第5話『サーチバイザー』



「さて、作るか」

「はいマスター」


 俺たちがまずした事、それはパワードスーツ製作ではなく台所作りであった。

 せっかく肉が手に入ったのに調理する場所がない。

 腹が減っていたので一食目は、そのまま焼いて食べた。焼いただけでもブラックボアの肉は臭みもすくなくそれなりには食べられたが、さすがにこれを毎食になると苦しい。

 せっかくシルヴィアの特技が料理なのだから、それを生かす設備を整えたい。

 ブラックボアの肉も、高級食材らしいし、どうせならおいしく食べたい。


「これ、もらうぞ」

「お好きにお使いください」


 台所を作るうえで必要な材料を俺はシルヴィアが寝ていたカプセルに目をつけた。

 強化プラスチックとステンレスに似た素材、武器に加工するには強度が心配だが、シンクにするなら問題はなさそうだ。


 台所など作ったことはないが、俺には『変形』のスキルがある。

 シルバーメイズ遺跡の地下。シルヴィアが眠っていた宝物庫を地下居住区と改名して一角を大改装して台所に、まさかダンジョン遺跡の地下が台所に改装されるなど、この遺跡を製作したショウ・オオクラさんは思いもしなかったろう。


 完成した台所はちゃんと水道も完備してる。水害トラップがあったから居住区まで水路を引いて魔結晶を使ったろ過装置付きの水道だ。当然コンロも完備、これにも魔結晶を使って火加減もバッチリコントロールできる。さらにはオーブンも壁をくり抜いて作り、シルヴィアが最高に腕を振るえる環境を半日かけて整えた。


「ここまでのモノを、私などのために」

「従者が最高の環境で働けるようにするのが主人の仕事だ」


 俺に罪を擦りつけてくれた元上司は反面教師として役に立ってくれた。あいつにやられたことの反対のことおこなうだけで俺は従者に好かれるいい上司、いや主人になるだろう。


 腕を組み、やり遂げた仕事に満足する。


「ありがとうございますマスター、きっとマスターが満足する料理をいたします」


 シルヴィアが嬉しそうに台所で料理をはじめる。


 料理を待っている間に俺はパワードスーツ計画を進めることにした。この世界にきてはじめて落ち着くことができた。


「パワードなスーツの製作にあたりまずはパソコンが必要だよな、設計図を書いたり、ネットにつないで調べものをしたり」


 ここが、異世界でパソコンなど手に入らないのはわかっている。しかしネットはSOネットなるものが存在している。


「やっぱり最初に作るのは、ネット接続できる端末だな」


 シルヴィアに頼んで検索してもらうのも手ではあるが手間がかかってしまう。それにできるなら好きな時に好きなように使いたい。


「魔結晶を核にして『変形』と『付加』を組み合わせればスマフォもどきは作れると思うんだけど、それだと戦闘中とかに見るの難しいよな、戦闘しながらスマフォ」


 ブラックボアの時のような遭遇戦をイメージしてみた。襲いくるブラックボアを横目にスマフォを取り出して検索。


「無理むり、どんだけ高難易度な、ながらスマフォだよ」


 手を使わないで見られるようにしたい。これは最低条件だな。


「そうなると、メガネ型のディスプレイとかが望ましいよな、どこかに透明な素材は、変形では石とかをメガネの形にしても透明にならないし、あ、これがあった」


 シルヴァアのカプセル、変形は素材の形を変える物、石などを透明にすることはできないが、ここには最初から透明な素材があまっていた。金属は台所に使ってしまったが、強化プラスチックはそのまま残っている。

 革袋から二つの魔結晶を取り出すとそれぞれに。


「『情報共有』とこっちは『電脳箱』のスキルを付加して、メガネの形にしたコレにはめ込むと」


 メガネは激しく動いても外れにくいスポーツタイプ、マラソン選手などがかけているスポーツ用のデザインを強くイメージしてみた。魔結晶は左右のこめかみあたりのフレームにはめ込む。すると魔結晶を付けた影響か、透明だった強化プラスチックがサングラスのように黒くなってしまった。


「まあ、透明度が残っていれば大丈夫か」


 視力を補正するものでもないし、メガネよりサングラスの方がかっこいい。


「我ながらいいデザインじゃないか、そうだなサーチバイザーと名付けよう」


 後はイメージした通りに能力が付加されているか。


「ではさっそく」


 初めてスマフォを買った時のようなワクワク感。


「SOネットにつながってくれよ」


 スキル『付加』はイメージが全て、付加するときのイメージが明確なほど、複雑な能力を植え付けることができるらしい。俺はあったらいいなと思う理想のパソコンスペックをイメージして『情報共有』と付加した。


