第10話『スパイラルアーム』



 スラスターブーツ開発のおかげで俺たちの活動範囲は格段に広がった。

 もっとも一組作るだけで材料を使いきってしまったので、移動手段を持たないシルヴィアを俺がお姫様だっこして移動している。


 彼女のワンピースは元が俺の上着だったので生地の量の都合上、スカートの丈が短い、そのため太ももを直接触っている状態で、さらにワイシャツとワンピース越しに当てられている柔らかいお饅頭が、かなりの破壊力で俺の理性を攻撃してくる。


 性欲が強い野郎なら暴走していたかもしれない魅力を放っているが、俺はセクハラの冤罪で会社をクビになった男、欲望には負けない。あんな元上司の同類にはなりたくないと邪な感情は胸の奥深くにしまい込み厳重に封印して、さわやかに、そして華麗に、ホバー移動で葉の落ちはじめた木々の間を駆け抜けている。

 どうやらこの世界ではもうすぐ冬になるらしい。


「寒くないか?」


 遺跡にこもった数日の間に外はだいぶ涼しくなったように感じられる。


「大丈夫です、私は魔導人形なので」


 徒歩とは比べ物にならない移動速度を出すスラスターブーツ、木々があろうとも平地を走る馬以上の速度で進んでいるため、冷たい風が顔面を打ちつける。

 首にかけられているシルヴィアの腕のぬくもりがなければ、とても寒さに耐えられなかったかもしれない。


「マスター左前方に魔物の反応です」

「了解」


 軌道をシルヴィアが示した方角へ変える。


「シルヴィア頼む」

「グライダーナイフを飛ばします」


 サーチ&デストロイ。見敵必殺でワンサイドゲーム。これは俺が理想とする戦い方のひとつだ。お客を喜ばせる闘いではない、せっかくレーダーと遠距離武器があるんだから相手の攻撃が届かない距離から一方的に倒すのがもっとも安全確実。

 魔物は視界に入るやいなやシルヴィアの操るグライダーナイフに切り裂かれる。


「倒したのはゴブリンか」


 レーダーの魔力反応で予想はできていたが、どんな魔物だったのかは倒してから最終確認をするほどの瞬殺勝利だ。


「お、ラッキー鉄の剣を持ってたよ」

「魔結晶のみを回収します」

「よろしく」


 討伐レベル5のゴブリンは体内の魔結晶以外に使える素材はない、持っていたボロい剣も普通なら捨て置かれるレベルだ。鉄材が底をついたので使い道はあるのだが、できれば食材になる魔物を見つけたい。

 シルバーメイズに引きこもっていた俺たちがパワードなスーツの完成を待たずに外へ素材回収にきたのは、素材が底を尽きたこともあるが、食材も少なくなってきたからである。


「またブラックボアとか出ないかな」

「索敵範囲にブラックボアの反応はありません」


 結局、今回の討伐はゴブリン群れとの遭遇はあったがそれだけだった。

 群れだったのでそれなりの数のボロい剣や槍、そして木の実や食べられる野草を数種類ゲットできたが、狙っていた獲物を見つけることができなかったのは残念である。

 もう二頭くらいブラックボアの骨が手に入れば、一機分くらいのパワードなスーツの仮組ができたのに。


「予定を変更だな、先にシルヴィアの装備を作ろう」


 シルバーメイズに帰還した俺は、仮組をあきらめ先にシルヴィアの部分パーツを作ることにした。彼女の装備は今のところ追加で作ったグライダーナイフ一本だけ、もったいなくは思うがいつまでも俺がお姫様だっこで移動するのは不便だ。


