第33話 強面は勘違いされやすい
例の娘の友人宅訪問の日がとうとうやってきてしまった。
初っ端からシアが温泉に入っているのにも関わらず通信を繋げるというハプニングがあったため、シアの初のお友達であるアルフレッドくんに渋くてかっこいいお父さんと思われるチャンスを失ってしまった。
友達の家に言ってお家だったり親や兄弟姉妹が素敵だったとき、遊びに来た友人が〇〇ちゃん家ステキ~と言ってもらえる存在になりたかった。シアが小さい時からいつか来たるべき日のことをシュミレーションし、シアの友人に『シアがいつもお世話になっているね』フッ、なんて渋い笑みを浮かべるような自慢のお父さん像を描いていたというのに。
これは名誉挽回のチャンス。
男友達の家だと言うことにはあえて言及しない。
他にも紹介したい者がいるとのことなので、今度こそ俺はシアの自慢のお父さんになれるよう頑張るのだ。
執務室の前でいつ来るかとソワソワし、襟を正したり、髪の毛が跳ねていないかシャツに皺が寄っていないか確かめる。
流石に落ち着きがない自覚はある。段々と座った目で俺を見てくるチェスターの方から目を逸らし、変な声にならないよう咳払いをする。
きた。
シアからの通信だ。
すぐに繋げると豪勢なシャンデリアがぶら下がる室内が映る。
アルフレッドくんはシアより年下なのだろうが落ち着き払っている。さすが一国の王になるには年齢など関係ないのか。俺にも上に立つ者の振る舞いを教えて欲しいくらいだ。
むしろ俺が友人になって色々教わりたいよ。
視界の端に初めて見る子がいた。女の子だ。アルフレッドくんが招待したのだからすでに俺のことは知っているはず。ぜひシアと友人になって欲しい。
アルフレッドくんがにっこり笑顔で歓迎してくれるが、笑みの中に含みを感じる。チェスターと同類のものを感じるな。
『ふ、あまり予期せぬような余興は好むところではないのだが、お手柔らかに頼むとしよう』
サプライズは心臓に悪いからやめてほしいと釘を刺しておく。
だが俺の言葉も虚しくエメラインと名乗った女の子がとんでもないことを言い出した。
『ほう? これは大した余興だ。驚きのあまり笑うこともできなくてすまないな』
驚きのあまりびっくりして声が若干震えてしまった。気づかれていなければいいのだが。
話を聞いていると父への反発だ。シアもいつか反抗期がくるのかな、と思いながら話を聞く。
興奮している時は口を挟まず全て言わせてあげるとある程度は満足する。前世のクレーマー対応のうちの一つだ。
愚痴も同様に、具体的なアドバイスやら口を挟むよりは黙って聞いておいた方がいいとは彼女持ちの友人の言葉だったか。
だが、別家庭の問題に他人である俺が首を突っ込むのもどうかと思う。
虐待とかされているなら介入できるけどな。
『......それだけか?』
「え?」
『協力を願う理由はそれだけかと聞いている』
国レベルの話に魔界に住む一個人がそもそも協力しろと言われても何を?という感じだ。
悪いが力になってやれないし話はこれで終わりだな。
通信を切り一息つく。
最近驚かされることばっかりだな。主にシアとシア周辺なんだが。
まあ子供ってそもそも何をするか分からないところがあるから、これも育児の醍醐味か。
まあ、いい話も聞けた。
師匠の形見の聖剣はやはりユーフウェイル王国が手にしていたようだが、肝心の勇者が見つかっていないと来た。
変装するなりなんなりして師匠の形見を貰うことができないかな。
こちらが手に入れさえすればそもそも魔界に勇者がやってくるかもという心配が減るのだ。
「チェスター、聖剣をこちらの物にするぞ」
俺の宣言にチェスターの目が楽しげに光る。
「ユーフウェイル王国から奪うので?」
「何を言う。師匠の物を弟子の俺が受け継ぐだけだ。それに、形見は元々師匠の娘であるシアが貰い受けるべきものだろう?」
その後部屋に戻ったシアから再度通信があり、話をすればそれならとシアが自主的に聖剣を貰いに行くことを願い出た。
そうして、父様から頼みごとをされるのは初めてだと張り切るシアを見て、確かにおつかいとかお手伝いを頼んだことはなかったなと思い返す。
こうしてシアの初めてのおつかいは聖剣となった。
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