第7話『落とし穴の底には……』
アーム部分が完成したので、このまま他の部分もと行きたいが、ブラックボアの骨だけで全身を作るには量がたりない。そこで役に立つのがアルケミーアームだ。
錬金魔法が使えるようになったので、これで鉄材をバンバン生み出していきたい。
「シルヴィア、この遺跡に余ってる鉄材とかない?」
「申し訳ありません、使えそうな素材は私が収まっていたカプセルのみです。ダンジョンの罠を解体すれば素材はとれますが」
このシルバーメイズは侵入者を迎撃するダンジョンでもある。
ダンジョンと言っても、魔物などは徘徊しておらず、すべてが罠によるトラップダンジョンなのだそうだ。落とし穴の底にあるスパイクや、天上に吊るされている鉄球などには鉄が使われているらしいが、それらを解体してしまうと、ここの防衛力が下がってしまう。台所やついでに風呂場やトイレを作るために水害トラップから水を引いてしまったし、これ以上はトラップに手を出してせっかくの安全地帯を無にしたくはない。
「そういえば、侵入してくる魔物を迎撃してるんだよな」
「はい、ほぼ第一層の落とし穴で全滅させています」
ちなみに、このシルバーメイズは第七層まであるタワー型のダンジョンで、各層にそれぞれ違ったタイプのトラップが設置されている。第一層は落とし穴や吊り天井、壁からの槍衾など典型的なトラップ迷宮らしい。最上階まで攻略して初めて地下の宝物庫へとつながる魔法陣が出現する仕組みだったそうだ。
「落とした魔物の素材はどうなってるんだ、昨日落としたゴブリンなんかはまだ落とし穴の底にありそうだけど」
「魔結晶と持っていた剣や皮鎧は残っているでしょうが、死骸はもう魔力へ気化していると思われます。確認いたしますか」
「魔力へ気化?」
「魔物は魔力が実体化した存在です。自然界の魔結晶が周囲の魔力を取りこむことで発生する現象、それが魔物です。なので活動を停止した魔物は徐々に魔力へと気化していきます」
「でも、ブラックボアの肉とか骨は残ってるぞ」
「解体時に魔力を流しながら解体しますと気化はしなくなります。その代わり、肉などは時間経過で腐敗していきます」
つまり解体を失敗した場合は、気化してしまう可能性もあるのか、シルヴィアが解体できてホントによかった。
「また気化までの時間は、内包している魔力により変わります。ブラックボアですと放置しても三日は残りますが、ゴブリンレベルですと一晩で完全に気化してしまいます」
「残るのは核である魔結晶のみか、そのまま魔結晶を放置すると復活とかするのか?」
「魔力が濃い場所なら復活、あるいは環境によっては別の魔物として出現する可能性もあります」
「じゃあ、落とし穴の底で復活している可能性も」
「いえ、復活をさせないために、魔力が溜まらないよう設計されています」
「それじゃ、罠の底には魔結晶とかそのまま残ってるのか」
「そうなりますね」
「使い道がないなら、もらってもいいか」
「もちろんです。このシルバーメイズダンジョンは全てマスターの所有物、迎撃による戦利品も全てマスターの物です」
俺はいつのまにかダンジョンマスターになっていた。
シルヴィアの案内でシルバーメイズの隠し通路を通り、落とし穴の底にやってきました。隠し通路はダイレクトに落とし穴の底に繋がっており、スライドドアが開くと鉄の針が剣山のように床一面に広がっている。
「こんなとこに落ちたらひとたまりもないな」
「いま、針を収納します」
シルヴィアが入口横にあったパネルを操作すると、ゆっくりと床へ収納されていった。残ったのは大量の魔結晶と粗悪な剣や穴だらけの皮鎧。
腐敗臭もしなければ血の汚れも見当たらない。
「本当に魔物の死骸は無いんだな」
この魔結晶の数、いったいどれだけの魔物がこのダンジョンに侵入してきていたのだろう。やばい、顔がゆるんできた。まったく労力を使わずに大量の素材をゲットしてしまった。
これはもうパワードなスーツを作れと言う異世界の意思に違いない。
テンションがあがってきた。
「シルヴィア、錬金魔法に必要な道具を調べてくれ」
「了解、マスター」
シルヴィアが調べてくれている間に、ゲットした素材の仕分けをしておこう。
落とし穴の底にあった素材を全て居住区エリアへ運び込んだ、かなりの重労働であったが、アドレナリンが出まくっているのか疲れを感じない。
ゲットした素材は粗悪な剣が十二本、粗悪な盾が三個、皮の鎧五個、透明感の無い黒い魔結晶が四十二個などなど、これだけあれば、一機分には足りなくても、アーム以外のパーツも作れそうだ。
「マスター、錬金魔法はまず大きなツボのような鍋が必要のようです」
「大きなツボのような鍋」
写真データをサーチバイザーに転送してくれた。これならイメージがしやすい。
大きさは五右衛門風呂くらいか、これなら風呂場を作ったときに壁を削った土があったな、それを『変形』でツボの形にして、錬金鍋と『付加』した魔結晶をはめ込めばいいだろう。
イメージが明確だったおかげで、ほんの数秒で鍋が完成する。
「よしできた、次は?」
「…………」
「シルヴィア」
呼びかけても応答がないので振り返ると、驚いた顔をした魔導人形がいた。
「……資料には、錬金の鍋を製作するには早くても半年はかかるとあったのですが」
「そうなのか、でも俺のスキルは製作に特化してるからな、こんなもんだろ」
「マスターのスキルの異常性、記憶しました」
異常性って、若返っただけの元サラリーマンだぞ。
「次は錬金の鍋に魔力水を満たします」
「魔力水とは」
「文字通り、魔力を含んだ水のことです。砕いた魔結晶を水にまぜ、三日煮込むそうです。混ぜた魔結晶の質により錬金の結果に影響を与えます」
なるほど、魔結晶は魔力が結晶化した物、それを魔力に戻して気化する前に水を混ぜるんだな、だったら三日も煮込む必要はない。まずただの水を鍋にそそいで上級魔結晶を『変形』を使って液状にしてかき回す。
「どうだ、魔力水になったか?」
鍋みたいに数秒で作ることはできなかったが、数分かき回すと、見た目には完全に混ざり合っているように見える。
「はい、水から魔力を検知、魔力水へと変貌しています」
「よし!」
「……マスター、これから人里に行ったときは人前でのスキル使用はお控えください。嫉妬した錬金魔法士に襲われる危険があります」
「そんな、これくらいで」
「これくらいではありません、マスターは常識が無さすぎます」
目覚めたばかりの魔導人形に常識がないと怒られてしまった。
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