「ではさっそく、情報共有でSOネットへ接続」


 サーチバイザーをかけてSOネット接続と念じる。これは念じるだけでパソコンが起動したらいいなとの思いからイメージに組み込んだ能力だ。


「おお、成功だ!」


画面が空間に浮かび上がるように表示された、まるで空中ディスプレイだな、接続するとSOネットとロゴが表示された。


「ロゴまで作るとか、かなり凝り性な人だったんだな」


 そこから一度画面が暗転すると、中央にキーワード検索があるページがひらいた。

 左には異世界に役立ちそうな生活、地図、魔法、剣術といった項目、右にはニューストピックがあり帝国皇帝即位15周年とか、サフィール聖王国に自称勇者登場とかなど最近の話題とおぼしきモノが表示されている。


 メジャー検索サイトをパクッたようなトップ画面だな。


「試しに何か検索を、何がいいかな」


 つなげることが目的だったので、つないだ後のことは考えていなかった。


「んんー、とりあえず異世界だし魔法について検索してみるか、日本人の俺でも魔法は使えるのか」


 パワードスーツを作ることが一番の目的ではあるが、せっかく魔法がある世界にきたんだから、一つくらい覚えてみたい。それに錬金魔法とかがあれば上質な鉄材とか作れるかもしれないしな。


「検索、魔法っと」


 念じるだけでキーワードが打ち込まれページを開いてくれた。横に魔法の項目もるが試しなのでキーワード検索で探してみる。


「すげ~、使いやすさは元の世界のスマフォを越えてるぞ」


 キーワードに該当する項目の一覧が表示される。


「魔法技術まとめ総合サイトか」


 まとめと総合って同じ意味じゃないかと、つっこみを入れながら総合サイトを開いてみると、ゲームの攻略サイトのようなページが現れた。


 おお、これは見やすいと思ったのは最初の数秒だけだった。


「こりゃちょっと、読みにくいな」


 魔法初級知識。これは系統別にキレイに整理されているのだが、そこから先、中級、上級、最上級魔法などが系統もランクもごちゃまぜで掲載されていた。


 ページを製作した人と後から追加情報をのせた人が別人だったんだな、おそらく整理された初級知識までがSOネットを作ったショウ・オオクラさんが書いたモノで、後からバラバラに書きこまれた記事はシルヴィアが言っていた稼働中の同型機のモノだろう。


『中級火炎魔法・簡単習得法』の次が、『究極の風魔法の覚え方』となっている。その二個下には『発見、最大の風魔法』との記事もある。究極と最大、どっちが上なのだろうと読んでみれば、説明は微妙にことなっていたが同じ魔法名であった。


 説明の書き方のクセが違うので、投稿者は一人ではないようだ。

 検索機能がなかったら、お目当てのページを探すのは大変だな、まあ、無料で閲覧させてもらっているんだから文句は言わない。余裕ができたら編集してみようかな、投稿や編集は任意でやってくださいって文句もあったし。


「ん?」


 バラバラなタイトルを読み進めていると、とても気になる項目を見つけた。


“発見、上級魔法、鉄材を生み出す『錬金魔法』”


「おおッ!!」


 これは、まさに求めていた魔法だ。

 さっそくページを開いてみる。


「なになに、錬金魔法は基礎魔法である土魔法と水魔法を習得した魔法士が覚えることのできる高難易度の上位魔法である」


 SOネットによると、この世界の魔法は基礎魔法と上位魔法の二種類に分類されている。


 基礎魔法とは。火、水、風、土の世界を構成する四種。


 上位魔法とは。基礎魔法を二つ以上組み合わせた複合魔法であり熟練の魔法士長い年月をかけて開発した魔法。種類は現在把握されている限り、爆裂魔法、氷結魔法、雷鳴魔法、覇竜魔法、精霊魔法、錬金魔法、回廊魔法、製薬魔法の八種類、開発者が公開せずに秘匿している可能性もあるみたいで、正確な数は不明か、ネーミングに中二くさいのも含まれてるな、上位魔法は開発者がネーミングしてるようで個性が出てる。


 爆裂とか氷結は名前だけで効果が想像できるけど、覇竜とか回廊なんかどんな魔法か想像しにくい。


 まあそれは置いておいて俺でも錬金魔法習得できるかな。


「錬金魔法を検索っと、けっこうあるな」


 ヒットしたのが三百六十五項目もあった。中には『料理に錬金魔法が有効か検証してみた』とか『帝都に出現、偽錬金魔法士』とかの魔法ネタ記事とかも含まれているけど。


「錬金魔法習得方法」


 と検索をかけなおしたらヒットゼロ。じゃあ錬金の覚え方、使い方、と思いつく限りの絞り込み検索をしてみが、望むページが見つからなかった。


 整理されていないデータ群、会社で日付しか記録されていないデータの中から目的の資料を探せと言われた時の記憶がよみがえってきた。


 でもあきらめない。


「一個ずつ確認していくぞ」


 これもパワードなスーツを作るためだ。気合入れていくぞ――。


 それから数時間経過。


「マスター、お食事の用意ができました」


 俺はシルヴィアに声をかけられるまで、ずっとSOネットを漁っていた。

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