第16話『いざ、開拓村へ』



 開拓村を目指し疾走する二機のアクティブアーマー通称アクティブ。


 太陽光を反射させ黒銀と白銀の機体が風を切り裂く。

 俺はこの疾走感に酔いしれ、魔物も出ていないのに何度もリボルバーを抜いては構え、抜いては構えを繰り返していた。


「だいぶスムーズになった」


 まあカッコつけも何割かはあるが、これも訓練の一環だ。その証拠にリボルバーを抜いてから照準をあわせるまでの速度が徐々に早くなってきている。

 こんなことができるのもシルバーメイズ遺跡を出発してから、まだ一度も魔物と遭遇していないからだ。範囲最大にしているレーダーにも何も引っかからない。


「ゴブリンぐらい遭遇してもいいのにな」


 冬眠する魔獣型と違い、一年中沸く魔物のはずなのに。


「私たちは森の奥から開拓村を目指しています。魔物は人里から離れた場所にいますので遭遇率は進むほどに下がっているのでしょう」

「あいつら、いらん時には大量に沸いてくるのに、こんな時に限って影すら見えない」


 せっかくアクティブを完成させたのに、その性能を試す相手と遭遇しない。村まで行くには戦闘力が必要だと聞いたからアクティブを完成させたんに、まあ、途中から作るのが楽しくてシルバーメイズに引きこもっていたんだけど。


「シルヴィア、この世界にも冒険者ギルドはあるんだよな」

「はい、SOネットに記載されているので存在は間違いないかと、ただ、これから向かう開拓村には冒険者ギルドが無い可能性があります」

「村ができてまだ四年目、住民は四十人にも満たないか」


 開拓村の情報はSOネットで三年前に更新された古いモノしかない、王国首都の情報なんて毎日更新されているのに。


「開拓が進んでないのかな」

「そうですね、順調に開拓が進んでいればシルバーメイズも発見されておかしくない時間は経過しています」


 そうだよな四年もたって十キロの距離にあるピラミッド型遺跡が見つかってないなんて、今思うとおかしすぎるだろ。


「開拓をあきらめたのかな」

「それならSOネットに情報がのりそうですが」

「じゃあ、近くに強い魔物でもいるのかな」

「そんな気配はありませんが、いえ、急速に接近する魔物の反応を捕らえました」

「なぬ」


 数秒遅れて、俺のレーダーにも魔物の影を捕らえた。


「確かに早いな」


 このSOネットを利用する索敵レーダーの索敵範囲の精度や広さは使用者の種族や感覚に影響されることが実験でわかっている。魔道具で補助しても人間の俺では魔導人形であるシルヴィアの索敵範囲にはかなわない。

