第1話『戦闘スキルなし』

 スキル『変形』は物質の形状を変えられる。


「このスキルがあれば細かい作り込みも思いのままだ」


 ナイフの完成度に満足したのでいよいよ最後の仕上げとして、腰にぶら下がっている小さな革袋から一つの結晶体を取り出す。

 この革袋こそ俺が三つ目の特典としてもらったアイテム『鉱脈の革袋』一日一個、上級の魔結晶を出してくれるという優れモノ、おまけとして十個の魔結晶がすでに入っている状態だ。


 パンフレットにはこの世界には魔道具というモノがあり、魔道具に魔力を宿す核になるのが魔結晶と書かれていた。


 つまり魔結晶を加工できれば自作で魔道具が作れるということ。

 この袋から出てくる魔結晶は属性を持たない純粋な魔力の結晶体、それに方向性を与えることにより様々な魔道具の核となる。


「遠隔操作を付加」


 魔結晶に二つ目にもらったスキル『付加』を使い宿っている魔力の方向性を定める。本当なら難しい儀式や技法などが必要なのだろうがこのスキルのみで出来てしまう。まさに俺が望んだ最高のスキルだ。

 そして付加が終わった魔結晶をバタフライナイフにくぼみを作りはめ込んで、取れないように固定する。


「完成だ!」


 とても簡単、カップ麺を待っているぐらいの時間で俺は魔道具を完成させた。


「では早速テストを、浮かべ」


 バタフライナイフに命じると、手から離れてプカプカと浮かび上がった。体が少しだるくなると感じたが、滞空するナイフを見た興奮に比べたらささいなこと。


「おっしゃー、成功だ!!」


 ロボットアニメの浮遊兵器を参考に考案した俺の魔道具、試作第一号作品。


「命名するなら、そうだな、グライダーナイフと名付けよう」


 チキンハートの俺が剣を持って接近戦なんて想像もできない。肉弾戦なんてスポーツやアニメ鑑賞だけで十分だ。

 戦闘はできる人にお願いしたい。

 それが無理なら、次点として。


「戦いは遠距離から一方的に、ワンサイドゲームが理想だよな、自分が戦わなきゃいけなくなったら」


 それが俺の戦いにおけるモットー。

 異世界に来たからって剣で接近戦などするつもりはない。命がけの剣戟なんてぜったいにしたくない。


「俺はこの二つのスキルと素材を生んでくれる革袋を使って、夢であったパワードなスーツを作りだすんだ。そして美少女に装備してもらう」


 そのために剣と魔法の冒険世界にやってきたんだからな。


「このグライダーナイフはきっとパワードスーツのサブウェポンとして活躍してくれることだろう」


 どうしてサブなのか、それは個人的な趣味だがパワードスーツのメイン武装はやっぱり銃がいいからだ。

 空中で思い通りにグライダーナイフを操りポーズを決めてキャッチする。


 人に見られたらとても恥ずかしいことをしている。成長すれば黒歴史になるかもしれないが、どうしてもやりたくなってしまった。なんだか体が若くなって精神年齢も体に引っ張られてる気がする。


 でも、そんなことは些細なことだ。


「やってやる。俺はこの世界で必ず夢をかなえてみせるぞーー!!」


 海〇王に俺はなるーーー!! 的な雰囲気でやってしまった。

 俺興奮して叫んでいると、近くの茂みがガサガサと揺れボロボロの剣を持つ緑色の小鬼が現れた。


「ギギィ」


 耳障りな鳴き声を出して睨みつけてくる小鬼、裂けた口からは臭そうな涎がダラダラと流れ落ちている。あきらかに俺を獲物と認識しているようだ。


「ゴブリン、だよな」


 異世界ファンタジーでは定番の雑魚モンスターゴブリン、物語では雑魚だとしても武器をもってこちらに殺気をぶつけてきている。話し合いなんて悠長なことはしていたら一瞬で殺される。


 こちらが何か一つでも動作をすればすぐにでも襲い掛かってきそうだ。

 グライダーナイフを一番に作って正解だったな。


「ちょうどいい、このナイフのテスト相手になってもらうぜ!」


 手から浮かび上がったグライダーナイフをゴブリン目掛け真っ直ぐに飛ばす。

 イメージ通りの動き、ゴブリンの剣が届かない距離からのワンサイドゲームだ。


 このまま一方的に敵を斬り裂く、ことはなく、切れ味のまったくなさそうなボロボロの剣によってグライダーナイフはあっさりと弾かれた。


「あ、あれ?」


 ナイフを弾いたゴブリンはそのまま襲いかかってくる。

 唯一の武器がなくなって素手の状態、いきなりピンチすぎるだろ。


「ちょっとタイム、タイム!」


 そんな事で止まってくれるわけはなく、尻もちをつくようにしてボロボロの剣を交わす事ができたが、勢いのついたゴブリンはそのまま俺の腹に蹴りをかましてくれた。


「ゴホッ!」


 もうね、ボウリングの球を投げつけられたかのような衝撃、腹が破裂するかと思った。霞む視界、ゲームのHPバーみたいなモノがあったなら間違いなくレッドゾーンに入っているほどのダメージ。

 剣にあたらなくてももう一発蹴りを食らえばデットエンド確定。


「うそ、だろ」


 あまりの痛みで立ち上がることもできない。

 ゴブリンは俺が動けなくなったことを悟ったようで、ニヤリと笑みを浮かべてゆっくりとボロボロの剣を振り上げる。


「くっそ、余裕かましやがって」


 その見下した顔のおかげで怒りがこみ上げぼやけてた意識がはっきりした。


「戻ってくれ!」


 強く念じる。

 どこにあるか分からなくても遠隔操作はできるはず。時間がない、振り上げられた剣が振り下ろされたら終わりなんだ。


「戻れよ!!」


 どこかに飛ばされたグライダーナイフが俺の命令を聞き戻ってくる。風切り音で察したゴブリンがナイフをまた弾こうとするが。


 今度はそうはいかない。


 さっきは真っ直ぐ飛ばしたのがいけなかった。

 あれは遠隔操作ができるんだ。剣で弾かれる瞬間に軌道をカーブさせてゴブリンの剣を交わし、喉を突く。


「どうよ」


 ゆっくりとあおむけに倒れていくゴブリン。


「……勝てた、んだよな」


 念のために、グライダーナイフを遠隔操作してツンツンとつついてみるが反応はない。


「助かった」


 安心したからか、全身にどっと疲労感が襲ってきた。まるで徹夜明けに遅刻しそうになり駅まで全力疾走した後みたいだ。

 生まれて初めて命をかけた戦いをしたわけだが、それほど動いていないのに疲労が半端ない、ここまで疲れるものか。

 もしかしなくてもグライダーナイフを使ったせいだろうな。


「これ使うのって、魔力とかが必要だったりして」


 確認のために浮遊したままになっているグライダーナイフを呼び戻し、浮遊を解除すると、少しだけだが疲労感が解消された。

 やっぱりか、体内の魔力っぽいものを消費していたようだ。


 危なかった、もしもエネルギー切れでナイフを呼び戻せなかったら死んでいたのは俺だ。

 魔力が切れる前に人のいる村に到着しなければ、マジで命がやばいかも。


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