第11話『メインウェポンへの兆し』



 スパイラルアームを完成させてから数日。

 素材と食料確保のために狩りを続ける俺とシルヴィア。移動は相変わらずシルヴィアを抱えての移動である。


 素材となるゴブリンのボロい剣などは大量に手に入れられるのだが、食料となる魔物はなかなか見つける事ができなかった。野草なども冬に近づくにつれ取れなくなってきている。


「ゴブリンは無視するか」


 これまでは発見したゴブリンは全て倒してきたが、倒すのは一瞬でも剥ぎ取りなどで時間を取られていたので、食料が心もとなくなってきた現状、ゴブリンは無視してさらに森の奥へ入る事を決める。


「マスター、これより先は未踏のエリアです。気をつけてください」


 安全策でシルバーメイズからそれほど離れないで活動してきたが、周囲の食材になりそうなモノはあらかた取りつくしてしまった。ここから先は危険をおかすことになる。腕の中にいるシルヴィアが忠告してくれる。


「了解だ」


 普段のチキンハートな俺には珍しいと感じる積極的な行動、こんな行動がとれるのは、グライダーナイフにスパイラルアームといった装備が充実してきているからだ。

 サーチバイザーにレーダーも追加したので奇襲は受けないだろうが、アニメの主人公などはこんな時に油断してヘマをするのが定番なので慎重に行こう。強力な装備を手に入れた時が落とし穴、物語のお約束である。


 スラスター出力を八割ほど、余力を残して進む。


「マスター、右前方にゴブリンではない魔物の反応です」

「こっちも捉えた。二時の方向だな」


 最少のステップで進路を変えて反応を示した場所へ。


 スキーのモーグルのように木々を交わした先にいたのは、以前に遭遇したブラックボアだった。もう二度と会いたくないと思った時期もあったが、いまでは肉は食材、牙や皮はパーツの材料と捨てる場所のない高級素材にしか見えなかった。


 相手もこちらに気が付いたようで長い牙を震わせ突進の構えを取る。


「だが、遅いぜ」


 こっちはすでにシルヴィアがグライダーナイフの発射態勢に入っている。一方的な先制攻撃でおしまいだ。


 しかし、そこに予想外の横槍が入れられた。


 ブラックボアが何かに撃ち抜かれたのだ。目から生気がなくなり黒い巨漢が横倒しになる。


「マスター!!」

「くそっ!!」


 とっさにスラスターブーツを逆噴射、腕の中のシルヴィアを落とさないように全力で後退した。発砲音はしなかったが、ブラックボアを撃ち抜いた攻撃は狙撃だった。


 いったいだれが、どこから。


 俺たちも狙われるかもしれない、後ろを振り抜く余裕すらなく全力でバックしたのだが、右足に衝撃を受けた。


 スラスターブーツには小さな穴があく。


 くっそ、俺たちも狙撃された。

 幸いスラスターブーツを貫通するだけの威力はなかったが、バランスを崩したことで進路が変えられた、姿勢制御が働き転ぶことはなかったが、背中をしたたかに太い木に叩きつけた。


「グァ!」


 背中にはまだパワードスーツを装備していない、素材回収用に背負っていた籠が若干の衝撃を抑えてくれたがそれでもかなりの痛みが全身を駆けまわる。


「マスター伏せて」


 シルヴィアが腕から飛び降り俺を地面に引き倒す。


 一拍置いて背中を打ちつけた幹に穴があく、また狙撃されたようだ。シルヴィアがいなければ俺の体に穴があいていた。


「どこから」


 サーチバイザーを起動させると倒れたブラックボアの近くに、もうひとつの反応があった。近いために反応が重なり気がつかなかった。


「あそこです」


 俺より先に魔物を見つけたシルヴィアがグライダーナイフを投擲する。

 高速で飛翔したナイフが、そろそろ秋も終わりだと言うのにひとつだけ青々としたヤシの実のような果実を斬りさいた。


 ピギャと悲鳴のような効果音を出した木の実が地面に落下する。


「あれが狙撃してきた魔物なのか?」

「はい、植物系の魔物『バドショット』討伐レベル62ですが奇襲に気づきにくく危険度はブラックボア以上との情報があります」


 確かにブラックボアは奇襲を食らって一撃で倒されている。

 バドショットがブラックボアより先に俺たちを狙っていたら気がつかずにやられていたかもしれない。

 油断などしているつもりはなかったがここは剣と魔法の世界、察知できないほどの距離から狙撃などされるはずがないと楽観していた。


 やっぱり村に行く前にパワードスーツを完成させた方がいいな。


「結果的にブラックボアの肉や素材が手に入ったから良しとするか。シルヴィア、そのバドショットって魔物も食材になるのか」

「いえ、食用には向いていませんね」

「あの狙撃は、もしかしてこいつの種を発射してたのか」

「そのようです。体内にある種が衝撃を与えると爆発、その反動を利用して種の殻を飛ばす仕組み。ただ爆発の威力は小さいので高速で発射されない限り脅威にはならず、握って爆発させても致命傷にはならないようです」

「ふ~ん、爆竹みたいな物かな」

「採取しますか?」

「そうだな一応しておくか」


 無駄にはならないし、持って帰ってみるか、何か利用法があるかもしれない。採取するシルヴィアを手伝おうとしてスラスターブーツに空いた穴が目に入った。この跡はまるでアレにそっくりじゃないか。


「これは、もしかすると」


 小さな丸い穴、飛ばす、爆竹、爆発、貫通、ここまで揃えば連想できるのは一つだけ。利用法、アイディアが沸いてきた。


「閃いたぜ」


 やばい、異世界に来てから俺の脳は発想の泉となっている。俺はバドショットの種の使い方を思いついた。


「シルヴィア、一応じゃなくてしっかりと採取だ」


 うまくいけばアレが創造できる。パワードなスーツのメインウェポンが。

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