 なので索敵などはシルヴィアに任せることにしていた。


「速度と移動経路から飛行型と推測」


 地形や木々などお構いなしに真っ直ぐに移動している。シルヴィアの推測はあたりだろう。真っ直ぐに俺たちの方へ近づいてきている。


「迎え撃つぞ」

「了解」


 アクティブを纏った俺はとても強気だ。ホバーをカットして着地、盾を突き出し俺はリボルバーを構え、シルヴィアはグライダーナイフを機体から射出して空中で待機させる。


「これが開拓を遅らせている魔物かもな」


 どんな奴が出てきてもワンサイドゲームで仕留めてやるぜ。


「一体ではないようです。七体確認。移動速度、反応の大きさから同種で構成された群れと推定します」

「群れかよ、少し厄介だな」


 俺のレーダーには横長の点にしか見えないが、シルヴィアの解析は優秀なので疑うことはしない。


「七体だろうがアクティブが完成した今、敵ではない、どんな大物でもな」

「いえマスター、どうやら小物のようです」

「へ?」


 開拓を遅らせるほどの大物じゃなかったの。

 俺のレーダーには大きな影が映っているので大物に思えたが、確かにこの大きな点を七分割するとゴブリンと大差ない反応かもしれない。


「発見しました11時の方角」


 シルヴィアが示した空に、小さな点が七つ現れる。

 望遠機能で確認するとシルヴィアの予想通り鳥型の魔物であった。大きさはカラスぐらいだろうか、外見は目つきの悪い太ったカモ、あの体型でよく飛んでいられるな。


「検索、該当する情報あり、討伐レベル21ピジョンバァスト」


 魔物だから飛べるのかな、普通の動物なら絶対に飛べない丸い体形だ。

 シルヴィアが俺のサーチバイザーにもピジョンバァストの詳細を送ってくれる。自分でも検索できるのだが、シルヴィアが検索して送ってもらった方が数段早い。

 レベル21なのにレベル5のゴブリンと同程度の魔力。


「なんでこいつがレベル21もあるんだ」


 送ってもらった全てのデータを読み切る前にもう射程内にまできていた。

 先頭のピジョンバァストが枝にとまり大きく胸を膨らました。


「何だ?」

「マスター、あの魔物は火を吹きます」

「は?」


 丸い体格のわりに小さな口が開くと、胸にためた息を全て吐き出すように野球ボールぐらいの火の弾を発射してきた。構えていた盾に命中して消滅する。

 たいした威力じゃない、盾に傷も付いてないけどこの世界の魔物はけっこう飛び道具を持っているんだな。


「お返しだ!」


 俺は素早くリボルバーで狙いをさだめてトリガーを引く。

 そのたった一発でピジョンバァストは吹き飛んだ。跡形も無く。


「……あ」


 下級の魔物に使うには威力が強すぎた。


「あのマスター、ピジョンバァストの肉は栄養価も高く美味だそうで、低ランクにも係わらず鳥型のため捕獲が困難なんで食材としは高値で取引されているそうです」


 そうだよ、この世界にきてから初めて出会った鳥肉だったのに、とてももったいない事をした。何のために捕獲用のサブウェポンまで作ったんだ。

 魔導式リボルバーを腰のユニットに収納して変わりにサブウェポンのウインチェスターライフルのデザインを参考にした狩猟用ニードルガンを装備。ピジョンバァストは仲間がやられた怒りか一斉に火の弾を撃ってくる。この程度の威力なら直撃してもダメージは受けないがこれも練習だ。


「全弾回避するぞ」

「了解」


 ホバー起動、ジグザグに回避行動とり全ての火の弾を交わしてから、ニードルガンを構え鉄の針――木製の針をコーティングした物――を発射する。

 鉄の針は電撃を帯びており命中すれば素材をあまり痛めることなく倒すことができる。リボルバーの威力で素材をダメにしてしまった教訓から生まれた武器である。装填弾数は三発と少ないがかすりさえすればしとめられるので問題ない。

 それに加え命中精度を上げるために製作したロックオンアームが照準のアシストをしてくれる。移動しながらだって飛んでいる鳥の魔物を狙い撃てる。二発は体の真ん中に命中、一発はそれて羽をかすめただけだが電撃でしとめられた。

 素材確保の点から考えれば命中させるよりもかすめた方が傷つかない。俺はピジョンバァストの中心を狙って外れただけだが、シルヴィアは最初から傷つけないように狙ってかすめさせていた。


「マスター、終わりました」

「あ、ああ、流石だな」

「剥ぎ取りをおこないます」

「よろしくな」


 この三カ月で思い知らされたが、魔導人形であるシルヴィアは製作者の俺以上にアクティブを使いこなしていた。俺はアシスト機能を使ってやっと命中させているのに、シルヴィアはアシストも使ってない。

 魔導人形だからと思いたいが、この世界の住人は身体能力が高いからな、搭乗していきなり乗りこなされでもしたら……。


「俺は素直に職人に専念して美少女アクティブアーマー軍団でも作ろうかな」


 やっぱりパワードスーツ系が似合うのは美少女だと思うんだよ。

 とりあえずは、開拓村で売る素材が増えたことを喜ぼう。傷つけた二羽を小さいシルヴィアのコンテナに、最高の状態の四羽を俺の大きなコンテナに、獲得した人物が逆だがこれは手柄を奪うのではなく、開拓村がどんな状況かわからないからの備えだ。


 まさか到着そうそう荷物を奪われたりはしないと思うが念の為である。



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