第3話『転落したらメイドさんゲット』
歳は若返った俺と同じくらいか、長い銀髪の少女は一糸まとわぬ姿で液体の詰まったカプセルの中にいる。
「まさにファンタジーだぜ」
美少女のボディは男性の理想を体現したかのように出る所は出て、くびれる所はくびれている。自然に生まれた人間とは思えないくらい整った印象だ。
「究極の造形」
プラモではここまでの美は再現できない、俺は無意識に手を伸ばしカプセルを触ってしまっていた。
「あ!?」
気付いた時には、もう遅し。
『マスター認証承認、魔力登録完了しました』
魔力が少しだけ吸い取られたような感覚のあと、死んだように眠っていた美少女の口が動いた。
「え、マスターにんしょう?」
『プロトナンバーセブン起動します』
カプセルが開き液体が溢れ出る。
「あぶぶ~」
頭から液体をかぶったよ、水圧に押されて尻もちをついてしまった。
液体は口の中にも流れ込みせき込んでしまう。
「大丈夫ですかマスター」
「ああ、大丈夫?」
俺を心配してくれる存在は誰、そしてこの差し伸べられた白い手は。
「これは、まさかのラッキー展開」
差し出された手を握り視線をあげれば、髪と同じ銀色の瞳が真っ直ぐに俺を見つめていた。
予想はしたけど、カプセルから出てきた彼女は下着一枚着ていないので、慌てて視線をそらす。
「どうかしましたかマスター?」
「と、とりあえずこれ着てくれ!」
俺は肩の裂けている上着を脱ぎ『変形』を使ってマントのようにすると彼女にかぶせる。
もう少し女性的な服を作りたかったが、イメージが大事な変形では異性の服の知識が乏しい俺では即座には作れない。
「ありがとうございます。随分と珍しいスキルをお持ちですねマスター」
ちょっと機械的な口調だけど、癒される優しい声色だ。
「マスターって、俺の事なのか?」
「はい、肯定です」
カプセルに触っただけでマスター登録って、今まで誰も触ったことなかったのか。
「この場所はめったに人がこない?」
「ここは二百年前に存在した大富豪兼大魔導技師ショウ・オオクラが趣味で建造したダンジョン遺跡『シルバーメイズ』の最深部である宝物庫。到達できた人物はあなたが初めてですマスター」
「そ、そうなのか。ショウ・オオクラって、日本人みたいな名前だな、過去に俺と同じようにこの世界にきた人間か。それに宝物庫と言うわりには宝物がないような」
二十畳以上ある石作りの大部屋、彼女が入っていたカプセル以外はなにもない。
「申し訳ありませんマスター、私ことプロトナンバーセブンが宝物扱いであり、他の財宝は用意されておりません」
「え、いや、そんなことで謝らなくていいぞ」
つまり、最初に到達した者なら誰でも彼女のマスターになる権利があったのか、こんなかわいい子のマスターになれるなら金銀財宝よりも喜ぶ人種は多いだろう、かくいう俺も当然喜ぶ派だ。彼女の容姿はとてもパワードなスーツが似合いそうだし。
「それより過去二百年到達できなかったわりには俺は簡単に入ってこれたんだけど」
「現在この遺跡がある土地は未開の地となっており、そもそも人が訪れておりません。二百年前に近くに古代都市の遺跡が発見されたので、この地点にも多くの人が訪れると予想されたのですが、森の魔物が強く、近づくどころか、訪れることも無くなりました」
古代都市の遺跡か、ゴブリンたちの剣はそこから持ち出したのかもしれないな、でも、ちょっとまて、現在は未開の地だと。
「近くに村はないのか?」
心配になったので訪ねてみる。二百年も眠っていたので最近の事など知っているとは思えないが。
「三年前ここより北西の方角十キロほどの地点に、開拓村が作られました」
「三年前って、二百年も寝てたのにどうして知ってるんだ?」
「この時代でも私の同型機が数体稼働中です。彼女たちが私たちプロトナンバーズだけに接続できるSOネットに情報をアップロードしてくれています。細かいことまでは分かりませんが、簡単な世界情勢や地理などは把握できます。あと首都でのお得な買い物情報もあります」
「まるでインターネットだな」
もうショウ・オオクラは日本人確定だろ。SOネットってそのままショウ・オオクラのイニシャルじゃないか。
