第6話『アルケミーアーム』



 SOネットと格闘すること二日、ようやく錬金魔法の習得法がのっているページにたどり着いた。だが――


「――ダメだったか」

「マスター、そろそろ休憩にしませんか」

「そうだな」


 上位魔法である錬金魔法。さすがは上位、俺が習得するのはとてつもない高いハードルが待っていた。

 それは、水と土魔法を中級まで習得するが、錬金魔法を覚えられる条件だったからだ。


 シルヴィアの測定によると俺の魔力はこの世界の一般人の十分の一くらいしかないらしい。魔法という分野は才能に依存度が高く、魔力が高い者が習得をめざし、低い者はそうそうにあきらめるのが世界の常識。


 ドーピングで一時的に魔力を高める方法もあるようだが、ドーピングにもお金がかかるみたいで、そうとうな金持ちしか使わない方法のようだ。俺がやるには現実的じゅない。


「昼食の用意ができています」


 もう昼だったのか、熱中しすぎて時間の感覚があいまいになっていた。ここはシルヴィアのうまいごはんを食べて思考をリセットするか。


「どうぞマスター」


 キッチンと一緒に製作したダイニングテーブルにはブラックボアの肉で作られた料理と昨日までは無かったはずの豊富な山菜が一緒に並べられた。

 昨日までは肉と木の実しかなかったはず。


「なあシルヴィア、この山菜はどこから?」

「シルバーメイズの裏手で発見できましたので採取しました」

「一人で外にでたのか」


 いくら周辺だからって危なすぎるだろ。グライダーナイフはずっと俺がもっていた。つまり無防備な状態で外出したことになる。無事なようすから魔物に襲われてはいないようだが。


「勝手な行動、申し訳ありません。マスターがとても集中していたのでお声がけを控えました」

「い、いや、それはいいんだけど、戦闘能力無いんだろ、危なくなかったか」

「はい、ゴブリン数匹に見つかり襲われましたが、シルバーメイズへ逃げ込んだので問題ありませんでした」

「おい!」


 しっかり襲われてるんじゃないかよ、てっきり見つからなかったと言うかと思いきや、その真逆のことが起きていた。


「そのゴブリンたちはどうなった」

「一つ目の落とし穴に落ちて全滅しました」

「……そうなんだ」


 襲われたことにたいして一切の恐怖を感じていないようだ。


「ダンジョン部襲撃者のログを確認したところ、ゴブリンの襲撃はかなりの頻度であったようです。そのどれもが二つ目の罠までで全滅していましたので、誘い込めば迎撃可能と判断しました」

「ああ、そうですか」


 もう言えることは何もない、この魔導人形さん、ものすごい優秀です。


「冷めないうちにどうぞ」


 細かいことを気にするのはやめよう、せっかくおいしそうな食事を用意してくれたんだ。文句など罰当たり以外のなにものでもない。

 外見が美少女のシルヴィア、たとえ魔導人形だったとしても、こんなにかわいい子の手料理をこの世界にきてから毎日食べられるなんて、とても幸せだ。


「シルヴィアも座れよ、一緒に食べようぜ」


 昨日もそうだったが、従者と設定されているからか、テーブルから一歩さがって待機モードになったシルヴィアを誘う。一人暮らしが長く慣れていたつもりだったが、俺は誰かと一緒に食事をすることに飢えていたのかもな、元上司とは金をもらっても一緒に食事なんていやだったけど。


「夕食も一緒に食べようぜ」

「……了解しましたマスター」


 少しだけ思考したあと、シルヴィアは了承してくれた。




 食事を終え、SOネットのサーフィンを再開する。

 今度はシルヴィアにも検索を手伝ってもらうことにした。SOネットの検索なら俺よりも精通しているし、一人よりも二人の方が効率もいい。


「マスター、魔法を習得するのではなく、使用できればよろしいのですね」

「ああ、その解釈で間違いない」


 検索をはじめて数分、探しているモノの確認をしてくる。


「それでしたら、魔剣などをもちいるのはどうでしょうか」

「魔剣?」

「はい、魔剣とは魔力を宿した剣の総称、剣自体が魔力を持っていますので、魔力が少ない者でも使用できます。マスターのグライダーナイフも魔剣に分類されますが、浮遊ではなく、魔法を放つものが一般的な魔剣になります」

「魔剣とかって使用者を選ぶじゃないの?」


 マンガとかだと、選ばれし者のみが使えるイメージだ。


「剣が使用者を選定するのは高位の魔剣のみです。量産された魔剣は剣を振るう体格さえあれば、誰でも扱えます。こちらをご覧ください」


 量産の魔剣って、魔剣に対するイメージが壊れるなー。


 シルヴィアが見つけたページをSOネットを経由して俺のサーチバイザーへ転送してくれた。パソコン端末をイメージして製作のでメールの送受信機能もそなわっていたが、説明する前にこの優秀な魔導人形さんは使いこなしてる。


「なになに『帝国鍛冶組合バーゲンセール、炎を噴き出す魔剣どこよりも格安販売、個数限定百本!!』家電の広告みたいだな」


 ずいぶんと庶民くさい情報だった。

 帝国のバーゲンセールのチラシを帝国在住のシルヴィアの姉妹がアップしたモノのようだ。

 ページの下にシルヴィアが魔剣の説明をしているページのリンクを張り付けてくれた。


「魔剣とは、魔力を宿した魔結晶が埋め込まれた剣である」


 グライダーナイフと一緒だな。


「埋め込まれた魔結晶が火属性なら火魔法が仕え、水属性なら水が使えると」


 確かにこれなら魔力の少ない俺でも魔法は使える。

 魔剣の仕組みもいたってシンプル。


 このくらいなら簡単に作れそうだ。量産体制ができているくらいだし。この世界ではわりとポピュラーな技術なのだろう。

 俺には鉱脈の皮袋があるから魔結晶の準備も問題ない。


 剣の本体は昨日手に入れたブラックボアの骨でいいだろう。討伐レベル65の魔物であるブラックボアの骨は粗悪なゴブリンの剣より強度は高い。


「魔剣の製作はできそうだけど。これで水と土の魔剣を作れば、錬金魔法が使えるかって言うと難しいよな」


 このままだと、両手で水と土の魔法が使えるだけだ。錬金魔法を習得するための最低条件であって、二つが使えたからってすぐに、上位魔法が習得できるわけではない。


「だがまてよ、魔剣に最初から錬金を付加すればいいんじゃないか、何も基礎魔法に拘る必要はないよな」


 そう、基礎に拘ることはない、基礎魔法が付加できるなら上位魔法だって付加できるだろ。


「それに、魔法を補うのに何も剣の形じゃなくてもいいだろう。そもそも魔剣にしたら手が塞がって使いづらい。たとえばアーム、手甲に魔結晶をはめ込んでしまえば、手を塞ぐことなく魔法が使えるようになる」


 思いつけば簡単だった。プラモにチップLEDを付ける要領だ。車のライトをつけるように、ロボの目を光らすように、内側にはめ込んでしまえばいい。


 そして、それはそのままパワードなスーツのアームとしても使えるじゃないか。


 こうして俺は錬金魔法を付加して、魔結晶をはめ込んだ腕パーツ、アームを完成させた。


「錬金の手甲。名付けてアルケミーアームだ」



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