魔術を極めているという。怖い魔導の師匠でもあるが、その目には優しさと寂しさがあった。成長して十二歳のボクが十八歳の俺になったとき、俺は賢者様の気持ちがとても良くわかった。俺も寂しくなったからだ。最強の存在とは孤独なものだ。普通、人間は一系統の魔法しか身につけることはできない……。
「魔法には黒魔導、白魔導、神権契約、幻創を代表とする様々な流派がある……。少年。お前はどういう魔法使いになりたいのだ?」
と大賢者はボクに尋ねた。
「大賢者様みたいにすべての魔法を極めたいです‼」
すべての魔法を極めて最強の存在になる。大賢者様のように……。それがボクの望み。
「私は最強などではないよ。……そうか……。なら試練を与えよう……」
「どのような試練にも耐えます!」
ボクも安請け合いをしたものだ。それがどれほどキツイものかも想像せずにいたのだ。ボクは最強という存在の孤独を理解していなかった。大賢者は意外な事を言った。
「幻創魔導師を目指しなさい……」
「幻創……?」
「それが最強への第一歩であるからだ」
ちょっとピンとこないが尊敬する大賢者様が言うのだから間違いないだろうとボクは信じた。まずは幻創魔導師になることを心に誓い今まで自分を鍛えてきた。
「理想の彼女か……」
ボクは故郷に特に好きな女の子は居なかった。もし居たらその彼女を残して魔導師の修行に旅にでるわけもなく……。それでも一生懸命理想の彼女を考えた。その結果ボクの幻は典型的な美少女で優しい女の子になった。実のところ、あまりピンとくる感じはなかったが。美少女といえば、ちょっと長めの黒髪、そして白いワンピース。洋服にはリボンもあしらわれている。
「名前を君につけないとね……」
ボクはしばらく考える。無表情のボクの幻。ボクが彼女を明確に定義してないがゆえに人形のように感情がない。そうだ彼女の名前はココナだ!
「私はココナ。今日からミスティくんの彼女だよ?」
と幻の彼女であるココナは愛らしく言う。ちょっとあざとい幻創魔法でつくられた少女とこれからの日々をがんばるぞ! 絶対に幻とバレないようにするんだ!
早速ココナと一緒に街に出ようと、賢者の塔の扉から外に出ようとする。街に出て幻の少女とバレずに過ごすことができるか実験だ。だが扉の外にはこれまたカワイらしい黒い装束をまとった青い長髪の美少女が立っていたのである。
「リュナと言います。黒魔導士を目指しています。賢者クロニ様と会わせていただけないでしょうか?」
「あ、はい」
弟子入りに来たのかな?
「ねぇ、ミスティ? 無愛想だよぉ……もうちょっと明るく挨拶してあげないと」
とココナはボクをたしなめた。設定通りの良い子。
「ご、ごめん」
「リュナちゃん、よろしくね! 私はココナ。この賢者の塔で白魔導師になるために修行しているのっ。この子はミスティって言って……」
ボクがココナをとても心のやさしい女の子として設定しているから、幻ではあってもココナはとても親切に振る舞っている。よしよし、幻創魔法の腕に自信がもててきた。
「自己紹介するよ。ボクはミスティ。この塔で賢者になるための修行をしているんだっ」
と胸を張って言う。まさか本当は幻しか使えないとは……言えないよな。
だがリュナは感心したのだろう。
「すっごーーい。私と同い年ぐらいにしか見えないけど。全部の系統の魔法を使える才能があるってことだよね⁉ 尊敬しちゃう!」
と驚いている様子だった。ちょっと心が痛む。ボクはただの幻創魔導師だからなぁ。それも、自分が想像しやすいものをかろうじて現実化できる程度のレベルの魔法使いだ。高レベルの幻創魔導師になるともっと非現実的なものも現実化できるらしいのだが……。
ボクはこの黒魔導士見習いの彼女に、ココナが幻の存在であることを隠し通すことができるだろうか……。すべての魔法が使えるという嘘も付いてしまった。実をいうとちょっと嬉しかったのだ。故郷の女の子と違い、魔導師になるという目標を共有できる仲間ができたことに。ボクこそがリュナという黒魔導士を尊敬していた。なんといっても、ボクの魔法は幻に過ぎず。しかし、彼女の魔法は本当の黒魔導だからだ。黒魔導とは、いずれ現実に起きるであろう災厄を、目の前に誘導し本当に起こす恐るべき魔法なのだから……。
リュナはボクとココナが仲良さそうに見えたのか、探りを入れにきた……。リュナから見れば、ボクとココナは恋人未満で友達以上の男女に見えたに違いなかった。ボクはリュナのことを好ましく思ったので、ちょっと複雑ではあった。だってそうだろう、幻の美少女より現実の生き生きしている少女のほうが何倍も良いってみんな思うよね?
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