第13話『魔導式の弾丸』
この世界における銃の認識。
弾に詰め込んだ魔法を打ち出す道具。誰が使っても効果が変わらないが、魔導銃本体も弾丸もとても高価なため冒険者などが使用する武器ではない。
一部の金持ちの貴族や大商人が道楽のコレクションとして所有するくらいで、実戦で使われる事はほとんどないらしい。
「弾丸一発でゴブリンを100匹倒しても釣り合わないと言われています」
金銭だけでもネックになっているのに、発射される魔法が、魔法系スキルを持った魔法士なら簡単に同じ威力を出せることも人気の上がらない要因のようだ。
「申し訳ありません、完成前にこの情報を伝えていれば」
俺があまりにも楽しそうに製作していたので声を掛けづらかったのだろう。
貴重な素材を無駄使いさせて申し訳ないとシルヴィアが謝罪してくるが、俺はそんなことこれっぽっちも思っていない。
「いや、気にする事はないぜ、この世界では銃は不人気。そのことが俺にどんなマイナスをもたらすか、否、何ももたらさない」
銃が不人気なのは俺にとっては好都合。銃が存在しない世界よりも絶対プラスだ。
「俺はこれから銃をメインウェポンにしていくつもりだ。銃を全く知らない世界なら、よこせとか脅してくる輩もいるかもしれなかったが、この不人気な世界なら銃を使いまくった所で欲しがるやからは少ないだろう」
詰めた魔法を撃ちだすだけの道具、俺の生み出す銃はそんな不便なモノじゃない。
「それに俺なら銃の価格を気にする必要はまったくない」
「魔導銃をメイン武装にして価格を無視できる。ああ、なるほど」
俺の演説を聞いてシルヴィアは理解してくれたようだ。
「そう、俺なら自前で魔導銃も弾薬も製造できる。それも低コストで、試行錯誤を繰り返せば威力も上がるはずだ」
「弾薬も作れるのですか?」
「おう、俺は弾薬がどんなモノか知っているからな」
ミリオタじゃなくてもこれくらいは知っている。
小さい筒状の薬莢と呼ばれるケースに火薬を込めて弾頭でフタをする。簡単にまとめればこんな感じだろう。
「元の世界では知識があったとしても作る技術も設備も無かったが、今の俺のスキルなら全てが可能だ」
ケースは鉄材で、弾頭はゴブリンの低級魔結晶で代用できるだろう。肝心の火薬には入手したばかりのバドショットの種を使い錬金で製作する。
「俺の選択に一分の無駄もなし」
火薬が錬金で作れるかどうかは感覚が教えてくれる。バドショットの種を使っての火薬生成は可能であるか、俺の感覚は可能であると告げてくる。
そして完成までのレシピも閃きのように脳内に浮かぶ。
「錬金の鍋に砂とバドショットの種を入れて、火を点けて炒める」
火薬を作るのに炒めていいのかと疑問に思うが、これが正しい錬金の方法だと感覚が教えてくれるので多分、大丈夫だろう。これでレシピ通りなのだ。
まんべんなく混ざるように、炒められた砂がパチパチと弾けている。熱さに耐えながら汗をぬぐって炒め続けた。
それから鍋と格闘すること二時間ばかり、鉄材の時よりもかなりの時間をかけてようやく火薬が完成した。できあがった量はビールジョッキ一杯分ぐらい。木材を変形させた容器に移して湿気ないように密封する。
「火薬ができれば次は弾薬だな」
リボルバーに装填できる薬莢をシリンダーに合わせて『変形』で鉄の厚さ別に数種類の試作品を作った。
これは暴発しない厚さや火薬を詰めるスペースの広さの検証である。
「見た目を重要としない細かい作業は初めてだな」
薬莢の内部加工など、プラモデル作りとはまったく逆の手間だった。
「でも楽しいな」
この手間全てがパワードなスーツの完成に繋がっているから苦でもない。
薬莢と同じように火薬の分量や弾頭の形もいくつか試作し、試験を繰り返し、ようやく満足のいく弾薬を完成させることができた。
「お疲れ様ですマスター」
「もっと早くできると思ったけど、けっこう手間取ったな」
弾薬製作で一週間以上かかってしまった。