「私のですか」

「シルヴィアの専用機も作るって言っただろ、全身は無理だけど一か所くらい先にこさえておこう。何がいい、やっぱりスラスターブーツかな」

「マスターは私を抱えての移動は負担が大きいですよね」

「いいえ、そんなことはありませんッ!!」


 あ、思わず全力で否定してしまった。


「でしたらマスターと同じアームを作っていただけたら、さらにお役にたてると具申します」

「アームってアルケミーのことか」

「はい、ただ付加するのは錬金魔法ではなく回廊魔法にすることはできないでしょうか」

「回廊魔法ってどんな魔法かわかるか、付加はイメージが大事なんだけど」


 上位魔法であること以外はあまり知らない、錬金魔法と違って名前からではどんな魔法かイメージできない。


「こちらが回廊魔法の詳細です」


 サーチバイザーに回廊魔法のデータが送られてきた。


「なになに、回廊魔法とは回復魔法のことである。ただ回復魔法と名付けたのではオリジナリティがなかったので回廊魔法と名付けただけ、特に意味はない。byショウ・オオクラ……」


 完全に中二病こじらせてるだろ。

 説明はこのたった一文だけ。

 魔法の開発者が名付ける権利を与えられる上位魔法。このシステムやめた方がいいんじゃないか。


「どうかしましたか」

「いや、シルヴィア。キミの制作者ってすごい人だね」

「私は直接会話をしたことはありませんが、趣味に生きた人だったとデータに残っています」


 うん。それはものすごく理解できる。


「生きていれば、さぞマスターと気が合っていたでしょう」

「おい、それはどういう意味だ、ぜんぜん似てないだろう。俺は中二病患者でもないし」

「中二病がどのような病かは存じませんが。規格外の製作スキルを持ち、趣味に生きているところはそっくりです」

「うう、否定できない」


 このままでは精神へのダメージを受けてしまいそうだから話題を元に戻そう。


「オホン、話しを戻そう。結論から言えば、アルケミーアームに回廊魔法を付加するのは可能だ。他に何か注文とかあるか」


 CDプレーヤーのように本体をアーム、ディスクを魔法を付加した魔結晶と考えれば難しいことではない。


「マスターにすべてお任せします」


 きましたお任せ注文。ある意味最強に難しい注文でもあるが、若返った脳からアイディアが溢れてくる。


「よし、任された」


 ただ回復魔法を使えるだけのアームでは面白みが足りない。

 サーチバイザーで製図機能をひらき高速で設計していく、回復魔法の基本はケガをおった個所に手をあて発動するモノが多い、回廊魔法の使用を読んだが、理論を構築したのがショウ・オオクラだからだろうか、異世界物語りのお約束のような使い方だ。


 もっともショウ・オオクラが回廊魔法を確立させるまでは、回復手段はポーションなどの薬類しかなかったようで、魔法発表後は回廊魔法の習得を目指す職業ヒーラーを誕生させるなど世界規模で衝撃を与えている。


 だが。


「俺が目指すのは魔法ファンタジーではなく、パワードなスーツが活躍する世界、ただの回復魔法じゃ物足りないぜ」


 設計はできた。外見はアルケミーアームと同じだから制作も早く済んだ。

 後は回廊魔法の付加、伝われ俺のイメージと念じながら『付加』して、はめ込んで完成だ。


「できたぞ、シルヴィア」

「マスター、設計を始めてからまだ五分もたっていませんが」

「難しいことが何もなかったからな」

「……マスターこちらを」


 シルヴィアが回廊魔法習得条件のデータを送ってきた。回廊魔法を習得するには基礎魔法の水と風の二つを中級まで習得することが最低条件であり、才能がある者でも最短で五年の修行を要する上位魔法である。と書かれていた。

 へー、五年もかかるんだ。俺は五分で作ってしまったが。


「頼んだ私が忠告するのもおかしいですが、人里に入りましたら自重してください」

「わかってるって」


 作りたいものを、あらかたここで作ってから行けば村の中とかで製作しないですむ。ようは見られなければいい、だから、人目のないここでは思いっきりパワードなスーツを作るぞ。


「不安です」

「錬金魔法を使うわけじゃないからな、別の名前を考えないと、回廊魔法、回廊、回転、ドリル、スパイラル、うんこれだ。このアームはスパイラルアームと名付けよう」

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