第8話『時短、簡単、錬金魔法』
「では、さっそく」
完成したばかりの錬金の鍋。これを使ってゲットしたガラクタを使える素材へと作りかえよう。
魔力水を満たした鍋に、試しに粗悪な剣を一本投入。アルケミーアームを起動させ錬金魔法を発動させる。作るのは鉄材、粗悪な剣に含まれている余分な成分を排除して、純粋な鉄の部分だけを抽出。
魔力水が渦をまき、剣を溶かして形を変えていく。スキル『変形』と似ているが、あくまでも『変形』は形を変えるだけで素材に含まれている不純物を取り除くことはできない。
完全に鉄だけになった素材をインゴットにして完成だ。
取り出して確認、あれだけボロボロだった粗悪な剣が、光を反射させるほどに輝く鉄のインゴットに、元が元だけに品質はそれなりだが、まじりっけなしの鉄材だ。
「よし、完成」
「…………」
「あれ、どうかした?」
また、シルヴィアさんが驚いた表情を浮かべてます。
「作業が早いのは予想できましたから、その点はもう無視します。ですが、なぜ錬金魔法で製作した鉄材がインゴットになって鍋から出てくるのですか」
「え、錬金ってこんなモノなんじゃないの?」
「違います。どうして物質を変換させる錬金魔法で磨かれたようなインゴットが完成するのですか、通常なら適当にまるめた粘土のような歪な形に仕上がるはずです」
はずですって言われても、シルヴィアさん、昨日より感情豊かになりましたね。
ゲームとかだとゲットした鉄材って最初からインゴットになっているヤツが多いから、無意識に『変形』が発動していたのかも。
「まあ、便利だからいいじゃん」
「マスターの性格を了解しました」
人に見せれば騒がれそうなのはシルヴィアの反応で理解したので、大っぴらにやるつもりは無い。でも、ここでは人目なんてないから思いっきりやってもいいよな。
とりあえず、作れるだけ鉄材を作って。
「何から作るか」
ここにある鉄材だけでは、パワードなスーツの全身を作るには少ない。一部分だけを製作したら素材の収集にいかないといけなくなる。
「優先して作る候補をあげると、武器と移動ユニットかな」
武器は現状グライダーナイフ一本しかない。シルヴィアが装備すれば大抵の魔物は倒せそうだけど、数が多かった場合や、シルヴィアにナイフを貸している間、俺が丸腰になってしまう。武器を持たずに魔物が徘徊する森に入るのはとても怖い。
移動ユニットは、単純に行動範囲を広げるモノだ。車やバイクなんて当然作れないので、足に装着するローラーブーツなんかがお手頃だろう。逃げ足もアップするし、完成したらゴブリン程度には追いつかれない。
「どっちも重要だな、武器をナイフだけにすれば、移動ユニットを作れるか」
できれば銃を作りたかったが、それは次の機会にしよう。まずは堅実に安全策だ。
「シルヴィアの武器もグライダーナイフと同じでいいか」
「よろしいのですか!?」
とても驚かれた。
「シルヴィアにも装備は必要だろ」
「確かにそうですが、あれほどの貴重な魔剣と同じものなど、私には恐れ多いです」
「そこまですごいものじゃないって、材料さえあれば何本でも作れるし」
「何本でも!? ですが、そうですね。マスターのスキルがあるのなら確かに」
また驚かれた。表情があまり動かない魔導人形だけど表情筋が動かないわけではない、ずっと真顔なシルヴィアがたまに驚く表情がけっこうかわいい。
「シルヴィアは俺の従者になってくれたお礼と記念ってことでうけとってよ」
もっともパワードなスーツが完成したら絶対に着てもらうつもりだ。シルヴィアのような美少女が装備する美しいスーツ。ぜひ見たい。ポーズをとってもらいたい。写真も撮らせてもらいたいと、密かに決意する。どこかのタイミングでカメラも作っておかないとな。
「わかりました。お願いいたします。マスターを守るためにも装備が必要だと判断します」
深々と頭をさげるシルヴィア。趣味でプラモを作り続けてきたが、誰かのために物作りをするのは初めての経験だな。
俺はシルヴィア用のグライダーナイフをものの数分で製作した。手本が目の前にあったのでイメージするのも簡単だった、素材が違うので色が少し違っているがそれ以外は瓜二つ。能力も同じものを付加している。
「ほい、これがシルヴィア用のグライダーナイフだ」
「ありがとうございますマスター」
丁寧に両手で受け取ったシルヴィア。感謝の気持ちを伝えてくれるが、もう数分でナイフを製作したことには驚いてくれなかったのが少しさびしかった。
「これほどの魔剣を頂けるなど過剰なご厚意、このシルヴィア、一層マスターへの忠誠度を高めました。この剣に誓って必ずマスターをお守りします」
「お、おお、よろしくね」
驚かない代わりに忠誠を誓われた。シルヴィアのような美少女に忠誠を誓われ悪い気はまったくしないけど、手は抜いていないが、簡単に作ったナイフ程度でいいのだろうか。
「次は移動ユニットの製作ですか」
「ああ、そうだね」
忠誠度が上がったからなのか、積極的になったような気がする。
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