俺が弾薬作りに没頭できたのは、身の回りの世話をすべてシルヴィアがやってくれたからである。本当に俺の従者でいいのかとありがたすぎて、女神に思えてきた。彼女の専用機は女神をイメージしたモノになるだろう。
「それが完成した弾薬ですか」
「ああ、計算上では威力も高く暴発しないようになっているはずだ」
掛けた時間の分だけ早く銃をぶっ放したいという気持ちがわいてくるが、焦っては必ずケガをすると言い聞かせ丁寧に一つひとつの弾薬を仕上げ量産した。
試し撃ちするにもある程度数は必要。
完成した弾薬レシピを繰り返しとりあえず六発の弾薬を作り出した。
複雑ではないが火薬を取り扱うので作業が緊張をはらみ慎重に、プラモ作りでは味わえない緊張感だった。
「これでようやく待ちに待った試し撃ちができるな」
男子なら誰もが一度は銃に憧れを抱く時代があったはず。俺にもあった。
俺は今、少年の心を取り戻している。
「マスター、表に的を用意しておきました」
シルヴィアは俺が弾薬製造に取り掛かっている間に、遺跡の外に射撃場を作ってくれていたらしい。
「いつのまに」
「従者として主の役に立つのは当然のことです」
そのにっこりとほほ笑むのは反則です女神さま。
本当に気が利く、俺にはもったいない従者だぜ、もったいなくても手放す気はないけどね。
シルヴィアと一緒に遺跡の外へ出れば、地面に垂直に建てられた材木に弓道の的のような黒の二重丸が描かれた的が吊るされていた。
「本格的だな」
「マスターが熱心に作業をしていましたので、僭越ながら準備いたしました」
「いやぜんぜん僭越じゃないから」
銃作りに夢中で的の事などまったく考えていなかったので、この気配りはとてもありがたい。
「シルヴィア、これからも思ったことはどんどんやっていいからな、いちいち俺の許可を取る必要はないぞ」
「了解しました」
だんだんと表情が柔らかくなりシルヴィアと仲良くなってきた気がする。
「では、さっそく的を使わせてもらうか」
完成したばかりの魔導式リボルバーを俺は某都会ハンターを真似して片手で構え的を狙ってみたが、パワードなスーツで使う事を前提としているので、サイズは全体的に大きくその重さが腕にずっしりとのしかかり狙いが定まらなかったので、かっこつけるのはやめて両手に持ち直した。
「いくぜッ」
トリガーを引き、爆音と共に発射される。
発射された弾丸は見事に的をとらえたが、威力が強すぎて的に穴があくどころか粉砕した。予想を越えるとんでもない威力、弾頭を魔結晶にしたからかもしれない。だが――。
「ツゥ!!」
だが、俺は威力に驚く余裕はなかった。
発射の反動で腕がはねあがり、握っていた魔導式リボルバーが顔面を強打したのだ。自分で自分を殴った形。
「ガホゥ」
鼻血が出る。痛い、痛い、痛い、そして熱い。
激しい痛みでリボルバーが腕から抜け落ちる。
「マスター!!」
うずくまった俺にシルヴィアが駆け寄ってくる。
「鼻の骨にヒビが入っだみだいだ」
鼻が詰まり濁声になる。
骨折すると熱を持つってホントなんだな、はれ上がった鼻がとても熱い。本当なら泣きわめきたくなる痛みなのだろうが、シルヴィアの手前、根性で涙をこらえた。
「マスター、少しの間我慢してください」
シルヴィアが回復魔法を使うためにスパイラルアームを起動した。
今までは俺に直接かかわることは許可を取って行動してきたシルヴィアが、許可を求めることなく動いた。
「すぐに治します」
「ありがとシルヴィア」
「私はマスターの従者ですので」
魔導式リボルバーは一応完成した。反動が大きい問題はパワードなスーツを着用すればパワーもあがるし問題無いと判断して、次はシルヴィアの武装を考えよう。
こうして俺は、また上半身の製作を後回しにすることを決めた。
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