第34話 それぞれの取引

 シアのローゼンクリシュタイン城滞在中は、ほとんどが温泉についてアルフレッドとゼノやエイブラムの間を取り持つことだ。


 ゼノの一言でチーズをスイーツに使用するという目から鱗のチーズ活用法にアルフレッドが大層お気に召したり、温泉から出た後に飲む牛乳、正確には山羊の乳になるが、これにコーヒーやフルーツを混ぜるなどどんどんとゼノが提案していく内容をアルフレッドが採用してコックに試させたりした。


 今回の件で温泉以外にもゼノから聞く話で恩恵を受けたアルフレッドはお礼に自国で採れる質のいい魔石を贈ることにした。



『魔界の方が人族の国より魔石が多く出回るが、これほどの物は滅多に見ない』


 自分よりも魔界に詳しいチェスターにも画面の向こうに映る魔石を見せる。


 チェスターも感心し、興味深そうだったので会話に加えることにした。


「ローゼンクリシュタイン王国の山々はドラゴンの恩恵を受ける土地でもあるので。


 その姿を見ることはほとんど無くともこうして証明する物がある。それだけでドラゴンの住まう地であることは確かです」


『そちらの国は加工技術に優れていましたが、それは宝飾に限らず、武器や防具などもでしょうか?』


「大抵のものは。魔石を魔法石に加工することはそちらの方が上ですがね」


『なら、魔石とこちらで獲れる上級の魔物の牙や毛皮を取引したいのですが、どうでしょう?」


「魔石を魔法石に、こちらは武器や防具にといったところですか」


『技術の交換か。それはいいな。細かい作業は人族の方に分があるからな。』


『元々アルフレッド様もそれが目的で魔石を我々に提示してきたのでしょう? あなたの各国へと繋がる貿易手腕は魔界においてもお聞きしております』


「話が早くて助かる。そういうことなので、今後もよろしくしたいね」


 チェスターとアルフレッドの話は具体的に貿易の話に流れていく。後のことはチェスターに任せるとしよう。



 貿易を開始したらチーズも送ってもらおう。チーズケーキとチーズフォンデュが食べたい。


 時計を見ればお昼頃、お腹が空く時間だった。



♦︎




 アルフレッドの指示でコックは大量の試作品を作っていた。その大量の試作品の消費先はパールの胃の中だ。


 試作で困るのは消費だろう。完成するまで大量に作られたそれらを捨ててしまうのは勿体無いがそういくつも食べれるわけがない。味見は一回でいいのだ、後のほとんどはパールが喜んで食べた。コックたちも救世主と言わんばかりに喜んだ。


 そうしてパールとコックのタッグで試作品が余ることは考えずどんどんアレンジが加えられていく。


 通常の胃袋しかないシアは早々にギブアップして、パールを厨房に置いて腹ごなしに歩くことにした。


 そうして庭を歩いていてエメラインを見かけた。


 最終日は明日だ。シアは今まで晩餐会の時から一度も会えずにいたエメラインと会話をしようと、庭の東屋へと誘った。



「ユーフウェイル王国について知りたいのなら私でよければお教えしますわ。自国のことについて興味を持っていただけるのは嬉しく思いますもの。


 代わりに、私にも魔界のことやゼノ様について教えてくれないかしら」


「魔界については家から出たことがないからあんまり知らないけど分かる範囲でなら教えますが...父様のこともですか?」


「どんな性格なのか、どういうものを好まれるか、普段の過ごされ方など些細なことでもいいので教えて欲しいわ」



 シアの頭によぎったのはもしかしてエメラインは父様にーー



 シアは父様が大好きだ。ずっとシアだけの父様でいて欲しいけど、誰よりも父様に幸せになって欲しい。


 父様のことは本当の父様だと思っているが、元々は結婚もせずにシアを引き取り育ててくれたの

だ。


 父様が結婚ーー考えなかったわけではない。もし父様が結婚することがあれば二人きりの家族ではなくなり、今よりもシアにかける時間は少なくなるだろう。


 寂しいがシアの一番は父様だ。父様が幸せになるならシアは我慢できる。


 まずは自分の母になるかもしれない相手のことについて知っておこうと、先ほどよりもずっと真面目に向き合うことにした。



「父様に会ったのは晩餐会の時が初めてなんですよね?」


「ええ、そうですわ。あまりにもその...初めてのことでしたので緊張してしまい、お見苦しい姿を見せてしまいましたわ」


 シアはエメラインが父様に一目惚れをしたことは間違いないと悟った。


 あんまりにも父様が素敵すぎてびっくりしたんだよね。仕方ないよ父様はかっこいいもの。


 父様は強面だとよく言われているけどかっこいいし優しいし、一目惚れするのも無理はない。シアは同じく父様の素晴らしさを理解できる人が現れたことに嬉しさを感じていた。


 

 ここで訂正しておくがエメラインにとって次こそ協力してもらえるように相手のことを少しでも知っておこうという考えであり、黒持ちを見たのもあのように威圧するような態度を取られたのは王女であるエメラインにとっては初めてのことだったのだ。あまりにも顔と雰囲気が相まって恐ろしかったなどと娘本人には言えずに濁しただけである。



「何としても私は成し遂げたい。そのために協力が必要なのです。


 無謀で浅はかだと一蹴されるのは分かっておりますが、私は諦めたくありません。最後まで足掻いて見せるつもりですの。


 こうしてゼノ様の娘のあなたに情に訴えかけるのも卑怯であることは分かっていますが、私はなりふり構っていられないのです」



 恋をすると暴走するというのはこういうことかと思いながらシアはエメラインの熱い想いに打ち震えていた。


 こんなに父様を想ってくれるなんて、なんて素敵な人だとシアの好感度は一気に上昇した。


 あとは父様の好み次第だけどシアとしてはこれだけ父様を想ってくれているのが分かれば十分だ。


「あなたの想いはよく分かったので、私でよければ協力したいです」


「ほんとうですか...!」


「じゃあまずは...」



 その後ほぼ一日の大半を使ってシアは自慢の父様について語り続けた。頭に疑問を浮かばせながらも真面目な性格ゆえに真剣に話を聞くエメラインにシアの勘違いがさらに深まった。



 エメラインはなぜこんなにもシアの父様自慢を聞かされているのかと思いながらも、話からゼノがシアを大事に思っていることが理解できた。



 仲間思いで娘思い。


 エメラインにとってゼノが見た目ほど恐ろしくないのではと思い始めた。


 他にこの部屋に第三者がいればシアの話を聞いて洗脳されたものだとツッコミを入れただろうが、ここにはそんな者はいなかったし、それが真実である。



 身内を何より大事にする人で、好戦的ではなく何より仲間の安全が第一。


 そこに光明が見えて来た気がしてエメラインは希望を胸にする。



「シア、ありがとう。私あなたのおかげでもっとできることがあると気がつけたわ」


「力になれたのなら私も嬉しい」


「私、頑張るわね!」


「うん、私も協力できることは色々してみるね」



 さっそくアルフレッドと父様に聞いてみなくては。



 シアはエメラインの部屋を出てすぐにアルフレッドを訪ねた。


 明日の晩餐会の予定について話をするために。

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