「改めましてマスター、私はプロトナンバーセブン。ショウオオクラより生み出された魔導人形です。以後よろしくお願いします。あなたの従者として活動が停止するまでお仕えします」
「え、あ、おう。じゅうしゃって?」
「三文字で説明するならメイドです」
なぜに三文字説明、ファンタジーだぜ。
異世界に移住してから半日でメイドゲットだと。
ゴブリンと遭遇して時には不運かと思ったけど、こんな美少女が俺の従者になるだと。
マントで女性の大事な所は隠れたが、それでも覆いきれていない足などはそのまま見えている。
「ご安心くださいマスター、魔導人形であるこの身ですがプロトナンバーシリーズは夜伽の相手としての機能も備わっております」
視線を読まれた。
なんて高性能なんだ魔導人形。つい誘惑に負けそうになるが、俺は紳士な男だ。
「いやいやいや、そう言うことはもっとお互いを知った後でね、立場を利用して強要するつもりは一切ないから」
戦闘以外でも俺のハートはチキンハートであった。
「マスターは素敵な男性なのですね」
にっこりと笑ってくれた彼女、その笑顔に俺の心拍数がやばいことになる。ショウ・オオクラさん、あんたの作り込みハンパねー。
「えっとプロトナンバーセブンって名前じゃないよな」
「はい形式番号です。名前はマスターに命名されることになっております」
「名前か」
あまりセンスがあるとは自分でも思っていないが、俺の従者になってくれる女性だ。全精神を注ぎ込んで命名させてもらおう。
改めて彼女の顔を見る。シルバーの瞳に色白で顎は細く小さい、鼻や口といった顔を構成するパーツはまさに理想じゃないかとおもえるほど美しいくなる位置におさまっている。
まさに男の理想を形にしたような美少女。
もう一度言う。ショウ・オオクラさん、あんたハンパねー。
「はんぱねー、が名前でよろしいですか」
「いやいや、違う。それは違うぞ」
思わず考えていたことが声に出てしまった。
今は名前を考えることに集中しよう。
プロトナンバーセブンの特徴は、銀の瞳、銀髪、シルバーは男っぽいよな、シルヴィがいいかな、いやシルヴィアはどうだ、うん良い響きだ。クールな雰囲気の彼女に似合いそうだ。
「シルヴィアなんてどうだ」
「シルヴィア、美しい響きを感じます。ありがとうございますマスター。個体名シルヴィア登録しました」
「よろしくシルヴィア」
「はい、よろしくお願いしますマスター」
異世界生活の明るい未来が見えてきた。
だからだろうか、落ち着いたらお腹もすいてきた。腹の虫が盛大にグーとなってくれる。
「こっちにきてから、何も食べてないんだった」
転移前もドタバタでほとんど弁当食えなかったし、転移してからはゴブリンと戦いゴブリンに追いかけ回された。食事などする余裕はなかった。
「食事ですか、困りましたね。ごらんの通りこの遺跡には食べるモノはありません」
「だろうな」
あったとしても二百年の間に腐ったりしていただろう。
「十キロ先に開拓村があるって言ってたよな、そこまで行けば食事できるだろ」
十キロも移動しなければいけないが、変形と付加で移動用の道具を作れれば、大変だけど不可能じゃない。
「その事ですがマスター、森には危険な魔物が存在します。突破するにはある程度の戦闘技能が必要ですが、残念ながら私は戦闘技能を持っていません。魔導人形なので身体能力は人間よりは数段高いですが、戦闘技能を習得していませんのでマスターの護衛をしながら村を目指すのには不安があります。到着確率を計算しますと50パーセントです」
つまり半分の確率で命を落とすってことですか。
シルヴィアさん、俺の体格から戦闘できないと予測しましたね。その通りです。
グライダーナイフがあってもゴブリン群れに逃走するのがやっとでした。
「すぐに村へ行くのはあきらめるしかないな」
「賛成します」
「それで、シルヴィアは何か特技は持ってるの」
「はい、料理、清掃、裁縫が得意です」
めちゃくちゃ家庭的な能力だ。
「まるで本物のメイドみたいなスキル構成だな」
「肯定します。創造主ショウ・オオクラは無類のメイド好きだったと記録されています」
ショウ・オオクラさん。あんた趣味全開で異世界を生きたんだな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます