第14話『女神の盾』
「私の武装ですか?」
「そう、いろいろ尽くしてくれたからお礼の意味も込めてシルヴィアの武装を作りたい」
「お礼なんて、私たちプロトナンバーは契約した主に尽くすのは当たり前のことです」
「それでも俺がお礼をしたいの、主命令だ。どんな武装が欲しいか言ってみなさい」
お礼なのに命令するっておかしいけど、こうでもしないと聞き出せそうにないからな。
いつもならすぐに答えを返してくれるシルヴィアも今回の命令だけは即答できないで悩んでいる。
「……それでは盾を」
悩んだ末に出てきた言葉は守りの武装であった。
「盾か」
意外でもないか、本人が言っていた通りプロトシリーズが主第一に考える以上、主を守るための装備を求めても不思議じゃない。
「わかった盾を作ろう」
でもただの盾を作るだけでは面白くない。当然パワードなスーツに釣り合う性能を持った盾がいいよな。
「ミサイルランチャー内蔵シールドとかはどうだ」
「みさいるらんちゃーとは?」
「ああ、ミサイルの意味がわからないか。ミサイルってのは、えっと、爆薬を詰めた筒を飛ばす武器だ。しかも相手を追尾する機能まで付いてるんだぜ、ロックオンさえしてしまえば、命中するまで追跡してくる」
確かミサイル弾とロケット弾の違いって追尾するか真っ直ぐ飛ぶかの違いだったよな。
「そのような武器を作れるのですか?」
「材料さえあれば可能だな」
「材料ですか」
追尾機能は上級魔結晶さえあれば付加できるが、弾一発に一個の魔結晶を使うと、鉱脈の皮袋だけの供給ではとても足りなそうだ。俺から言い出した案だけど、現状では実現できそうもなかった。
「……第二案だ、グライダーナイフと同じ遠隔操作をできるようにするってのはどうだ」
「盾を飛ばすのですか?」
「その通り」
「いいかもしれませんね、いざとなれば盾を飛ばして離れた護衛対象も防御可能ですね」
「それだけじゃないぜ、遠隔操作で飛ばせるってことは上に乗って移動できるってことだ、空を飛ぶサーフボードのように」
「なるほど、サーフボードはわかりませんが、空を飛べるという事は想像できます」
「な、いい案だろ」
「はい」
さて、物が決まったので製作に入るわけだが、素材をどうするか。
最良は全部を骨合金で作ることだが、さすがにそれをしてしまうとブラックボアの骨をあと一頭分は調達してこないといけない。
「マスター、私の武装は木製でもかまいません」
「いや、木製の盾なんて弱すぎるだろ」
ゴブリン程度ならふせげるだろうけど、ブラックボアなどの突進をくらえば一撃で壊されてしまう。
「メリットと言えば軽くて取り回しが楽なくらいか、妥協案として内側を木製にして外側を骨合金にするか」
これなら骨合金を節約できる。
「十分ですマスター」
「悪いな、村で素材が手に入ったら作り直すから」
シルヴィアが遠慮しても必ず作りなおす。こんな妥協は俺自身が納得していない。
素材に妥協する分、デザインはもてる知識の全てをつぎ込んだ。どうすればシルヴィアが映えるか、銀髪の美少女が装備して相乗効果が得られる盾、やはり戦女神などのイメージを流用しよう。
まずは木材で原型を作り、覆うように骨合金を変形させる。本来なら骨合金を狙った形に加工するなどとても難しい事だが魔導ヤスリと『変形』を使えば一発だ。
モデラーとしての血が騒ぐ、しかも今回の製作する作品はリアルな美少女が装備してくれるのだ気合いが入って当たり前。
構造的にはスラスターブーツよりシンプルなのに製作には倍以上の時間をかけて完成させた。できれば色もシルヴィアの髪にあわせて白銀色にして仕上げたかったが、色付けする道具がないのでしかたがない。
「シルヴィア、ちょっと持ってくれるか、気になることや意見があればどんどん言ってくれ」
すでに『遠隔操作』と『衝撃反射』を付加した魔結晶も埋め込んでいる。
「意見など、私にはもったいないくらいの盾です」
遠隔操作はグライダーナイフと同じで、新たに加えた衝撃反射は文字通り盾が受けた衝撃を反射する。魔法は防げないが物理攻撃ならあらゆるモノを防いでくれるだろう。
「低ランクの素材だけでここまでの盾が作れるなんて、マスターはすごいです」
「命名『スカイシールド』だ、使用してからでも意見があれば言ってくれ」
「スカイシールド」
シルヴィアも満足してくれているようでほっとした。
「シルヴィア、ちょっと構えてくれるか」
「はい」
「もうちょっと腰を落として、顔に少しだけ盾が被る形で」
「こうですか?」
「そう、そうそう」
スマフォがあれば絶対に写真を取りたくなる構図だ。指でフレームを作り写真を取った場合の出来栄えを想像する。
うん、様になってるよ、プラモでは味わえない等身大のリアル感。あ、こんどサーチバイザーにカメラ機能が付けられないか試してみよう。
「ここまで被写体がいいと、やっぱり少し盾の色がな~」
表面は骨色一色の盾。
プラモを作り続けたモデラーとしてのサガなのか、どうにも素材の色そのままの作品を見ると色を塗りたくなってしまう。
「それでしたらコーティング剤などどうでしょう。錬金魔法を習得したマスターなら作れるのでは」
「コーティング剤?」
「こちらです」
シルヴィアからサーチバイザーにSOネットを介したコーティング剤の情報が送られてきた。
「なになに、コーティング剤とは武器などに塗り強度を上げる性質を持つ魔力が宿った液体、錬金魔法でのみ生成が可能、安い武器しか買えない駆けだし冒険者たちには人気のある商品で、満足に鍛冶屋もない辺境では武器の修復にも用いられ絶えず品薄状態になっている」
SOネットにはコーティング剤を使用する前と後の写真までアップされていた。それはまさに劇的なビフォアー&アフター、ボロボロで曇り切った剣がコーティン後には新品とまでは言えないが研いだばかりのような輝きを取り戻している。
「いいなこれ」
補足には、レベルの高い錬金魔法の使い手なら、土や草などを混ぜ合わせ配合することで色も自在に作り出せると書かれていた。
「色も自在に生み出せる。まさにカラーリングではないか」
これさえあれば、骨色のスラスターブーツもシルヴィアの盾も望んだ色に仕上げることができるではないか。
「よし」
気合いが入るぜ。
色が自在に扱えるとなれば、テンションが上がらずにはいられない、性能はもちろん一番大事ではあるが、やっぱり見た目に拘らなければプラモデラーとしての魂が腐ってしまう。
「これから色の素材になるモノも採取していくぞ!」
それから俺はさらに一カ月以上、試行錯誤しながら最初の村にも行かずシルバーメイズ遺跡の地下に引きこもったのであった。
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