第12話『魔導式リボルバー』

 ブラックボアの骨と肉、バドショットの種、ゴブリンのクズ鉄装備と魔結晶数種類。いろいろな素材を手に入れることができた俺は居住区兼工作部屋と化したシルバーメイズ遺跡地下に帰ってきた。


「残りの上半身を作るのですね」

「そのつもりだったんだけどな」


 予定ではパワードなスーツの残り上半身を作るつもりだったが、狙撃を受けたことで考えが変わった予定変更だ。まずは相手の射程よりも長い距離を攻撃できる武器を作り出す。


 グライダーナイフも十分に遠距離攻撃はできるが、あれは目標に当たるまでコントロールしなければならないし、コントロール中は動きを止めなければならない。バドショットのような魔物を相手にした場合、立ち止まるのは命取りだ。


 動きながらでも遠距離攻撃できて、放ってからコントロールの必要のない手で持ち運べるウェポン。この条件にあてはまる武器はひとつしかない。


「先に銃を作るぞ」


 これほど優れた遠距離武器はあるだろうか、いや無い、あればきっと元の世界の軍隊も銃は使用しない筈。


「いきなりアサルトライフルとかは作れないよな、失敗するイメージしか浮かばない」


 アサルトライフルってどうやって連射できる仕組みになってるんだ?


「プラモなら作ったことがあるんだよなー、1/6スケールだけど」


 プラモで重要なのは見た目である。本物の内部構造など把握していない。把握していないからいまいち『付加』に必要なイメージもわいてこない。うまく『付加』できる自信も無い、失敗すれば魔結晶を失うことにもなる。上質な魔結晶もけっこうな勢いで使ってきて、一日一個の補充では消費に追いついていない。


 なので失敗しそうなことはしたくない。


「中学の時にクラスに一人いたんだよなミリオタ。すごいうんちく自慢してくるから、適当に聞き流してたんだけど、もうちょっとまじめに聞いておけばよかったか?」


 いや、あの無駄に長い話しを聞く気力は今も持てない。なんだそんなことも知らないのと、あの上から目線は元上司と通ずるとこがある。


「まあ、連射機能は今後の宿題だな」


 魔法とかは魔力が作用するファンタジー現象と曖昧な知識なのに付加できるのは、アニメや漫画のイメージが強いから、妄想が理論を突破した結果であり、銃などリアルなイメージが強い物は知識がないと作れないという固定概念が強固でやっかいだ。


「リボルバーなら仕組みわかるからリボルバー式にするか」


 もちろん細かい仕様は分からないが、ハンマーを引いた時に弾の入ったシリンダーが回転すればいいんだろ。中学時代のミリオタが聞いたら激怒しそうな曖昧知識だけど、魔結晶で銃本体の強度を上がればクズ鉄ボディでも暴発することもないだろう。


 俺は鉄材をスキル『変形』を使ってリボルバーの形にしていくが、どうも頭で考えるだけでは細かい所まで作り込むのは難しい。変形も万能じゃなかった。ナイフのような刃物やブーツのような大きいモノまでならイメージだけで十分作れたが、細かいパーツは細部のところが歪になっていた。


「いままで、掌より小さい部品は変形で作ってこなかった。まさかこんな欠陥があったとは」

「マスター、そもそも変形スキルは、大雑把に形を変えるスキルです。イメージだけでブーツやアームを作れる方が異常です」

「え、そうなの」

「変形スキルを習得している者は何人かいるようですが、彼らができることは、鉄などを柔らかくして型に流し込み形を整えることです。けっしてマスターのようにイメージだけで形成はできません」

「あらー」


 変形なんて名前だから何でも作れると、やってみたら出来たからそんなモノだと思っていました。思い込みって力になるんだな。


 普通は型に流し込むのか。

 つまりスキルだけではなく、道具を使って仕上げるわけね。


 でも銃の型なんてこの世界にはないだろし、俺の望むモノはイメージで生み出さないといけない、いや、そんなことはないんじゃないか。

 補助する道具はなにも型だけではない。


「使いなれた道具を使えば、イメージの補強ができるかも」


 俺が使いなれた道具、プラモ製作の必需品ニッパーが真っ先に浮かんできたけど、鉄を加工するのにニッパーは無い、そうすると次に浮かんだのはヤスリだ。


「ヤスリか」


 ヤスリなら有りかもしれない、もちろん紙のヤスリではなく金属製の平ヤスリだ。日本にいた頃に愛用していたヤスリを『変形』で作ってみれば、これは細部まで俺が使っていたヤスリそっくりにできあがった。やっぱりイメージが強ければ強いほど、細部まで形成できるらしい。


 ヤスリに製作補助と『付加』した魔結晶を組み込む。

 試しに鉄材をヤスってみる。


「おお、これならイメージが上手く形になっていきそうだ」


 鉄材にヤスリがけをしながら『変形』を使うと、さっきまでの漠然としたイメージが明確な形になっていく、これなら細かい銃の部品だって生み出せそうだ。


「『変形』の極意を理解したぜ、イメージと思い込みだ」

「『変形スキルの極意発見、イメージと思い込みだ』とタイトルを付けてSOネットにアップしますか」

「すみません、それはやめてください」


 ちょっと調子に乗りすぎたな、ヤスリもできたしリボルバー作りに集中しよう。

 俺はまず大雑把に鉄材を銃の形にすると、ヤスリを使い細かい所を作り込んでいく。


「えっと、本体フレームに弾薬を入れるシリンダーを作って、銃弾が飛び出す銃口をあけて……」


 ヤスリはあくまでもイメージの補助なので実際に研磨しているわけではないが、ヤスった所が細かく正確に仕上がっていく。

 それから小一時間ほどブツブツとつぶやきながら工作を続け、リボルバーもどきが完成した。


「できたぜ魔導式リボルバー!」


 適当なネーミングが浮かばなかったのでとりあえず魔導式とつけておく。


「これは魔導銃ですか」

「え? この世界にも銃ってあるの?」

「はい、弾を打ち出す筒状の魔道具でしたら存在しますが」

「まじで!?」


 剣と魔法の世界だから銃は無いだろって考えてたけど、サーチバイザーで検索をかけてみれば、すぐに魔導銃の項目を発見した。


「本当にあるよ、確かに銃だ……だけど、ひどいなこれ」


 魔導銃の項目を読み進めると、俺の知っている銃とはかけ離れた評価を受けていた。


「金がかかる金持ちの道楽武器で実戦的ではない、購入理由は主にコレクション」


 信じられない内容だ。


「弾一発が金貨10枚、魔導銃本体は最安で金貨300枚以上か。シルヴィア、金貨300枚ってどのくらいの価値?」

「そうですね、王都で庭付きの屋敷が買えるくらいでしょうか」


 サーチバイザーに物件情報のデータを送ってくれた。そこには王都で売りに出されている邸宅の情報がのっていて、その販売価格がなんと金貨298枚となっていた。


 この世界の物価事情ははからないが、家一軒と銃が同じ価格なのは驚くしかなかった。

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