AA異世界スーツ~~プラモ感覚でパワードなスーツを作ってみた~~

江山彰

第一章

プロローグ

「こいつがセクハラしたんだ!!」


 俺、妙銀みょうぎん一馬かずまみょうぎんかずま二十五歳は務めている会社の上司からセクハラの罪を着せられ、釈明する機会も与えられずにクビを言い渡された。

 あんなブラックに近い会社、こっちからやめてやろうと考えていたからクビ自体にショックはないが、退職金はセクハラの示談金として被害女性(元部下)に支払われることとなった。


「グフフ、事件として訴えることなく、内々で処理をしたボクの優しさに感謝するといい」


 いやらしい笑みを浮かべる上司、いやもう元上司か、セクハラしたのはテメェじゃないか握りこぶしをその顔面に叩き込みたくなったが、この会社に味方はいない、殴れば傷害事件として一方的に俺だけが悪役にされる。


 あ、もう悪役か。


 会社の誰もがセクハラしたのはこの上司だって知ってるけど、我が身かわいさに誰もかばってはくれないし、俺も立場が違えば庇えるかは疑問だしな。

 営業だった俺は、先月久しぶりに大口の契約をとることを成功させた。だがその手柄は入社半年目の新人のモノとなった。


「キミは部下をかわいく思わないのかい。この契約だって彼女が君の隣で相手に微笑みかけたから取れたようなモノだろ」


 なんだその理屈は。


 新人の彼女は研修として俺の営業についてきていただけ、相手との交渉はすべて俺一人でやったものだ。それなのに、会社のデータでは契約を取り付けたのは新人が一人でやったことになっている。


 この元上司が勝手に変更したのだ。


「すごいねキミ、入社半年でこんな手柄をあげるなんて、将来有望だよ。どうたい今夜にでも仕事で役立つコツを教えてあげるよ」


 新人の中で一番好みの子だったのだろう。元上司は手柄を取らせたことを口実に彼女にセクハラをはじめた。そしてセクハラを会社のトップに訴えられた。


 この時はざまぁ、と思ったのだが。

 その罪を俺がかぶせられた。


 訴え方がまずかったようだ。どこか天然であった新人の子は、男性上司にセクハラをされていると、実名を避けた訴え方をしたようで、訴えを察知した上司が、男性上司の部分を俺の名前に差し替えられた。

 ほんとにあの元上司は書き換えだの差し替えだのだけはとてもうまい。


 こうして俺はめでたく、無職となった。


 先月の給料をもらったばかりだから、まだ今日明日で生活できなくなるわけでもないが、次の仕事が見つかるまで趣味のプラモはおあずけか。

 今日の帰りにでも新作を買おうと思ってたのに。


「ああ、むしゃくしゃしてきた。やっぱり一発は殴っておくべきだったか」


 そんなめでたくも無い帰り道。


「おめでと~ございます!!」


 当たってしまった。


 スーパーで夕食の割引弁当を買った時にもらった、今時珍しい商店街の福引券一回分。それで一等のペア温泉旅行券を当ててしまった。家のティッシュが少なくなっていたのでハズレのポケットティッシュでもいいやと思っていたのに、一等だ。


 ペア旅行券なんてもらっても一緒に行ってくれる相手なんていないけどね。一瞬、会社で世話をした元部下の顔が浮かんだ。セクハラの被害者で俺のやめる切っ掛けになった子でもあるが、彼女自身には責任はない、すべてあの元上司の企みだ。


 社会人なのに中学生と勘違いしそうなほどの童顔、それなのにスタイルは良かった。やる気はあったが、要領は悪く人付き合いが苦手で色仕掛けで入社したなどと先輩女子社員から陰口をたたかれていた。


 それなりに慕われていたとは思う。セクハラを庇ったこともあったし、それで目を付けられたのだが。あいつ、俺がいなくなって大丈夫かな、って俺の彼女でもなんでもないんだぞ、なにを上から目線で心配してるんだ。


「彼女と一緒に未知の体験をお楽しみください」


 だから彼女なんていないって!!


