第14話 ワガママは子供時代の特権

 約束通り翌日になったため子供たちの元へと向かう。


 あの後ファルルが心良く引き受けてくれたようで、その時の様子では子供たちはずいぶんとおとなしくファルルの言うことに従っていたようだ。


 それも考慮して子供たちの手当てのため、今は場所を移し空き部屋の一室にいるらしい。


「邪魔をするぞ」


「どうぞ」


「ゼノ様だー!」

「ゼノ様、おはようございます」


 ファルルの声を受けてドアを開けると、マーシェが元気よく出迎えてくれた。

 アーキスも静かにお辞儀をして朝の挨拶をしてくれる。


 ファルルだけではなくアーキスとマーシェも来ていたようだ。


 部屋の様子を見るに、昨日の子供たち三人とファルルたち三人で朝食を食べていたみたいだ。

 わずかな時間で仲を縮めているのを見るにファルルに任せて正解であった。


 アーキスとマーシェという同じ子供がいたのも大きいだろう。


「怪我の具合はどうだ?」


「そんなに大きな怪我もないようで、食事もしっかり食べれていましたし、そんなに心配せずとも大丈夫そうですよ」


「そうか。


 ならさっそく本題に入ろうか」


 さっと姿勢を正す三人に手を挙げて制す。


「楽にしたままでいい。


 昨日提案した通り、ここに残るもよし。人族たちの元へ戻るもよし。提案したのはこの二つだが他にもたくさん選択肢がある。

 ここでは君たちを縛るものは何もない。

 

 今後自分がどう生きるかは自由に君たちが決めることだ。


 君たちはどうしたい?」



 俺の声にすぐに答える者はいなかった。


 無理もない。


 まだ幼い彼らに今すぐ今後の人生を左右する事柄を決めろだなんて無理な話であったのだろう。


 自分がこの頃には身の振り方を決めていたとはいえ、俺には前世の記憶があったことを忘れていた。



「あの...」


 突然声を上げたのはアーキスだった。


「アーキスか、どうした?」


「さっき話していたときに、自分たちもここに来たばかりで手持ち無沙汰なので、マーシュも含めここで強くなるため鍛えてもらうことにしたって話をしていたんです。


 ここには強い方がたくさんいますから、少しでも教わることができたら自分のためになると思って。


 それで三人も強くなりたいって言っていたので、ゼノ様さえ良ければ三人とも一緒に学ぶことはできないでしょうか?」


「待って! アーキスの気持ちは嬉しいけど、俺らそこまでしてもらうわけにいかないよ!」


「魔族は悪いやつって思ってたけど、他の人たちよりずっとここに来てからの方が良くして貰った。


 これ以上迷惑はかけられないよ」


「......」


 アーキスの言葉に次々と遠慮の言葉が続く。

 三人のうち、少女も話さないながらに迷惑だと思っているらしく、他二人の言葉に同意のようで頷いている。



「まったく......子供が遠慮するな。


 そもそもこちらからこの城に残っていいと提案しているんだ。迷惑なら最初から言っていない。


 そんな様子ではチャンスを逃すぞ。


 昨日も言った通り俺も黒持ちだ。だからこそチャンスを逃さないよう、黒持ちだからということを理由に遠慮も諦めることもせずに生きてきた。

 そうしてきたからこそ魔法を学び魔界に来て、今こうして生きている。


 もしあのまま何もしなかったら、今より良い境遇ではなかっただろうことは確かだ」


「じゃあ、俺、オヤジみたいに強くなりたい!


 ただ逃げるしかできない弱いままは嫌だ。

 

 悔しくってしょうがないよ!


 あのとき俺にもっと力があればオヤジを助けれたかもしれない! みんなを守れたかもしれなのにって!!」


「僕もだよ!


 もっと強くなりたい!

 黒持ちだからってやられっぱなしは嫌だ!!」


 少年たちの意気込みと共に少女も握り拳を作っている。


 全員やる気はあるようだ。



「いいだろう。


 それでは全員ここに残るということで相違ないな?」


「「はい!!」」「......!」



 部屋はこのままここで使ってもらうことにしよう。


 最初は心細いだろうから三人共同じ部屋で、そのうち様子を見ながら個室を与える形でいいだろう。



「アーキスは鍛えてもらいたいということで、誰がいいなど要望はあるのか?」


 そういえばカインに憧れていたのだったか。

 だとすると希望はカインだろうか。


「カイン様に憧れはあるのですが、自分はカイン様のような闘い方には向いてないと思います。

 マーシュもカイン様に教われたら喜ぶでしょうが、闘い方が合うのかどうか...」


「カインは理論というより感覚派だからな、確かにアーキスには向いていなさそうだ」


 カインは野生の勘みたいな完全感覚派なので、誰かに教えるのには向いていないタイプだ。


 同じ感覚を持つ者であればカインの教え方でも通用するかもしれないが、まず大半は無理だ。



「一度全員適性を見るのはどうだろう?


 この城では新しく入った者や強くなりたい者たちをまとめて鍛えている取り組みをしている。


 そこではまず最初に自分の得意不得意を理解するため適性試験を行っているから、そこに全員参加してみるといいかもしれないな」


「そんなものが...そうですね、ぜひそうしてみます」



 他の皆も納得しているようだ。



「では君たちを鍛えてくれるよう担当の者へとこの話はつけておく。


 この後裏庭の方へと向かうといい」



 新人の面倒を見てくれているのは部下の一人でハミルトという男だ。


 彼も古参の俺の仲間である。


 カインが感覚で闘う何でもありの戦闘スタイルであるとすれば、彼は理論的に攻略していく戦闘スタイルだ。

 無駄なく卒なく闘う姿は見事なまでに洗練されたものである。



 本人は無口で真面目な男で、個人主義の魔族に珍しく集団をまとめ上げるのが得意だ。


 面倒見が良く彼を慕うものも多い。

 


 俺との出会いも、俺が困っているところを彼が助けて貰った形だ。



 久しぶりに俺もハミルトのところに顔を出してみることにしよう。

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