 と、ついつい心の中で叫んでしまったがせっかくくれると言うので断ることなく愛想笑いを浮かべながら受け取った。後半のセリフはよく聞いていなかったが、旅行券なら金券ショップで売れるかもしれない。


「旅行先についてはパンフレットに詳しく書かれていますので良く読んでから選択してください」


 選択ってなに。

 旅行に何を選択するのだろうか。


 アパートに帰った俺にお帰りと言ってくれる相手もおらず。ただスチールの棚に飾られた各種いろいろなプラモデルたちだけが無言で出迎えてくれる。

 俺の好きな事はアニメ鑑賞とプラモ作り、中でもロボットと美少女が活躍するバトル物が大好きだった。つまり二つを融合させたロボっぽいギミックを装着して戦うパワードスーツ系が大好物。


「今月、欲しい新作が出るのになー」


 往年のロボットアニメと美少女キャラがコラボしたオリジナルのプラモだったのに、あれ高いんだぞ、アレ5体でこの部屋の一か月分の家賃と同じ価格だったんだぞ。

 今月から収入がなくなることを考えるととても買えない。


「ちくしょー、やっぱりプラモの恨みを一発ぶち込んでおけばよかった」


 人を殴ったことなんて一度もないけどね。

 会社帰りの安物のスーツのまま、スーパーで買った弁当を食べながら当たったチケットを見てみると、一番に目に飛び込んできたのは『これぞ最強のカップル旅行、絆を育む永遠の旅にお出かけください!!』と書かれたうたい文字だった。


「だから相手がいないんだよ!」


 ビリッ


「あ?」


 つい、乱暴に扱ったらチケットが破けてしまった。


「しまった、これじゃもう売れないよな」


 売れるかはわからないけど、せっかくの臨時収入になるかもしれなかったのに、ついてないぜ。

 もう旅行券に興味を無くした俺は、チケットを放り出し夕食を再開すると。


『異世界移住の意思を確認、一時間後に転移を開始します』


「はい?」


 どこからともなく電子的な女性の声が聞こえてきた。


「まさか、このチケットが喋った?」


 声が聞こえてきたのは、俺が破いてしまったチケットだと気が付く、ただの紙が発光してる。


「こんな紙切れに機械でもついているのか?」


 俺は放り出したチケットを拾い裏返して見てもただの紙でしかなかった。しかし表に戻してチケットの名前を読んでギョっとした。


「異世界移住券、だと」


 下の隅に小さく書かれていた。俺が破いたチケットはペア温泉旅行券などではなく、ペア異世界移住券なるとても怪しいチケットだったらしい。


 何のイタズラだと思ったが、俺の足元に魔法陣が浮かびあがりイタズラではないと主張してくる。魔法陣の中から出ようと移動したら、移動に合わせて魔法陣も付いてきて足元から放れない。


 ご丁寧に、移住まで後59分と空中にデジタル表示までされている。


「冗談だろ」


 このチケットが本物なら俺は後一時間足らずで異世界に強制移住させられる。

 俺は慌ててチケットと一緒にもらったパンフレットを開く。


 異世界移住にあたって。


 このチケットの使用条件はすでに両親などが他界しており天涯孤独な方が対象です。(恋人は除外、そのためのペアチケットです)

 異世界への移住は夢が一杯、あなたの妄想が現実になるかもしれません。

 ただし元の世界に戻ることはできません。選択は慎重に行ってください。

 異世界の移住を決意された方はチケットをお破り下さい。一時間で転移が行われます。チケットを破いた後でのキャンセルはできません。

 移住にあたっての特典として、このパンフレットに記載されているスキル又はアイテムを三つお選びください。


 キャンセルできませんって。


「俺はもう異世界行き確定かよ」


 俺がこの世界にいられるのも、あと57分。

 会社からリストラ勧告を受けてるからって俺にもこの世界に未練が、未練が…………。


「あれ、けっこう未練ないぞ」


 昔、中学時代に両親は海外旅行へ行ったきり失踪していている。事件に巻き込まれたわけじゃなく貴族の位を買ったからこの国に永住すると手紙がきた。それからはどこにいるかもわからず、両親の戸籍は日本から消えたので天蓋孤独といえばそうなる。


 都会に憧れて東京の会社に就職したものの友達もできなかったし、当然彼女もいない。年齢イコール彼女がいない歴だ。

 趣味のプラモデルがもう作れなくなるのが未練と言えば未練だが。


「ん、待てよ、異世界ならもしかして」


 パンフレットの続きを読む、どうやら移住する先の世界は剣と魔法とちょっとした魔導科学がある世界らしい。


「この世界ならひょっとすれば俺の夢が現実になるかもしれない」


 パンフレットにスキルかアイテムを三つまで特典としてもらえると書かれていた。

 慌ててスキル覧をなめ回すように読む。鏡を見たらきっと目が血走っていただろう。


 そして。


「あった」


 俺の夢をかなえてくれそうな強力なスキルがのっていた。

 趣味のプラモデル製作も、夢がかなえられないと知ってからの代用の趣味であった。しかし本当の夢がかなうならもうプラモデルを作れなくなってもいい。


 俺は強制移住されそうになってから、異世界へ行くことを決意した。順番は逆になったがこの選択に後悔はない。


「そうと決まれば急いで設定しないと」


 パンフレットによると、異世界に移住するにあたって環境に馴染むために体が最適化されるらしく、ある程度なら設定を自由にできるらしい。

 デジタル表示の下のマーカーをタッチすると設定画面が現れた。


「年齢や性別まで変えられるのか、でも、それは後回しだ。時間が限られてる。スキル設定を先に決めるぞ」


 チケットを破く前に気が付いていたら、一晩はじっくり考えたかった。

 俺は百個以上あるスキルの一覧を睨みながら、熟考の末、ふたつのスキルとひとつのアイテムを選びだした。


『転移まで後一分です。お忘れ物にはご注意ください』

「何、もうそれしか無いのかよ」


 スキルとアイテムを選ぶだけでほとんどの時間を使ってしまっていた。


『お忘れ物にはご注意ください』

「えっと、異世界に行くのに必要なモノ」


 いくらスキルを貰っても手ぶらで生き残るのは辛い、パンフには転移がバレないように人里から離れた場所へ送られると書かれていた。

 俺が選んだスキルは戦闘用でない、なにか武器になるようなものは。


『転移まで後三十秒です。転移による衝撃に備え安全姿勢でお待ちください』

「ちょっと待ってくれ!」


 俺は慌てて部屋の隅に積まれていた段ボールをひっくり返す。

 記憶が確かならここにアレが。


「あった!」


 これで武器は何とか、あと必要なモノは。


「ヤベッ!」


 スキルとアイテム以外何も決めてなかった。体を作り換えるからどうのこうのと書かれていたはず、設定画面には、名前や年齢、性別などデフォルトのまま、何もいじっていない。


『転移まで後10秒、9、8……』

「ちょっとまってくれ!!」


 名前と性別を記入したところでタイムアウト。


『異世界移住転移、開始します』


 真っ白い光に包まれて、現代世界から姿を消した。












「ゴフッ!」


 俺は乾いた土の地面に叩きつけられた。

 ステータスの入力していた姿勢そのままに転移させられうまく着地ができなかった。もし岩とかの上だったら、それだけで異世界ライフが終わっていたかもしれない。


「ここが異世界か」


 どこかわからない森の中、太陽の光はあるが人工的建物は一切みあたらない。

 安物スーツに付いた土を払いながら立ち上がる。

 そこで気が付くのは、体が縮んでいることだ。


 入力できたのは名前と性別だけ、年齢などは間に合わなかった。たしかデフォルトの表示は十五才だったから、未記入の部分はデフォルトが反映されたのだろう。

 十五才の体か年齢を変えようと思っていなかったが、これはこれでいいかも肩コリがなくなり体が軽い、もともと自分の体だったからなのかそれほど違和感はしない。


 手には転移前に掴んだサバイバルナイフの模造刀、俺が魔物と戦って生き残るために選択した武器だ。他の選択肢は料理包丁くらいしかなかったけど。

 当然だがこんなおもちゃの武器では魔物など倒せるわけなどないが、それは俺が選んだスキルが役に立つ。


「変形!」


 選んだスキルがちゃんと使えるか試してみる。丸く刃物としては使い物にならなかった刃が、研がれた名刀のように鋭くなっていく、ためしに近くの草を斬りつけてみれば、何の抵抗もなくスパッと斬れた。


「よし、望んだスキルはちゃんと習得してる」


 ガッツポーズをとった。

 俺が選んだ二つのスキルは『変形』と『付加』。


 『変形』物質の形状を使用者の意思により変えられる。

 『付加』物質に望んだ能力を追加できる。追加できる能力は使用者のイメージ力に依存する。


「俺はこの二つのスキルを使ってリアルでパワードなスーツを作る。そして美少女に装備してもらうんだ」


 こうして、異世界での俺の野望がはじまった。

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